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DANDY  作者: kagari
12/17

タイトル未定2025/11/19 08:23

「いらっしゃいませ」と、言ったマスターの顔が、驚いた表情になった。

 そのことに気がついた亮は、思わず振り返った。

「マスター来ちゃった~」

 明るい女性の声が、店内に響く。

「若菜さん!」

 亮が上げた声に、言いあっていたちはるたちも振り返った。

「ちょっと~誰よ?」

 ちはるが、亮の肩をつつきながら言った。

「水田若菜さん。社長の娘さんです」

「え~っ!」

 これには、ちはるたちは驚きの声を上げた。

 そこには長い髪の毛をツインテールにした、水田の娘水田若菜と、背が高くてショートカットの若菜の親友、白田流花がいた。

 若菜と流花を見たマスターは、短くため息をつき、カウンターから抜け出した。

 ふたりの前に立ち、腕組みをすると、少しだけ困り顔で若菜に言った。

「此処はお酒を出す店ですから、未成年は出入り禁止です」

「初めて入った時、マスターそんなこと言っていなかったわ!」

「あの時は、保護者同伴でしたから」

「だって~マスターに、会いたかったんだもん」

 若菜とバーテンダーのやり取りを、若菜の後ろで見ていた流花が、慌てて言った。

「やっぱりお店に迷惑よ!スイ、帰ろう!」

 若菜を引っ張って帰ろうとする流花を、マスターは引きとめた。

「食事だけでしたら、良いですよ。食事が終わり次第、すぐお帰りになって下さい」

 若菜は振り返ると、目を輝かせた。

「マスターありがとうございます!」

「では、こちらへどうぞ」

 マスターはテーブル席に、若菜と流花を案内した。

 若菜は椅子に座ると、マスターからメニューを受け取りながら言った。

「シロちゃんに、マスターを見せたくて一緒に来たの」

 マスターは苦笑しながら、流花に挨拶をした。

「初めまして」

「初めまして、白田です。突然、すみません」

 流花は言いながら頭を下げ、顔を元に戻した。 

 マスターは、流花をみつめていた。

 その表情は、何処かいつもと違うマスターだった。

 じっとマスターにみつめられ、流花は言った。

「あの……私の顔に、何かついていますか?」

「あっ、いえ……失礼しました。お決まりですか?」

 メニューを広げている若菜に、マスターは言った。

「じゃあ、これで。シロちゃんは?」

「同じので良いよ」

「かしこまりました。では、失礼します」

 マスターはメニューを下げ、若菜と流花のテーブル席から離れた。


 カウンター席から若菜たちをチラ見していたちはるは、嫉妬が混じった声を上げた。

「あのツインテールの子が、社長の娘なんだ。よく知っているのね。さすが秘書!アタシたちとは、次元が違うわ」

「そんな……私だって、娘さんにお会いしたのは最近です」

「ふ~ん。まぁ、イマドキの女子高生って感じね」

 ちはると亮が会話をしていると、赤井がじっと若菜たちをみつめ、馬場にそっと言った。

「可愛いな~ねっ、馬場さん!」

「おっ、おお!赤井、どっちがタイプ?」

「ツインテールの子!」

「俺は、ショートカットの子だな」

「馬場!赤井!あんた達は、なんてこと言ってんの!」

 すかさずちはるの罵声が響き、馬場と赤井は慌てて首をすぼめたのだった。



「そろそろ、行きましょうか」

 亮の声で、ちはるたちはカウンター席から立ち上がった。

 結局会計は全て馬場が持つことになり、馬場は今にも泣きそうだった。

 店を出る時、食事中の若菜たちの背後を通りかかる。

 その時若菜は初めて、亮達がいることに気がついた。

「北神さん!こんばんは。いたんですね。ちっとも、知りませんでした」

「こんばんは。会社の人たちと、一緒だったの」

「私は、友達とご飯を食べに」

 そう言った若菜に、ちはるが口を出した。

「あら、マスターに会いに来たんでしょ」

