10-3 依頼
白ガキと依頼の話をする。
白ガキは珍しく、目を泳がせながら逡巡するように口を噤む。
「なんだ?」
「いや、どこからどう話したものか、少し悩んでね」
「珍しいな。というか、呼び出す前に悩めば良かっただろうが」
「確かにね。いや、実際に話すとなると緊張するなんて、甘酸っぱい思い出が君にはないのかい?」
「……」
こいつに普通の人間としての感情があるのかは大いに疑問だが、早く話してもらうために口を噤む。
「……君は、キュレス帝国の家に転移していたよね。何か聞いたかい?」
「ん?」
思わぬ角度から質問が入った。
「いや、家に転移して、すぐ戻って来たし。何かあったのか? 大事件ならジグが話してきそうなもんだが」
「ふむ。いや、まだ情報が届いていないのだろうね。というか、公開されていないと言う方がおそらく正しい」
「ふむ?」
「少し前、キュレス帝国は周囲の国々と戦争状態に入った」
「……ほう」
帝国になってから周辺国との関係が悪化し、それから内戦はあったものの戦争状態にはなかったはずだ。
だが、ついに戦争に踏み切ったのか。
それにしても、こいつがそんな俗世の争いをそこまで気にするのは意外なのだが……。
「相手はどこだ? 国々ということは、1つじゃないんだろ」
「今のところエメルト王国、ズレシオン連合王国、ソラグ公国の3国だね」
「ほう……ん?」
ソラグ公国って、西にある国だったよな。
キュレスとは比較的仲が良いという話じゃなかったか。
「ソラグにも侵攻したのか。容赦ないな」
「いや、そうじゃない」
白ガキは頭を横に振って否定する。
「まずソラグ公国がキュレス帝国に侵攻し、次いでズレシオン連合王国、そしてエメルト王国と拡大していった。キュレス帝国は攻撃を受けている方さ」
「……なんと」
そっちか。
しかも最初に侵攻してきたのは、仲良しのはずのソラグ公国と。
「戦況は知ってるのか?」
「詳しいことは知らないよ。でも、何人かの情報提供者から、少しだけ情報は入ってるんだ」
情報提供者、つまり転移させた者か?
そういえば一度行動を共にした転移者のミホも、キュレスとソラグの中間にある独立都市にいたっけ。
「それで?」
「キュレス帝国は国境の砦を喪失して、総撤退しているようだよ。撤退というか、敗走と言った方が正しいのかもね」
「……ほう」
おいおい。
それで南北のズレシオン、エメルトも便乗してきたか。
キュレス帝国、終わってないか? これ。
まあそれは良いのだが、戦火がオーグリ・キュレスまで及ぶと他人事じゃなくなってくるな。
「意外かい?」
「まあ、そこら辺は良く知らないから、何ともな。しかし、何だってそんな情報を俺に?」
まさか、争いを止めろとか無茶ぶりしてくるんじゃないだろうな。
「うん。破竹の勢いで進撃しているソラグの軍勢だけどね、その中に『渡り鳥』って一団がいる」
「一団? 傭兵団か」
「それに近しいけど、それだけじゃない。彼らは主にソラグ公国への移住者で構成され、互助組織をうたっている。表向きはね」
「表向きは?」
「そう。それだけなら僕が気にする必要はない。でも、裏では色々やっているみたいでね。僕に関係するところで言えば、公王の支援を受けて転移者を集めている組織、と言えばピンと来るかな」
「ああ! あったな」
ニンゲン嫌いのトカゲ顔ことヨルに忠告されたっけな。
公国には気を付けろと。
「それでね……」
白ガキは、また少し言い淀んだ。
さて、ここから本題か?
