9-40 友達
滅んだ里で魔物に襲われ、ラキット族と出会った。
出会ったラキット族のラリーは探していた隠れ里の狩人だった。
ラリーがモク家からの交渉案を持ち帰る前に、ラキット族の隠れ場所に案内してもらう。
ラリーは俺が隠れ里の賢者衆と交わした約束は知らないようだったが、アカイトの証言と隠れ里で貰った木片を見せることであっさり信用してくれた。
信用された身としては複雑だが、やっぱり心配になるなラキット族は。
ラリーは俺たちが来た方向に迷わず進んで行き、大木の前で立ち止まる。
気のせいかもしれないが、来るときも見かけた気がする大木だ。
その幹をとんとんと叩くようにすると、パカッと地面に穴が空いた。
武装した大人の人間でも辛うじて通れるくらいの幅はある。
「……入り方があったのか」
「ここは人里が近いので、やや特殊な隠れ場です。アカイトは知らなかったので?」
「面目ござらん!」
アカイトが活動していた方面ではこういうギミック付きの隠れ場はなかったらしい。
「しかし、不思議な装置だな。機械ではないんだよな……?」
「キカイ? 魔物の素材を使っています」
特殊な魔物素材を使って、叩くと一時的に縮こまるように設計しているらしい。
そういうところは本当に器用だな、ラキット族。
「しばらくすると戻ります。もし挟まれても柔らかいので、危険はないのです」
「ほお、便利だな」
さっそく潜るようにして隠れ場の中に入る。
中に入ると、存外広い空間が広がっている。
俺たちパーティが全員入っても余裕があるだろう。
やや湿り気があるが、不快なほどではない。
日光はあまり入ってこないが、赤くキラキラと光る苔のようなものが天井から中を照らしている。
天井は立って上に手を伸ばすと簡単に触れてしまう程度だが、立てないほどではない。
ずっとここに入っていろと言われたら窮屈だが、寝場所として使う分には人間族でも不便はない。
家具などはないが、空間の中央には紐のようなものが垂らされており、紐に結びつけられた木片のようなものがある。
「これは?」
「聖域の魔道具ですな。籠めた魔力に応じて発動します。といっても魔物が避けてくれるようなものではなく、少し見つかりにくくなるのと、湧き点にならないようにするだけらしいですが」
「ほおー、認識阻害のうえに湧き点にならないのか。それだけでもかなり価値があるんじゃないか?」
「籠める魔力に比べると、微々たる時間ですからね。それほどでもないです」
「そうか」
いや、ラキット族以外に持っていけばいくらでも使い道がありそうな魔道具なのだが。
こいつらは素で魔物に狙われにくいので、こういう道具に対する評価が低いのかもしれない。
「とはいえ、魔道具を取らないで下さいね! それと、天井の光草も」
「ああ、もちろんだ」
「拙者が請け負うぞ! 我が殿はそのようなケチ臭い真似はせん。何せ金貨……もごもご」
アカイトが余計なことを言いそうだったので、口を塞いでおく。
今はたまたま使い道が限られていて、現金が結構ある。西方のものも、キュレスのものも。
だが金があるなどと喧伝してもロクな事がないだろう。
ラキット族だけならあまり邪な者もいないかもだが、こいつらは無邪気に他の種族に言い触らしかねん。
「ラキット族とは助け合いの精神でいきたいのでな、変な事はしないぞ」
「それは助かる! ヨーヨー殿たちのように強そうなヒトたちが助けてくれるとは」
「ほう。どこが強そうだと思ったんだ?」
「見た目です!」
即答される。
自分の装備を改めて見る。
手足は黒い武具で、多くの傷が付いた胸甲。
頭は自分で見られないが、ナイスマスクだ。
「そうか」
「まるで昔話に登場する悪人のようです!」
「……見た目はな?」
「ええ、ええ。見た目は」
ラリーと心温まる交流をした後、彼は仲間の元に旅立っていった。
俺たちはこの隠れ場を拠点にして、しばらく休憩することになった。
いかにラキット族謹製の隠れ場だとしても、魔物に気付かれないとは限らない。
油断することはできんな。
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ヒマだ。
最初は赤く細い光に慣れなかったが、慣れてくるとなかなか居心地が良い。
アカイトはシャオに乗って何度か偵察に出たが、はぐれ魔物を見たくらいでこちらに向かってくる影はない。
非加熱の飯にも飽きて一度外に出て里の跡地で煮炊きをしたが、その時も魔物は寄って来なかった。
ヒマだからといって、魔物討伐とか、何か余計なことをする気にもなれない。
少数で鉢合わせる可能性が低いといっても、もしかするとあの巨大な魔物ガルドゥーオンと遭遇するかもしれないのだ。
それより、隠れ場で魔法やスキルの練習をしながら過ごした方が安全で、意義がある。
頑なに入り口を監視するキスティもヒマそうにあくびをするようになった頃、小さな気配が入り口から木を叩いて入って来た。
ラリーと、もう1人。シマシマ模様の小さなラキット族だ。
「お待たせした! 元気そうで良かった」
「ああ、この場所のおかげでな」
「シマやん? シマやんではないか!」
シャオの上でうたた寝していたアカイトが飛び降り、縞模様のラキット族の方に駆けていく。
「ああっ!? 本当にアカイトじゃ~ん!」
シマやんはアカイトとガッチリ抱擁……するのではなく、手と手、尻尾と尻尾を叩きつけてロックな挨拶をした。
「友達か?」
「うむ! シマやんは拙者を応援してくれた良いヤツだぞ!」
「応援? 最強の戦士になるってやつか」
「ああ!」
変な夢を笑わずにいてくれた友達ってやつか。
「しかし、シマやんが何でここに!?」
「いや、シューマッハは狩人見習いでしてね。今回、アカイトがいるという話を聞いて付いてきたのです」
シマやん、名前はシューマッハって言うのか。
……渋いな。
「おおお、狩人見習いになったのか! すごいな!」
「アカイトこそ、ニンゲンに付いて行ったって本当だったんだね~。思ったよりヘンテコってか、黒くて大きくて悪そうなニンゲンだけど!」
「むむ、価値観は種族によって異なるのだ、あれは人間族の中ではカッコイイのだと思うぞ?」
「……」
別に黒くて大きいイコールカッコイイなんて価値観は人間族にはない……ヒトによるか?
