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あほ丸!  作者: 鈴竹飛鳥
13/17

昼休み

 昼休み。あほ丸は、中野林と久保を校庭へと連れ出した。

「なんで外なんだよ」

 久保は菓子パンの入ったビニル袋を引っ提げて、あほ丸の後ろに続く。

「外で食べた方が、趣があるだろう」

「趣って、お前……」

「いいじゃない、久保。今日は天気もいいし、ピクニックみたいで楽しそうじゃないか」

 中野林は弁当と水筒の入った手提げを腕にかけて、久保の隣を歩く。


 よく晴れた気持ちの良い天候だった。校庭の桜はほぼ葉になってはいたが、所々花が残っており、そよ風にのってときおり花びらが舞い落ちる。あほ丸は、一際立派な桜の木の根元の芝生の上にレジャーシートを敷いて、荷物を四隅に置いて重しをした。

「どうぞどうぞ、お履物を脱いでお上がりください」

 先にシートの上にあがり正座して、両手を着きながらお辞儀をして言った。

「コレ……ござ?」

「じゃなくて……ござ柄のレジャーシートだよ」

 久保と中野林は靴を脱いでシートに上がりながら言った。

「本物のござを持参しようと思ったのだが、嵩張るし重いしで、文明の利器に頼ることにした」

「どこで買うんだよこんなの」

「たまたま見つけてな。長年愛用しておる。まあ、座れ。弁当を食べようではないか」

 あほ丸はあぐらをかいて座った。久保は片膝を立てて、中野林は正座をした。

 久保はビニル袋の中からウインナーの挟まったパンと、紙パックの牛乳を取り出した。中野林は手提げから、弁当箱の包みを取り出し、膝の上で広げた。

 あほ丸は背負ってきた大きなリュックから、笹の葉の包みを取り出し、あぐらをかいた足の上に置いた。

「お! それ! よく時代劇とかで見る旅人の弁当じゃんか!」

「そのタイプの弁当、僕、初めて見た。本当にあるんだ……」

 久保も中野林も興味津々であほ丸の膝の上に視線を注ぐ。あほ丸は得意げに包みを広げると、中には海苔が巻かれた握り飯が3個と、端に沢庵が添えられていた。

「おぉー! まさにソレだよ。時代劇弁当。ちょっと憧れるよな」

 久保はパンにかじりつきながらそう言った。

「具は、梅に昆布にシャケだ。さらに──」

 あほ丸はリュックから取り出したものを二人に見せながら、

「水筒は、これだ!」

 竹筒に栓をしたものを掲げてそう言った。

「あ! まさにソレ! 旅人の水筒じゃんか! 憧れるよなぁ〜」

「ふふふ、久保。お主なかなか和の心がわかる奴よのう」

「ぼ、僕も、いいなって、思うよ」

 中野林があわててそう言った。

「お主、毎日弁当を手作りしているのか?」

 大きなおにぎりにかぶりつきながらあほ丸は中野林に尋ねる。

「うん。うちは両親忙しくてさ。料理も家事も、自分でやってる」

「殊勝なことだ。拙者も訳あって一人暮らしなのだがな」

 モグモグとおにぎりを食べすすめながら、平然としている。

「お、おおおお前一人暮らしなのぉ!?」

 久保が思わず立ち上がって叫んだ。声が裏返っている。

「そうだぞ」

 それがどうかしたのか、という風にあほ丸は久保を見上げる。

「で、できるんだ……中学でも一人暮らしって」

「親の同意があれば問題ない」

「へ、へぇ〜〜〜。じゃあさ、お前、やりたい放題だな?」

「なにがだ?」

「なにがって──」

「くぼっ!」

 中野林が叱るように嗜めた。久保はヤバッという表情を浮かべて、元の通り座り直した。

「ねぇ、あほ丸。そういう事はあんまり他言しない方がいいよ? 防犯的にもさ」

「そうだな……」

「なぁ、あほ丸〜こんどおまえん家泊めてくれよ〜」

「くぼっ!!」

 久保は怒った表情の中野林へ苦笑いを浮かべながら、

「冗談だって、ははは……」

 そう返すと、ストローで牛乳をすすり大人しくなった。


「久保は、パンだけで足りるのか?」

 あほ丸は、食べ終わって寝転がる久保へ向けて尋ねた。

「仕方ねぇんだよ。小遣いそんなに貰ってないし」

「違うでしょ? 昼食代としてもらってるお金を別のことに回してるからでしょ?」

「なにに回しているのだ?」

「それは、まぁ、いろいろ……」

「漫画買ったり、お菓子買ったり、ゲームしたり」

 久保の代わりに中野林が答えた。

「いいじゃんか! オレがもらった金なんだから何に使おうとオレの自由だろ」

「ふむぅ……しかしなぁ、育ち盛りの食事を削るのは、よくないのではないか」

「ねぇ、あほ丸もそう思うよね? 言ってやってよ。僕が言ってもきかないんだ」

「母上から言って貰えば良いのではないか?」

「その手があったか」

「絶対やめてくれ! たのむ! 明日はしっかりしたもの買うようにするからっ」


