放課後
帰りの会が終わった。窓際最前列で、机の上に突っ伏すあほ丸に、中野林が声をかけた。
「お疲れ様、あほ丸! あほ丸にとっては初授業日だったね」
机に伏したまま顔だけを中野林に向けて、力なく応えた。
「おぉ、中野林。お主のおかげで午後は腹が鳴らずに済んだぞ。改めて礼を言わせてもらう」
「どういたしまして。ずいぶんくたびれたみたいだね」
困ったように笑いながら、あほ丸の顔を覗き込んだ。
「授業もさっぱりわからぬし、6時限目まであるとは……ちと長すぎぬか?」
依然伏したまま、不機嫌そうに続けた。
「これがこの先続くのかと思うと、そら恐ろしくてならぬ」
「小学校だって同じようなものだったじゃない」
「そういえば、小学生の頃は給食があったな。拙者は中学校でも給食があると思っていたぞ」
「この地区は給食出ないんだよね、全国的にも珍しいみたいだけど」
「そうなのか。拙者、引っ越してきた故、そのあたり無知であった……」
「入学式の日に先生が説明してたじゃないか」
あほ丸はギクリと目を見開くと、中野林の方へ向けていた顔を窓の方へ向けてから、やはり伏したまま、大きなため息をついた。
「あのさ、あほ丸! もし、よかったらさ、勉強教えてあげようか? ノートもとってあるから、貸してあげるよ?」
あほ丸は机から頭を上げて、中野林を神妙な面持ちでみつめた。
「お主、いくらなんでも親切すぎるぞ。こんな妙ちきりんを相手にしていたら、いつかお主も馬鹿にされかねない。拙者が言うのもなんだが、慎んだ方が身のためだ」
「そんなこと──」
中野林がそう言いかけたのを打ち消すように、
「オレもそう思うぜ? 中野林。本人がほっとけって言うんだから、ほっとこうぜ?」
久保がそう言いながら割って入った。
「それにお前、群れるの嫌いだろ? 孤高の一匹狼。自分はみんなとは違うんだって思うことで、優越感に浸るタイプだ」
そう話した久保の方をムッとした表情であほ丸が見返す。
(怒るか? あほ丸……)
久保は身構えた。
「お主の言う通りだ。拙者、つるむのは好きではない。ほっとけ。中野林、お主は義理堅い立派な男だ。しかし、だからこそ、拙者の為に思い悩ませるわけにはいかない。いいか」
あほ丸は立ち上がって、中野林の肩に手を置きながら言った。
「拙者はお主を助けたことはないし、喧嘩のこともお主には全く関係のないことだ。……これから起こることも、お主には関係ない、心を痛めることはない」
あほ丸は中野林の肩から手を下ろすと、学生鞄を持って立ち上がった。
「あほ丸……」
教室を出ていくあほ丸の背中を見つめながら、中野林は小さくそうつぶやいた。
「あいつまさか……!」
久保はピンときた。
「中野林、あほ丸を追うぞ、気づかれないように」
「え? でも、あほ丸は、ほっとけって……」
「あいつ、きっとまた喧嘩するつもりだ」




