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DANDY  作者: kagari
15/17

タイトル未定2025/11/19 08:55

年が明け、三が日が過ぎた夜。

若菜の両親が、旅行先から帰国してきた。

 リビングでテレビを見ている若菜に父親が近寄って来た。

「若ちゃん、お土産」

「わぁ、パパありがとう」

 若菜は、父親からお土産を受け取った。

 袋を開けている若菜に、父親はもうひとつ包みを差し出した。

「これは?」

 不思議そうな顔をする若菜に、父親は自慢げに若菜に言った。

「マスターのお土産だよ。私の代わりに、若ちゃんがマスターに渡すと良い」

「パパ……」

「マスターに会う口実が、出来ただろ」

「パパありがとう!」

 若菜は喜びのあまり、父親に抱き付いた。



 年末年始の休みが終わり、秘書室はいつもの活気を取り戻していた。

 二月のバレンタインに向けたこの時期、会社は忙しさを増していた。

 社長室から足早に出てきた亮は、秘書室に入ると自分の机の椅子に座り、パソコンに向かった。

 一人でbarジェシカに行って以来、店には行っていない。

 店には、行きづらくなっていた。

 ……所詮私は、barの客でしかないんだわ……。

 携帯のマナーモードの音で、亮は我に返った。

 携帯を取り出し画面を眺めると、一通のメールが、届いていた。

 受信ボックスを開けると、若菜からのメールだった。

 メールは、「マスターにお土産を渡したいので、一緒にbarに行ってほしい」とのことだった。

 携帯をしまった亮は、小さくため息をついた。

 ……まったく、親子そろって……。

 断ってしまえば良いことだが、断れば今度は、父親が黙ってはいないだろう。

 例の「業務命令」の言葉を使って、亮を動かすのは目に見えている。

 公私混同も、いいところだ。

 ……お土産を渡したところで、何もならないのに。私も、若菜さんも。それから、友光さんも……。

 パソコンのキーを打つ手を止め、しばらくぼんやりしていた亮は、パソコンをスリープ状態にして席を立った。



 秘書室を出た亮は、総務部に出かけた。

 部内に入り、一番奥の席の総務部長の席に行き、総務部長にスケジュール表をもらう。

 スケジュール表をもらうと、その足で亮は営業部に出かけた。

 営業から戻って来た社員たちが、部内に入っていく。

 その中に、ちはるもいた。

 亮を見つけたちはるは、亮の方へ近寄って来た。

「此処に来るなんて、珍しいじゃない」

「ちはるさんに、話があって」

「話って何?」

「今夜、マスターの店に若菜さんと行くんだけど、友光さんもどうかなって思って」

「マスターの店に行くの?」

「若菜さんが、マスターにお土産を渡したいから、一緒に来てほしいって」

「あぁ、前に会った女子高生ね。でも、なんでアタシを誘うの?」

「若菜さんと二人だけじゃ、間が持ちそうにないから」

「確かにね。マスターの店、最近行っていないし。良いよ!アタシも行く」

「六時半ロビーに、集合です」

「わかったわ」

 ちはるが部内に入ると、亮は歩き出した。



 亮は約束の時間に、ロビーに行った。

 既に、ちはると若菜が亮を待っていた。

 亮を待っている間、ちはると若菜はすっかり打ち解けていて、ちはるは若菜のことを「スイ」と呼んでいた。

「お待たせしました」

「じゃあ、行きましょう!」

 ちはると若菜は並んで歩き出し、亮は二人の背中を見ながら歩いた。

 Barジェシカの店の前に着くと、亮たちは店の前で立ち尽くしていた。

 いつもなら、ほのかな明かりが灯っているのに、今夜は店の中は真っ暗だった。

 目の前の三段ある階段を上がって、テラス風作りの店のドアをちはるは、試しに開けようとしたが、ドアは開かなかった。

「今日は、休みなのぉ?」

 若菜の悲鳴に近い叫びに、亮は店のドアの前に立っているちはるを見上げた。