「僕の依頼はね、ヨーヨー。彼ら『渡り鳥』の力をなるべく削ぐこと。できればリーダーを排除してね」
白ガキは一気にそこまで言うと、ゆっくり息を吐いた。
「あ? 暗殺の依頼ってことか?」
「暗殺である必要はない。最優先は彼らの活動を止めること。リーダーを排除する方法も、まあ、君に任せる」
「殺さなくても良いって?」
「……まあ、そうだね。できれば殺してくれるのが、一番良いかもしれないけど。僕からは強制しない」
「殺すのがアリなら、お前がやった方が早いんじゃないか?」
「うん。君がそう思うのも無理はないけど、その手は使えない」
白ガキはまた話を区切って、下を向く。
「……君も気付いてはいるだろうけど、僕は君のいる世界に深くは介入できない。縛りが多いんだ。きっと君の思っている以上にね」
「だから俺にやらせようってか」
「そうなる」
「他の転移者にも依頼するんだろう?」
「いや……依頼しないことはないけど、ここまで情報を明かして何かを頼むのは君だけだ。皆しがらみが多いし、能力的にも厳しい」
「おいおい。俺だって、どこかの組織を敵に回して戦うノウハウはないぞ」
「そうだろうね。ただ、戦いのセンスはあるようだ。幸か不幸かね」
「……確認するが、俺には断る選択肢があるんだよな?」
「そのとおり。これは僕の善意というより、君が任意で引き受ける必要があるからそうするだけで、そこは安心して良い。僕の言うことが信じられるなら、だけどね」
信じるも何も、白ガキが信じられるかなんて分かりっこない。
ただ、何かしらの事情で「お願い」しかできない状態であるのは、かなりの確率で正しそうだ。
最悪、俺や従者たちを何かで脅してやらせる手がいくらでもありそうだが、それをしないのだから。
「……何故それをやるか、は説明してくれるのか?」
「うん、そのつもりだよ。だからこそ、柄にもなく迷っているのさ」
「うん? 依頼自体より、その背景説明の方が問題なのか。何故だ?」
「……これは本来、明かすべきものではないからね。でも、ここまで来たら仕方ないね。僕の本体も腹をくくっているし」
「良く分からんが……まあいい。話せるところまでは話してくれ」
「そうだね」
白ガキは少し考えを整理するように、沈黙を挟んでから話し出す。
「君にこれを依頼する理由はね……世界のためだよ」
「は?」
世界、ときたか。
俺のなかのうさんくさメーターが跳ねあがる。
「君にも何度か話したことがあるよね。君をはじめ転移者たちは、世界の中で異質であると。それゆえに他の転移者と交わることはなるべく控えておいた方が良いんだ」
「もし、それを破るとお前が慌てる位の何かが起こるってことだよな?」
「世界が破滅する、かもしれない」
「かもしれない?」
「うん。僕だって神じゃないんだ、何が起こるかなんて知りようがない。ただ推測するだけさ。君たちが科学として行っている営みと同じさ」
「……ふむ。何故世界が破滅すると?」
「異質な存在が、本来ありえないような多大な存在感を発揮したとき、世界がどうなるか分かるかな?」
「さっぱり分からん」
「そう、正解だ。もちろん答えは分からない。何が起こるか誰にも分からないんだ」
「もしかすると世界が破滅する?」
「その可能性はある。そして、そこまでいかなくても、悪い影響が出る可能性はある」
「悪い影響ってのは、たとえばどういうことなんだ?」
「ううん、難しいけどね。急に氷河期になるとか、大陸が1個吹き飛ぶとかそんなことかもしれない。あるいは、どこかで誰かがくしゃみをするかもしれない」
「くしゃみ……」
「誰かが余計にくしゃみをするくらいなら、別に何も問題はないよね。でも、それで済む保証もない」
……。
「そんな未知数なことがあるなら、お前はなんで転移者なんて作ったんだ? 壮大なマッチポンプにも思えるが」
「僕が転移者を送ったことは、この件に関してはマイナスでしかないね。それは認めるよ」
「他に狙いがあるから送ったってことか」
「そんなとこだけど、仮に僕が転移者を送っていなくても、同じような問題は出ただろうね。彼は僕が送ったわけじゃないから」
「彼?」
「リーダーさ。『渡り鳥』のリーダー、ワタリ・ド・ウルテンス」
そいつが「消す」対象か。
「何者だ?」
「まず間違いなく転移者だと思う。ただし、自然転移だろうね」
「お前は関わっていないってことか」
「うん、少なくとも僕は関わってない。転移した後に少し関わったことはあるけどね」
