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あほ丸!  作者: 鈴竹飛鳥
8/15

放課後

 帰りの会が終わった。窓際最前列で、机の上に突っ伏すあほ丸に、中野林が声をかけた。

「お疲れ様、あほ丸! あほ丸にとっては初授業日だったね」

 机に伏したまま顔だけを中野林に向けて、力なく応えた。

「おぉ、中野林。お主のおかげで午後は腹が鳴らずに済んだぞ。改めて礼を言わせてもらう」

「どういたしまして。ずいぶんくたびれたみたいだね」

 困ったように笑いながら、あほ丸の顔を覗き込んだ。

「授業もさっぱりわからぬし、6時限目まであるとは……ちと長すぎぬか?」

 依然伏したまま、不機嫌そうに続けた。

「これがこの先続くのかと思うと、そら恐ろしくてならぬ」

「小学校だって同じようなものだったじゃない」

「そういえば、小学生の頃は給食があったな。拙者は中学校でも給食があると思っていたぞ」

「この地区は給食出ないんだよね、全国的にも珍しいみたいだけど」

「そうなのか。拙者、引っ越してきた故、そのあたり無知であった……」

「入学式の日に先生が説明してたじゃないか」

 あほ丸はギクリと目を見開くと、中野林の方へ向けていた顔を窓の方へ向けてから、やはり伏したまま、大きなため息をついた。


「あのさ、あほ丸! もし、よかったらさ、勉強教えてあげようか? ノートもとってあるから、貸してあげるよ?」

 あほ丸は机から頭を上げて、中野林を神妙な面持ちでみつめた。

「お主、いくらなんでも親切すぎるぞ。こんな妙ちきりんを相手にしていたら、いつかお主も馬鹿にされかねない。拙者が言うのもなんだが、慎んだ方が身のためだ」

「そんなこと──」

 中野林がそう言いかけたのを打ち消すように、

「オレもそう思うぜ? 中野林。本人がほっとけって言うんだから、ほっとこうぜ?」

 久保がそう言いながら割って入った。

「それにお前、群れるの嫌いだろ? 孤高の一匹狼。自分はみんなとは違うんだって思うことで、優越感に浸るタイプだ」

 そう話した久保の方をムッとした表情であほ丸が見返す。

(怒るか? あほ丸……)

 久保は身構えた。


「お主の言う通りだ。拙者、つるむのは好きではない。ほっとけ。中野林、お主は義理堅い立派な男だ。しかし、だからこそ、拙者の為に思い悩ませるわけにはいかない。いいか」

 あほ丸は立ち上がって、中野林の肩に手を置きながら言った。

「拙者はお主を助けたことはないし、喧嘩のこともお主には全く関係のないことだ。……これから起こることも、お主には関係ない、心を痛めることはない」

 あほ丸は中野林の肩から手を下ろすと、学生鞄を持って立ち上がった。


「あほ丸……」

 教室を出ていくあほ丸の背中を見つめながら、中野林は小さくそうつぶやいた。

「あいつまさか……!」

 久保はピンときた。

「中野林、あほ丸を追うぞ、気づかれないように」

「え? でも、あほ丸は、ほっとけって……」

「あいつ、きっとまた喧嘩するつもりだ」

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