 ちはるは軽く両手を上げた。

 ドアの前から離れ、ちはるは階段を降りた。

「どうする?」

 ちはるは若菜に聞いたが、若菜は何も答えず、うつむいていた。

 しばらく、亮たちの間に沈黙が流れた。

 その沈黙を、亮が破った。

「此処にいても仕方がないから、今夜は諦めませんか?」

「そうね。店が休みじゃね。ねぇ、どっかで何か食べない?」

「そうですね。若菜さん、行きましょう」

 それでも、若菜は黙ったまま立ち尽くしていた。

「ショックなのは、スイだけじゃないの!アタシだって、ショックなんだから。嫌なことは忘れて、美味しいもの食べよう!」

 そう言ったちはるは、若菜の肩を抱いて歩き出した。

 亮は、真っ暗な店をそっと見上げたのだった。



 ちはるが亮と若菜を連れて行った店は、アジア料理の店だった。

 店内は、異国モードを醸し出していた。

 テーブルに、ちはるがオーダーした料理がずらりと並び、アルコールで気分が良くなったちはるが笑い、それまで落ち込んでいた若菜も笑顔になっていた。

「お土産は、また今度渡せば良いの!私がまた、つきあってあげるから」

「ちはるさん、つきああってくれるんですか?」

「あったりまえじゃない!だって、マスターに会えるんだもん」

「良かったぁ!私、未成年だから、お店には入れないし」

「フェアじゃないからね。スイでも、マスターは渡さない!」

「私だって!」

 ちはると若菜は、顔を見合わせて、笑いあった。

 それまで、黙ったまま料理を食べていた亮の方を、ちはるは向いた。

「ぱっつんにだって、マスターを渡さないからね!」

「えっ?」

 亮は顔を上げて、ちはるをみつめた。

「澄ましていてもダメよ。ぱっつんが、マスターに気があるのは、全てお見通しよ!」

「そうなの?」

 若菜が、声を上げた。

「おとなしそうな顔をして、やることがずる賢いんだから。ここまできたら、白状しちゃいなよ」

「そんな……私は……」

 亮は耳まで真っ赤になり、何も言わず料理を食べ続けた。

 ナプキンで口元を拭うと、ちはると若菜を真っ直ぐみつめた。

「でも、一番大事なことは、マスターの気持ちです。どんなにマスターのことを想っていても、マスターは振り向いてくれません」

「確かにね……私たちが見ているマスターは、あくまでも表向きの顔だもんね」

 ビールを飲みながら、ちはるは苦々しげに言った。

「携帯の番号を聞こうとしたら、持っていないって言われた」

 若菜の言葉に、ちはるは驚き声を上げた。

「番号、聞こうとしたの?」

「うん。持っていないって言われた。なんか、迷惑そうだった」

 ちはるは、目を見開いて、ため息をついた。そんなちはるに、亮は言った。

「店を出しているんですよ。携帯を、持っていないはずがないわ」

「ぱっつん……急にマジになって、どうしたの?」

「くやしいんですよ。ほんの少しでも良いから、マスターのことを知りたいのに。マスターは、何も教えてくれない!」

「そう!そうなのよ!」

 ちはると若菜は、思い切り声を上げた。亮とちはるの意見が一致したのは、初めてのことかもしれない。

 更に亮は、語気を強めた。

「それどころか、マスターはあの子のことばかり見てる!」

 ちはると若菜は、お互いをみつめあった。

 そんな二人にお構いなしに、亮は続けていた。

「知り合いに似ていたって、ナニソレ?嘘ばっかり!」

 亮はグラスを掴むと、ビールを飲みほし、長い息をついた。

「大丈夫?」

 さすがに不安気に、ちはるが亮に聞いた。

 亮は、黙ったまま頷いた。

 そんな亮に、若菜が聞いた。

「北神さん……あの子って、誰ですか?」

 亮は、ゆっくり顔を上げ、若菜をみつめた。

 今まで見たことがない亮の表情に、若菜は驚き、亮の言葉を聞くのが怖くなっていた。

「わからないの?若菜さんが、一番親しい子よ」


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