まあ、俺は別にそうでもない。
「ラリー、それで? 返事はどうだったんだ?」
「それでしたな! これをお読みくだされ」
「ほう? どれどれ」
ラリーが差し出した赤茶色い紙を受け取る。
赤茶色い紙面に、黒字で文字が書かれている。
何で書かれているか良く分からないが、鉛筆などではなさそう。
書かれていたのは、モク家の条件を受けるというもの。
ただし、交流については少し考えるとされている。
「……交流というのは? そこだけ保留するような内容だが」
「北にあるという同族との交流ですな! 何やら考えがあるようですね!」
「ふむ。ラキット族同士の交流か。まあ、それは好きにしてくれ」
モク家には何か狙いがあるのかもしれないが、俺にはあまり関係がない。
それ以外の内容でいうと、ざっくり言うと相互の協力というのがモク家の提案だ。
モク家はラキット族から情報を貰い、立ち水の里周辺の魔物討伐に力を貸す。
そして周囲の危険が去った後、ラキット族に穀物類を融通するという内容だ。
要は滅んだ立ち水の里たちがラキット族と協力していた内容だ。
これまで隠れ里のラキット族たちがモク家と直接交流してこなかった理由は知らないが、今なら乗ってくるというモク家の狙いは当たったのだろう。
モク家の英雄である婆さんの狙いが当たったことに感心していると、ラリーが更に別の紙を差し出してきた。
「ん?」
「これはヨーヨー殿個人へのお手紙です!」
「……誰からだ?」
「賢者衆からの、でしたような?」
ラリーが首をひねる。
紙を広げてみると、なるほど俺個人へのメッセージだ。
今回は俺の顔を立ててモク家の誘いに乗る。
しかし今後も協力していきたいのはどちらかというと、俺だと書かれている。
塩と穀物もモク家に施されるのではなく、俺から買いたいと。
穀物と塩もちゃっかりと催促している。
落ち着いたら一度、持って行ってやろう。
魔物が流れてきて、ラキット族も大変そうな情勢ではあるし。
「あの、頭の良さそうなじいさんラキット族かな? こういうことを考えるのは」
「賢者衆は皆、頭が良いですよ?」
「そうだな」
しかし、俺が仲立ちしなかったらラキット族は断っていたのか?
取引としては悪い内容ではないと思うのだが。
まさか、それも見越して俺たちだけを派遣したのか?
あの婆さん。
「……まあ、とりあえず協力してくれることはありがたい。それで? ここからどうするんだ? 俺たちは戻って良いのか?」
「ヨーヨー殿には一緒にモク家の砦に行って欲しいのです! ラキット族の扱いを見守って欲しいのですよ」
ラリーが変なことを言う。
「見守る? どういう意味だ?」
「分かりません、そう言うように言われましたもので」
もしかすると、良いように扱われることを警戒しているのかもな。
まあ、俺としてもモク家よりラキット族の方が拠点のご近所さんだ。
変な策略とかがあったら、任務をぶん投げてラキット族と南に帰っても別に良い。
「そうか、まあ、受けよう」
「おおー! まさに良いニンゲンですな、ヨーヨー殿は」
「良い人間?」
ラリーは過剰なくらいに大きく頷く。
「ええ! 昔は良いニンゲンが多かったのに、悪いニンゲンが混じるようになってしまったと、里でも言い伝えられています」
……ああ。
聖軍のことか?
こんなところでも、聖軍のいざこざの影を感じるとは。