「ほう。ん? 確か公国の転移者たちは、お前を敵視してるんだったか?」
「そういう人もいるみたいだね」
「お前がなんか、余計なことでもしたか? そのワタリってのに」
「そうかもしれないけど、自覚はない。本当にね。友好的な接触しかしていないし、何か影響を与えるほど慣れ合ってもいない」
「ふぅん? お前が無意識で他人の神経を逆撫でしたとか、ありそうだけど」
「否定はしないよ。特に、ワタリと接触したのは最初期だったから、僕は人間の機微を理解していたとは言えなかった」
なんかやらかしてそうだな。
そのせいでこの世界が破滅の危機に瀕しているとかだったら、マジで勘弁してくれよ。
「もし……もし俺が断って、他のやつらも使えなかった場合、どうなるっていうんだ?」
「さて、ね。ここは誤魔化したいけど、素直に言おう。何も起こらないかもしれない。彼らを放置したとしても、世界に影響はないかもしれないし、影響が出ても君にはかかわりがないかもしれない。ただ、世界ごと破滅する可能性もあるっていうだけ」
「破滅ってのは、さっき氷河期とかくしゃみとか言ってたが、世界が急に氷河期になる以上のこともあり得るってことなのか? 例えば、この世界ごと弾け飛ぶとか」
「そうだね……最悪、そういう可能性もあるね」
「マジかよ」
ちょっと否定してほしいと思いながら尋ねたんだけど。
破滅ってレベルじゃねーぞ。
「あるいは魔物が今と比べてずっと多く出て来るようになるとか、宇宙から招かれざる敵がわんさか来るとか、そういうのもあるかもしれない。でも、何もない可能性も高い」
「何かが起こる可能性としては何%くらいなんだ?」
「……何かが起こる可能性が、そうだね、多く見て15%くらいかな? かの『渡り鳥』が今後も活動を拡大させていって、まずい行動を取り続けたらだけど。本当に世界が破滅するような出来事とか、君が死んじゃう可能性があるような相当大きな事故が起こる可能性は、さらに低いね。数%もないだろうし、1%未満だろう」
なんだと。
「1%のために無茶をしろと?」
「そうなる。何か事が起こる可能性だけでも、15%。対処しても、10回に8,9回は完全なる徒労に終わるだろう。君はそれに賭けても良い」
なんだそれは。
15%のくじを強制的にひかされて、何も起こらないことを祈るか。
自分で15%の芽を摘みにいくか。
クソみたいな罰ゲームじゃねぇか、聞かなきゃ良かった。
「ここで話したことは、特に世界の話うんぬんは、君から君以外の誰かに言うことは許されない。だから、君は称賛されない」
「!」
「君は、たとえ可能性が低いとしても、世界の破滅を防いだ。そうなれば、間違いなく英雄と呼ばれても良いはずだ。でも、君を英雄と呼ぶ人はいないだろう。人知れず世界を救っても、誰にも称賛されないまま君は生きる」
「おいおい。やる気を削ぐつもりかよ? 受けて欲しいんじゃなかったのか?」
「もちろん受けて欲しい。でも、こればかりは君自身が選択する必要があるんだ。だから話した」
くっそ。
もっと理不尽な扱いをしてくれりゃ、こっちも八つ当たりできるってのに。
少なくとも表面上はフェアで真剣なのが質が悪い。
「僕としてはここまで話した以上、君に受けて欲しい。でも、君に断られるなら、そこまでだとも思ってるんだ」
「……」
「僕があまり干渉しすぎてもそれはそれで問題が起こる。確かにこの世界が破滅するのは避けたいけど、そのためにそれ以上の危険を冒すのは意味がない。分かるかい?」
「俺にこの依頼をするのが、お前の立場で可能な、ギリギリな線ってことか?」
「そういうことだね。本来なら、僕の立場でこの依頼もすべきじゃないんだ。それでもこの話を君にしているのは……何故だろうね。僕が持つべきではないものを持ってしまったからかもしれないけど……それだけじゃないね。多分どこかで、君たちへの愛着のようなものを感じてしまったのかもしれない」
「愛着、ねぇ」
「別に僕の気持ちを理解してもらおうとは思わないけどね。僕らの価値観なんて、君に理解できるものでもないし」
「……」
はぁー。
今度はこっちがため息を吐く番だ。
「大事なことを聞き忘れてた。真っ先に聞くべきだったな」
「ん? なんだい」
「報酬は? 依頼なんだから、報酬はあるんだろう?」
白ガキは少し笑ったように見えた。
それから小さく頷いた。
「そうだね、それは大事なことだ。まず、引き受けてくれるなら今後、より転移や情報面でのサポートを強くしよう。情報はこれからも全てを話すというわけにはいかないが、そっちの世界の話であればある程度融通しよう」
