9-41 生存者
隠れ里のラキット族たちと連絡がつき、協力体制も取り付けることができた。
俺たちは隠れ里のラリー、シューマッハの2人のラキット族を連れて、再度北上。
モク家の川の渡し場まで戻ってきた。
川辺で日の出団に貰った信号弾を打ち上げ、その場で待つ。
信号弾は青い煙を撒き散らす玉のようなもので、それをミニ投擲機のような器具で上空に投げる形式だった。
手先の器用なアカーネに任せて投げてもらったら、割と良い感じに打ち上がった。
仮に反応がなければ何度か打ち上げることになるが、とりあえずは待ちだ。
河原で警戒態勢を敷きながら待機する。
斥候役はラキット族の2人が頼りになるので、楽をさせてもらう。
アカイトもラキット族狩人のラリーに付いて何度か偵察に出ている。
彼の狩りのやり方を学んでいるようだ。
そのラリーが戻ってきたとき、小さめの木のコップで水を出して彼を労る。
「お疲れさん」
「周囲に異常はありません。小型の敵はアカイトと倒しておきました」
「それは助かる」
ラキット族だけなら魔物はやり過ごした方が楽だろうから、多分俺たちに気を回してくれたのだろう。
「ぷはーっ! うまい! ここの川の水です?」
「一応、森で汲んだ湧き水を煮沸しておいたものだぞ」
「ほう、ありがたい」
「そういえば、隠れ里は立ち水の里?とかいうところとは、交流があったんだよな」
「そうです。いつからか分かりませんが、近くで狩りをするときは色々融通してくれたものです」
「なら、あそこがどうしてああなったかは知ってるのか? まともに逃げ出してもいなかったようだが」
「ああ……よく分かりません。少数は逃げたようですが、途中で魔物に襲われたようです」
「そうだったのか。モク家の救援は間に合わなかったか」
「モク家のことはよく分かりませんが、そうなんですかねぇ」
ラリーに聞いても詳しいことは分からないか。
ラキット族の賢者衆なら何か知ってるのかもしれないが。
「あっ! 何か来ます!」
ラリーが小さな手を振る。
その目線の先から、確かに微かな気配を感じる。
川上の方向だ。
しばらくして、はっきりと気配探知にも掛かるようになった。
行きにも世話になった、ロングボートだ。恵水族に牽引されているのも同じだ。
違いは、その上に何人かの先客がいることだ。
見たことがある姿だ。
「さあ、ヨーヨー。よくやってくれたね。お迎えだよ」
「あんた……こんなとこに来てたのか?」
ボートの上には、仁王立ちする婆さんと、金髪の男。
モク家の英雄であるフリンチと、その弟子だ。
「そっちに居るのが隠れ里のラキット族だね? ようこそ、歓迎するよ。私がモク家で指揮を取ってる、フリンチだ」
「よろしく! ラリーと言う!」
ラリーは相手の立場を知ってか知らずか、いつも通りの元気さだ。
「ラリー、よろしく。今回は話を受けてくれて、本当に嬉しいよ。さ、早いとこ乗ってきな。こんなところでモタモタして、あの石頭に襲われたくはないだろう」
「ああ」
荷物をまとめて、ロングボートに乗り込む。
偵察に出ていたラキット族のシューマッハの到着を待って、舟は北側の船着場に向かった。
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舟は船着場に着き、俺たちは恵水族の集落の中に降り立つ。
行きと異なるのは、かなりの数の武装した集団が集まっていることだ。
フリンチは俺たちを比較的大きな館に集合させ、ラリー達を正面に座らせた。
「改めて、今回の話を受けてくれて、モク家を代表して感謝する。個人的にも、借り一つとしておくよ」
「むむっ、私は詳しいことは分かりません。我らが長達がそうすると決めたなら、従うまでです」
「そうかい、それでも感謝は伝えさせてくれ。昔、ウチの上の馬鹿どもと色々あったとは聞いている」
「? 何のことです?」
「ああいや、すまないね。よくある話さ。あんたが知らないのなら、別に気にするようなものでもない」
「ふうむ、分かりました! 気にしません」
フリンチはあっけらかんと受け入れるラリーを見て、おかしそうに笑った。
「はっはっは、やっぱりラキット族は気持ちが良いねぇ。皆がこうなら、もう少しヒト同士のいざこざも少ないだろうに」
「全ての種族には役割があり、皆違って良い、らしいですよ」
「そうかい、あんたらの里ではそう教えられるのかね?」
「はい!」
「賢い教えだね」
「そうです?」
ラリーは褒められても、あまりピンとは来ていないようだ。
「それで、フリンチ。あんたがここまで出張ってきたのはなんでなんだ?」
「ヨーヨー、あんたもよくやってくれたよ。遣いがモク家の下っ端なら、こうもすんなりとは行かなかったろう」