 桜の花びらがチラチラと落ちていく。時々吹く風に葉が揺れってサラサラと音をたてる。どこかでさえずる鳥の声、のどかな時間が流れていく。

「なんだか今だけは時間がゆっくり過ぎていくような心地がするよ」

「それな〜」

 中野林も弁当を食べ終わり、頭上の葉桜を見上げながら続けた。

「お花見なんていつぶりだろう。いいものだね。あほ丸、今日はありがとう」

 そう振り返ると、レジャーシートの上に茶碗を並べながら「ん!?」とあほ丸が顔を上げた。

「何やってるの!?」

 中野林はあほ丸の奇行に声を張り上げた。

「もてなしの準備だが? さて、正式な作法とは程遠いが、まずはコレを──」

 あほ丸は平皿に羊羹と大福をのせると、中野林と久保の膝の前にそれぞれ差し出した。

「召し上がれ」

 平皿には爪楊枝が添えられている。中野林はそっと平皿を持ち上げて眺めながら言った。

「あほ丸の言ってた甘味ってこれだったんだね! おいしそう」

「花より団子ってな〜」

 久保は手掴みで大福にかじりついた。

「お主たちには世話になったからな」

 あほ丸はにこやかに二人を眺めると、先ほど並べた茶碗へと身体の向きを変えた。リュックから茶筒を取り出すとスプーンで粉末をすくいあげ、茶碗へ投入、続いて魔法瓶を取り出すと茶碗に湯を注ぎ込んだ。

「まさか」

 中野林と久保はほぼ同時にそう発した。そしてあほ丸が茶筅ちゃせんを取り出したところで、

「やっぱり」

 と、これまた同時に発した。

「かの織田○長も茶の湯をたしなんだ。武士と茶の湯は切れぬ関係だ」

 あほ丸は上機嫌で茶筅を素早く動かして茶をたてはじめた。その整った所作、慣れた手つきに、中野林も久保も思わず見入ってしまった。

「どうぞ」

 あほ丸はまず中野林に茶碗を差し出した。

「あ、ありがとう、あほ丸」

 恐る恐る両手で受け取ると、怯えたように問いかける。

「ぼ、僕、作法とかよくわからないんだけど……」

「気にするな。かしこまった場ではない。好きに味わえばよい」

 あほ丸はそう微笑みかけると、再び茶を立て始めた。

「どうぞ」

 久保も茶碗を受け取ると、

「どーも」

 と受け取って、すぐに口をつけた。

「にっっっがぁ!」

 久保は思わず顔をしかめた。

「抹茶は苦手か?」

 あほ丸の言葉に、

「苦いのは、あんまり好きじゃないんだよな」

 久保は舌を出してそう言った。

「甘い菓子の後に、苦いお抹茶を頂く。なかなかのものだぞ。もう一度甘いものをやろう、ほれ」

 あほ丸はリュックから紙箱を取り出して蓋を開けて差し出した。

「お、チョコじゃん! あんこ系も嫌いじゃないけど、俺はチョコのが好きかな〜」

 久保は紙の包みに埋まっていたチョコレートの粒をつまみあげて口内にポイっと放った。

「うま!」

「口内がまだチョコの甘みを残している間に、ほれ、抹茶をふくんでみろ」

 久保は言われた通りにズッと一口抹茶をすすった。

「……おいしい!」

「はは! 抹茶は和菓子に合うのはもちろん、洋菓子と合わせても美味だ。苦味と甘みの組み合わせ、いくらでもいけるぞ」

 中野林はそっとチョコレートの蓋を確認するとつぶやいた。

「これ、一粒300円はする高級チョコレートだよ……」

「一粒300円!?」

「つまらぬ事を気にするでない。拙者の感謝の気持ちだ。それにな──」

 あほ丸はチョコの粒をスッと包み紙ごと取り出すと行儀良く左手の上に置いてからつまみあげて、

「拙者も食べたかったのだ」

 そう照れたように笑みを浮かべると、チョコを口に入れた。

「あほ丸もチョコレート好きなんだね。てっきり和菓子系しか食べない主義なのかと思ったよ」

「うむ」

 あほ丸は口をモグモグさせながら自分の分の茶をたてつつ返事した。素早く茶をたて終わるとグイッと茶碗を持ち上げ、一口、二口、そして大きく三口と茶碗を傾けて一気に抹茶を飲み干す。

「かぁ〜〜〜やっぱりこれじゃのう!」

 満足そうに茶碗を置くと右手の甲で口をぬぐった。

「酒みたいに飲むじゃねえか」

「馬鹿を言うな、未成年だぞ」

 久保の言葉に、表情をキリッと正してあほ丸が返した。

「中野林、お主もどうだ?」

 チョコの箱を中野林の方へ押しやりながら勧める。申し訳なさそうな表情を浮かべる中野林の心情を察して、あほ丸は言った。

「遠慮するな。一人二粒ずつだ」

「じゃあオレもあと一粒〜。中野林、コレ全部味違うみたいだぜ? 好きなの選べよ」

「じゃあ……もらうね? あほ丸、ありがとう」

「抹茶のお代わりが欲しければすぐにたてるぞ」

「僕もう一杯もらおうかな。すごく美味しいよ、あほ丸! 今度お茶の立て方教えてよ」

「心得た」


 昼休みが終わるまで三人はささやかなお茶会を楽しんだのであった。

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