「サポートねぇ」
「それと、もし依頼遂行中に君が死ぬようなことがあれば、君の仲間たちは僕が責任をもって安全な場所に転移させよう。そこからのことまで保証することはできないけどね」
「ほう、それはありがたいが……」
悪くない話だが、報酬としては弱い気がする。
「早とちりしないで欲しいんだけど、今のは引き受けてくれた場合の対応で、報酬ってわけじゃない。もし『渡り鳥』の弱体化に成功したら、その内容に合わせて僕がちょっとした道具を譲り渡そう。僕の持っているもので、君からしたら魔法の品に見える類のものさ」
「……あの、転移装置みたいなやつと同じようにか?」
「そうだね。そっちの世界で使っても問題なさそうなものを見繕って渡すことになる。加えて、もしリーダーのワタリを殺すなり、無力化するなり出来た場合だけど」
「……出来た場合?」
「君に借り1つとしよう」
「ほう」
「君にこれを言うのは、ちょっと怖いんだけどね?」
「……」
こいつに貸し1つか。
要は俺のお願いを1回は聞いてくれるってことだよな?
こいつがその約束を守ることが前提になるが、実現するならそれなりに大きいな。
「もちろん、貸しを使ってもできないことはあるってことだよな?」
「そうだね。あくまで僕ができて、そっちの世界に影響がないようなことだね」
「世界への影響か。何がダメなのか難しいな」
「とりあえず言ってもらって、ダメだったらそう伝えるよ。悪いけど、そこは譲れないところがある」
「そうか」
報酬の話は、良いのか悪いのか判断できんな。
大きい気もするが、白ガキの気分次第で無下にもできそうだ。
まあ、それを言ったら何を報酬にされてもそうなのだが。
「……もし俺が断ったら、諦めると言っていたよな? その場合はどうなる」
「何も。ただ、まずい兆候が確認されたら、僕は君のいる世界から手を引かざるを得ないね」
「何? いなくなるのか?」
「まあ、そうなるね。悪いけど、あの船は残していけないな……壊す前に、君の転移装置を別のところにつなぐくらいしてあげたいけど」
「探査船が使えなくなるのか!?」
世界とか、報酬とか。
そんなことよりそのデメリットの方がデカい気がするんだけど?
「悪い兆候が確認されたら、だからね。君が何もしなくても、何もなければ問題ない。万事今まで通りさ」
「ううむ、そうか……ううむ」
何かが起こる可能性が15%。何もない可能性の方が高いのだ。それに加えて、白ガキが逃げざるを得ないようなことが起こる確率というと、ずっと低いのだろう。
だからスルーするのかと考えると、どうかというところだ。
結局世界の破滅の芽を摘むべきか、というのと似た構図だな。
「引き受けて、無理だった場合はどうなる?」
「いや、それも何もないよ。ただ、君が遂行する気がないのだと判断した時点で、そういうものだと判断する。そうなると君をフォローすることもなく君のいる世界から消えることもある。できれば諦めた時点で、そう言ってほしいね」
「なるほど。確認するが、引き受けたからって成功させる義務はないってことだよな?」
「まあ、そうなるね」
それなら、ひとまず受けておいてから考えるってのが無難ではあるか。
しかしなあ。
一度引き受けたらその実、色々と面倒ごとに巻き込まれそうな予感はある。
どうするか。
目頭を押さえてソファーにもたれかかる。
その直後、頭痛がして思わず呻く。
「ぐっ……」
「ん? どうしたっての?」
まるでぎゅうぎゅうに押し込まれた紙が剥がれ落ちていくように、あるいは紐解かれていくように。情報の洪水。
これまでの白ガキの言動と、転移した後に出会った色んな人のイメージが脳裏に浮かび、そして消えていく。
この感じ。
「ぐっ、くそっ! いってえな!!」
「本当に大丈夫? この空間で変な病気とかにはならないはずだけど」
「……」
もし仮に、本当に白ガキでないとすると。
この感じはやっぱりあれか。
「天啓」スキルか? まさか。
多少は痛みが引いた頭を働かせ、片目を開けて掌で火魔法を発動するイメージをしてみる。
小さな火の玉すら創れない。
「ここはスキルの力は及ばないんだな? 間違いないか?」
「あー、多分無理だと思うけど。スキルシステムは僕の理解を超えるものだから、何とも言えないね。どうかした?」
あの世界で発動するスキルが使えるわけではない。だが、スキルの影響はここにも及ぶ?