「ああ、お役に立てたなら光栄だ」
なんかうまいこと利用されただけの気もするが。まあそれは置いておこう。
「それで、あたしがここに来た理由だったね。こっちの方にヤツがいる可能性が濃厚になったからさ」
「ヤツって『神出鬼没』のガルドゥーオン、だよな?」
「他にあるかい? あんたが出発してからも色々情報は集めてたんだけどね、いよいよ川を渡った可能性が高くなってきた。クダル家の連中が怪我を負わせたからか、それ以降は襲撃の報告はないけどね」
「川向こうは、襲おうにもヒトが残ってないせいかもしれないがな」
「ああ、残念ながらそのセンもあるね」
「それで、ここに連れてきてるのが討伐隊のメンバーってわけか?」
フリンチはふん、と鼻で笑う。
「そんなわけがあるかい。この程度じゃあの石頭相手に何もできないよ。数も質も、ね」
「じゃあここにいる連中は?」
「言ったろう、こっちの方面に石頭がいると。つまりここも安全じゃない。その警備隊だ」
「何? ここはそれほど防御施設が充実しているわけでもないが、守り切れるのか?」
「無理、だろねぇ。石頭が本気で壊しにきたらね。だから、ここにいる連中は恵水族を逃がし、本隊が来るまでの時間稼ぎ要員さ」
「なるほど」
捨て石というわけか。
「やれることをやるしかないさ。ヤツの動きが読めてきたら、本隊を呼んで仕掛ける。ヨーヨー、参加してもらえるね?」
「……まあ、乗り掛かった舟だしな」
「よかった。何なら、クダル家との契約を切ってウチと直接やらないかい?」
「それは魅力的だが、まあクダル家の連中にも世話になったからな。一応、今回はそっちの筋を通すつもりだ」
「そうかい、まあ連中も石頭の討伐には乗り気だ。形式的なことはそれでも良い」
「ラキット族とのことじゃ、個人的に口を挟ませてもらうかもしれないがね」
賢者衆から、様子を見てくれと頼まれたし。
彼らを見捨てる作戦とかあったら、文句を言うくらいはしたいところだ。
「ああ、そりゃそうだね。しかし、なんだってあの隠れ里の連中にそこまで信用されてんだい?」
「さあ、よく分からんが。たまたま行きがかり上、ラキット族を騙してた人さらいみたいな野郎から助けたからかな?」
「そんな野郎がいたのかい……。まったく、何族か知らないが、馬鹿なヤツだね」
「ああ、人間族だけどな」
「……」
「……」
「……そうかい」
俺もフリンチも、その弟子も人間族だが、人間族はこの辺にしては珍しい。
まさか人間族だとは思っていなかったのだろう。
「まあ、その馬鹿のことはともかく、あんたのおかげで隠れ里と協力することができそうだ。ラリー、あんたはこれからどうするつもりだい?」
「ヨーヨーに同行して、討伐に手を貸すように言われている! 既に里のみんなはこの辺りの偵察を開始しているはず、その連絡役にもなります」
「迅速で助かるね。よし、ヨーヨー。ラキット族の皆さんとの連絡役も任せるよ。その代金として多少の物資や金も融通するようにする。足りないものがあれば、ウチの文官どもに言いな」
「ありがたい」
とりあえず金がないとか言っておくか。
融通してくれるらしいし。
いや、金より、珍しい魔道具とか持ってないかな?
「……言っておくけど、今はカツカツだ。あんまり無茶を言われても困るよ」
おっと。俺の純真な心情が読まれてしまっただろうか。
「もちろんだ」
あんまりガメすぎて、モク家の連中に恨まれてもつまらないからな。
あまり欲をかくのはやめておこう。
「よし、それじゃあんたたちはしばらく待機だ。それとも、砦に戻ってるかい?」
「そうだな、砦でクダル家とも話を合わせておきたい」
「ふむ。契約も色々あるだろうし、それが良いかもしれないね。護衛は要るかい?」
「いや、自分たちで戻るよ」
クダル家と話したいというのは半分以上建前で、防衛設備が弱い拠点で襲撃を受けたくないというのが本音だ。
ここには既にある程度人数が集まっているし、もしガルドゥーオンが通り掛かったら襲ってくるだろう。
「フリンチ、そういうあんたは戻らないのか? 総大将なんだろう」
「なんだい、私を心配してくれるのかい? ありがとうよ。耄碌していると思われてるんなら心外だけどね」
「心配というわけではないが、あんたがいなければモク家とクダル家もすんなりと協力できそうにない。もしここが今、突然襲われたとして、あんたは生き残れるのか?」
「拠点を守れるかって言ったら難しいけどね、私が生き残るくらいはできるよ。全く、よそ者にまでババア扱いとはね。これでも魔物が蔓延る山脈で、何十年も生きてきてるんだ」
「そうか、余計なことを言った」
「ふん。ラリー、あんたらはヨーヨーに付いて行くってことだが、私たちが連絡したいときはどうすれば良い?」
