あほう!
久保と中野林は、あほ丸をこっそり尾行しながら、小声でヒソヒソと会話している。
(どうしてまた喧嘩するって分かるの?)
(いや、あの物言い、どー考えたってそうじゃないか)
中野林の問いに久保が答えた。
(あほ丸が病院送りにした先輩、全治2週間だったろ? てことは、2週間後には復活するってことだ。カツアゲするような奴らだぜ? 仕返しに来るに決まってる)
(えー!? じゃあ、先生を呼んだ方がいいんじゃないの)
(喧嘩の場所がわかったら、走れ中野林。先生に知らせるんだ)
(久保はどうするの?)
(時間をかせぐさ)
心配そうに見つめる中野林の心を悟ると、久保は笑いながら言った。
(大丈夫さ。あいつに手出しはさせない。さすがに二回目の出席停止はヤベェだろ)
あほ丸は昇降口を通り過ぎ、職員室に入っていった。
(あれ? 僕が走る必要もなく、あほ丸自身が先生のところへ行ったね?)
(どういうつもりだ?)
「神田先生! お願いがあって参上つかまつりました」
神田先生は、机の上の書面から顔を上げて、
「おぉ、阿方。どうした?」
笑顔で問いかけた。
「これから果たし合いへ向かうので、ご同行の上、お立ち合い願いたく……」
「……んっ? んんっ?」
神田先生はあほ丸の言葉がうまく理解できない様子で、黒縁メガネを指で押し上げながら顔を曇らせた。
「阿方。たぶん先生が勘違いしてると思うが、これから喧嘩するから一緒に来てほしいって……ことではないよな?」
「おっしゃる通りです」
「?」
「来ていただけませんか。そうすれば拙者に非がないことを先生が証明してくださ──」
「あほう! 喧嘩はだめだとあれほど言い聞かせたのにお前はっ……あほう! まったくなんて、あほう! あほう! どこに生徒の喧嘩に立ち会う教師がいるんだあほう! アホか!」
「先生、最後の普通に罵ってま──」
「あほう!」
職員室の外で、中の様子を伺おうと廊下を行ったり来たりしていた中野林と久保は、神田先生の大声を聞いた。
「阿方って、今言った!」
「アホって言ったんじゃないか?」
二人で顔を見合わせて首を傾げていると、職員室のドアからあほ丸が出てきたので、急いで曲がり角に隠れて様子を伺った。
まずあほ丸が出ていく。続いて神田先生が出てきた。
「まさか本当に先生を連れて喧嘩しにいくのか?」
久保がそう口にしたところで、生徒指導担当の剛力先生が竹刀を携えて出てきた。
「うわ! ゴリも来た!」
「久保! だめだよ、先生をそんな風に呼んだら」
中野林がそう言ったところで、学年主任と教頭先生まで出てきた。
「おいおいおいおい何人パーティだよこれ」
あほ丸を先頭に、神田先生、剛力先生、学年主任、教頭先生が一列に並んで廊下を進んでいく。
「やべ! こっちに来る!」
久保と中野林は急いで廊下を引き返して、階段へ身を隠した。一行は靴に履き替えて外へ出て行った。
「あ、あれなら、絶対、喧嘩しないよね」
「しないってか、できねぇだろ」
「安心、かな?」
「まあな」
「……気になる……よね?」
「当たり前だろ」
「……見に行く?」
「行くしかないだろ!」
中野林と久保も、靴に履き替えて後を追った。