前よりも衝撃が少ないのは、この空間ゆえか?
いや、それよりも、もし本当に「天啓」だとしたら。
俺に、何かを伝えようと?
「ヨーヨー、君は」
「……白ガキィ!」
まだ頭がズキズキする気がする。ちくしょうが。
手で頭を押さえながら声を張る。
「!」
「1つだけ答えろ! これに関してはごまかしも嘘も言うな!」
「……なんだい?」
「今、お前は、俺に何もしていない、そう誓えるか?」
「うん、してないよ。少なくとも君が突然苦しみだして、急に怒り出した原因にはまるで心当たりがない」
白ガキの策略で何かをさせようとしたのなら、まだ訳が分かる。
だが、ここまで過剰に俺の自由意思を尊重しようとしてきた白ガキが、急にこんな脳ハックみたいなことをしだす理由はまるで思いつかない。
では、もしスキルだとしたら。
この世界のシステムを司る、神、あるいはそれに近しい何かが、天啓スキルを通じて、白ガキすら予測していなかった介入をしてきたなら。
おそらく動機は、こうだ。
白ガキの言っていることは本当だと。
俺に受けろと。そう伝えて来ているのだ。
流れ込んでくる情報は、今までの白ガキの言動。
そして俺が見聞きしてきた色んなものが凝縮された何か。
そこには、転移先の世界で出会ってきたさまざまな人々の姿もある。
「……くそったれ。お前も、スキルの神とやらも、俺みたいなのによお……泣きたい」
こちとら、生まれた世界では普通の人生すらドロップアウトして、ニートしてた身だぞ。
自分で始めたことすらうまくいかず、最後は仲間だと思ってた奴等にも捨てられて……。なんで異世界で、世界を救うなんてことになるのか。
本当はあの部屋で俺は死んでいて、これは俺の下らない妄想の世界だとか?
「ヨーヨー。聞かせてくれるかい? 君に、スキルの神から何か干渉があったのかい?」
目を開ける。
白ガキは、今まで見たことないような困惑顔だ。
ふっと笑いが漏れる。これが妄想なら、俺を転移させるのはもっと美人で、慈愛にあふれた女神にしたことだろう。それがどうだ。
「秘密だ。俺にもその権利はあるだろう?」
「……参ったね」
別に隠したいことがあったわけじゃない。
せめてもの意趣返しだ。
「……受けよう。ただし、やり方はこっちに任せてもらうぞ。それに、どうしようもなさそうなら諦める」
「うん、それで良いよ」
白ガキは手を差し出した。
「……」
俺はこの空間でおそらく初めて、その細くて白い手を取った。
ひんやりとしている。
「それで、何から始めるべきかね」
ミホのところに転移するか。
あそこなら前線にも近いだろう。
「最初にパンドラムに転移するのはおすすめしない。あそこは既にソラグ公国に占領され、厳しく監視されているからね」
「ああ、なるほど……」
「僕としては、まずはキュレス帝国内で情報を集めることをおすすめしたいね。ソラグ公国側として参戦している『渡り鳥』の構成員と戦うなら、キュレス帝国側として戦う方が良いだろうしね」
「そういえば、エモンド商会の会長から話があるってことだったな……開戦のことが関係しているか」
「可能性はあるねぇ」
「まずは会ってみるか」
白ガキは「渡り鳥」の情報をそれほど知っているわけではないようだ。
それでも知っていることをいくつか教えてもらい、目を覚ました。
ちょっと忙しくなりそうだ、やれやれ。
怪獣退治の次はこれか。