「こっちのシューマッハを残していきます。こいつも伝令くらいはできます!」
「よろしく~」
シューマッハは、アカイトの友達らしい隠れ里の狩人見習いだ。
もう1人連れてきたのは、ここに残しておくためでもあったのか。
当のシューマッハはのんびりと小さな手を挙げた。
「……頼りになりそうだね」
「そう? 照れるな~」
アカイトの友達、がんばれ。
「一応俺は、ラキット族とも仲良くやっている。分かっていると思うが、そのシューマッハの扱いにはくれぐれも気を付けてくれよ?」
「はいはい、ラキット族に喧嘩を売るような真似をするはずがないだろう? 全く、あんたも過保護だね」
フリンチはともかく、その配下に不届き者がいなければ良いのだが。
俺たちパーティとラリーは一泊した後、砦へと戻った。
砦でも近々遠征する命令が出ているのか、最初に来た時よりも忙しない雰囲気に包まれていた。
「ヨーヨーちゃん、おかえりー」
クダル家のテントに近付くと、いち早く気付いてこちらに声を掛けてきたのはヒュレオだった。隊長のヒュレオだが、自ら雑役に混じって荷物を運んでいたようだ。
フリンチといい、大将格の腰が良くも悪くも軽いな、この辺りは。
「ヒュレオ。クダル家にも要請がもう来たか?」
「いや、まだ正式には。でも、出るんでショ? そろそろ」
「ああ、その通りだ」
「うん。今のうちに準備しとかないとね」
ヒュレオはすっかり元気になった、ように見える。
内心では色々思っているのかもしれないが。
それにしても。
「……何か良いことでもあったか?」
「あ~、ま、ヨーヨーちゃんにも言っとくわ。良いことってか、1個だけ朗報はあってね」
「朗報?」
「そ。ラキュちゃーん!」
ヒュレオはテントの方を振り向いて大声を出す。
1人、その声に反応してのそのそと、ゆっくりと歩み寄ってくる姿。
あれは。
「三毛猫のヒト、か?」
「そ。ラキュちゃん! ヨーヨーちゃんが戻って来たってさ」
光る巨大な剣みたいなものを使ってガルドゥーオンに挑んだ、シャクラン家の戦士だ。
敗走した際には脱落し、もう死んでいるものとして扱われていたが。
「生きて、いたか」
「偵察隊が頑張ってくれてね。彼女と、一緒に逃げてきた2人だけが現時点での生存者だよ。本隊以外のね」
ラキュは所々に包帯を巻かれ、全身に良く分からない草を貼り付けられている。
挨拶とかいいから、安静にしていて欲しい感じだ。
「ヨーヨー、迷惑をかけたな」
「ラキュ、無理して動かなくて良いぞ? モセには?」
「当然報告した。アード族の小僧から、近々再戦も近いと聞いたぞ」
「ああ、まだ少し時間は掛かりそうだが。まさか、参加する気か?」
「当然だろう」
ラキュは草が張り付けられた顔の奥から、ぎょろりと目を動かした。
「己など大した傷はない。これはモセ様が過剰に心配するから、付けているだけだ」
とんとん、と顔に貼られた草を指の腹で叩く。
大丈夫そうには見えないが。
「まあ、俺がどうこう言う話でもないか。どうせ失敗したら、ここから帰れる保証はないし」
「そういうことだ。それに、ギアルも亡くなり、モセ様を護る盾が必要だ」
ギアルというのは、モセの傍にいつも控えていた、山猫っぽい見た目のヒトのことだったはずだ。
「内心嫌がっている者も多いが、ヨーヨー、お前はやる気満々なのだろう?」
「満々というか……まあ、討伐には協力するつもりだが」
「さすがは聖軍の……いや。正直助かる。お前のスキルは奴に効いていた」
「ああ、あの光の球のことか」
『愚者』の「常人のひらめき」スキルだ。
連続で使うと効果は薄れてしまったものの、ガルドゥーオンの気を大いに逸らすことができていた。
「あれを撃ってくれるだけでも助かるぞ。一瞬でも奴の気を逸らせれば、それを前提とした作戦を組めるからな」
「あんまり期待されても困るが、まあ微力を尽くすよ」
どこかで無理だと思って転移で逃げる可能性はゼロじゃないし。
期待されすぎてその判断が鈍るなんてのはちょっと避けたい。
ラキュは満足そうにまたテントの方に戻っていく。
まだびっこを引いているような動きだ。
本当に参戦できるのだろうか。
「ヨーヨーちゃん、それで、契約のこと、というか報酬のことなんだけどね」
「ああ」
一応、既存の契約の延長ということになるだろう。
あくまでクダル家の戦力として動くということになると、クダル家から報酬を貰うことになる。そして、ガルドゥーオンを討伐するために壁の中から打って出るというのには、流石に追加報酬があるはずだ。
「里でどう?」
「……里?」
「霧降りの里の近くに、滅んだ里があったでしょ。あそこの土地と支配権をあげるよ。修復した壁と建物もセットでね」
……は?





