タイトル未定2025/11/19 07:42
会議室から出てきたちはるは、怒りをあらわにしていた。
「むかつく~なんなの、あの態度!こっちが意見を言えば、露骨に嫌な顔をして」
「まぁな。企画の連中は、いろんな案を出し合って。こっちに話を持ってくるからな」
ちはるをなだめるように、馬場が言った。
「馬場ぁ!奴らのかたを持つ気なの!」
「ちょっと、ちはるさん!」
ちはると馬場の後ろを歩いていた赤井が、慌てて小声で言った。
ふと、ちはるは立ち止った。
馬場と赤井も、同じように立ち止る。
馬場がちはるの視線を追うと、少し離れた場所を数人で歩いている秘書課の社員を、ちはるはみつめていた。
もちろんその中に亮もいる。
「秘書課ね。すました顔して歩いているじゃない」
「友光。おまえだって、秘書課の奴らに劣らず綺麗だぞ」
馬場の言葉に、ちはるは馬場をみつめた。至近距離でちはるにみつめられ、馬場は顔を赤くした。
ちはるは、にっこりと微笑んだ。
「うん!知ってる」
そう言うとちはるは、さっさと歩いて行った。
若菜に誘われるまま、流花は若菜の家に行き、若菜の家で、夕飯を御馳走になった。
夕飯を終えると、若菜の部屋で二人は勉強を始めた。
数時間後に勉強を終えた若菜と流花は、おしゃべりに夢中になり、気がついた時には夜の九時を過ぎていた。
「えっ、もうこんな時間?」
若菜の部屋の時計を見た流花は、驚いた声を上げた。
「大丈夫。もうすぐパパが帰ってくるから、パパに送ってもらえば良いわ。あっ、帰ってきた!」
帰宅してきた水田は、若菜の部屋に入ってきた。
「ただいま。白田さん、いらっしゃい」
「遅くまでお邪魔して、すみません」
流花は言いながら、頭を下げた。
「いやいや。いつも、娘と仲良くしてくれてありがとう。遅いから送ってやろう」
「すみません」
「女の子ひとりじゃ危ない。何かあったら大変だ」
「パパ!アタシも、一緒に行っても良い?」
「ああ。その方が、白田さんも気が楽だろう」
水田の自家用車は自宅のガレージに置いてあるが、普段通勤する時は、電車やタクシーなどを利用する。
電動でシャッターを開け、運転席に水田が乗り、助手席に若菜、後部座席に流花が乗った。
ガレージから車を出して、もう一度電動でシャッターを閉じ、車は夜の闇へ消えて行った。
後部座席に座っていた流花が、水田に聞いた。
「スイをbarのマスターに、会わせるんですか?」
「娘から、聞いたのかな」
「barのマスターだなんて、意外ですね」
若菜も流花に、同調した。
「ホント。パパの会社関係の人ならわかるけど」
「会社に、あんなに良い男はいない」
「パパの言うことなんて、あてにならないな」
「何を言うんだ。パパの目に狂いはない」
「狂いっぱなしでしょ」
流花は思わず、吹き出した。
「ありがとうございました」
車から降りた流花は運転席に座っている水田に向かって言った。
「また、遊びにおいで。娘をよろしくお願いしますよ」
水田の言葉に、流花は軽く頭を下げた。
「シロちゃん、明日学校でね」
「スイ、今日はありがとう。おやすみ」
「おやすみ!」
「じゃあ、車を出すぞ」
車が見えなくなると、流花はゆっくり歩き出した。
その横顔は、先ほどの流花とは打って変わり、別人のように暗い影がさしていた。
流花は、若菜が住む家とは天と地ほどの差があるみずぼらしいアパートを見上げた。
このアパートが、流花の住む家だった。
一階の隅の部屋に行き、合鍵でドアを開ける。
誰もいない部屋は、冷え切っていた。
電気をつけると、貧弱な明かりが狭い部屋を照らす。
手をさすりながら、ストーブをつける。
少しずつ部屋の中が暖かくなり、学校の制服からセーターにジーパンと言うラフな格好に着替えた。
ストーブに当たり、ストーブの炎を見つめながら、水田親子を思い出す。
屈託なく父親に甘える若菜。
それを優しく受け止める父親。
そんな二人を、流花はうらやましく思うのだった。