 初めて見るちはるに、若菜はとまどっていた。しかし、そんなことはおかまいなしにちはるは続けた。

「水田若菜さんね。北神さんから、聞いたわ。初めまして。私、友光ちはる。後ろの二人は、同僚の馬場と赤井」

 唐突にちはるに紹介され、馬場と赤井は慌てて頭を下げた。

 緊張している馬場と赤井の二人とは対照的に、臆することなく、若菜は自分を名乗った。

「初めまして、水田若菜です。こちらは、友達のシロちゃん、白田流花ちゃん。……友光さん」

「あら、ちはるで良いわよ」

「ちはるさんは、この店長いんですか?」

「いいえ、今夜が初めてよ」

「良かった!」

「どうして?」

「私、ここのマスターに一目ぼれをしたの。ちはるさんが常連だったら、手ごわいなって思ったの」

「あら、初めてだろうが、常連だろうが、そんなの関係ないわ」

「凄い、強気!でも、若さに勝てるかしら」

「若さだけでしょ。アタシくらいになると、年相応の魅力ってのがあるのよ」

 ちはると若菜は、火花を散らすようにお互いをみつめた。

「ちはるさん、行きましょう!若菜さん、失礼します」

 亮は慌ててちはるの背中を押して、店を出たのだった。



「なんなのよ~あの小娘!」

 夜空に、ちはるの罵声が響く。

 その隣を黙りこんで亮が歩き、少し離れて馬場と赤井がのろのろ歩く。

「やっぱ、若い子は良いよな」

 何気なく言う馬場に、赤井はすぐさま反応をした。

「女子高生でしょ!良いよな~女子高生の彼女ほしい!」

「おまえ、彼女いないのか?」

「いませんよ~」

「友光は、マスターを気に入っているみたいだけど」

「ははは……無理無理」

 馬場と赤井は笑いあっていたが、ふと慌てて笑うのをやめる。

 ちはるが立ち止って、二人を睨んでいたのだ。 たちまち険悪なムードがただよい、そのムードを壊すように亮が切り出した。

「あの、私お先に失礼します。馬場さん、ごちそうさまでした」

「あっ、いや」

 唐突に言われたので、引きとめるのを忘れ、誰もが黙ったまま亮をみつめた。

「おやすみなさい」

 そう言った亮は、足早に歩き出した。



 独りになった亮は、一息ついてゆっくり歩き出した。

 ちはるが若菜に対抗意識を燃やしていた姿を思い出し、思わずクスリと笑う。

 ふと、若菜の隣にいた若菜の友人、白田流花を思い出す。

 ちはると同じように、流花もあの店に来たのは初めてらしい。

 気になることがひとつあった。

 若菜がマスターに流花を紹介した時、ほんの数秒だけだがマスターは流花をじっとみつめていた。

 ……なんだったのだろう、あれは……。

 気にし出すと、とまらない。

 なぜだか亮は、初めて焦りのようなものを感じていた。



 若菜と流花がbarジェシカの店内で食事を終えた頃、マスターは二人に声をかけた。

「遅いですし、タクシーを呼びましょうか?」

「……お願いします」

 若菜はつまらそうに、渋々言った。

 テーブル席を離れようとするマスターに、若菜は聞こえるように言った。

「帰るには、早いよぉ。マスターと、いっぱい話をしたいのにぃ」

 マスターは行きかけた足を止め、振り向きざま若菜の言葉をぴしゃりとはねのけた。

「そんなことを言うなら、出入り禁止にしますよ」

「え~やだやだ~!」

 駄々をこねる若菜を、流花が止めた。

「スイ、子供みたいなこと言わないの!マスター困ってるでしょ」

「は~い」

 少しひねくれたように若菜は返事をしたが、ふと思い立っていつもの口調で言った。

「パパと、一緒なら良いのよね?」

「二十時までなら、良いですよ」

「意地悪ぅ~」

 ふたりのやりとりに、思わず流花は笑ったが、笑いはすぐ消えた。

 マスターが自分をみつめていることに、気がついたからだ。

 それは、とても長かったような気がするし、ほんの数秒のような気もする。

 若菜は、全く気がついていなかった。

「マスター。お会計お願いします」

 若菜の声で、流花はバックから財布を取り出した。

 そんな流花を、若菜が制止した。

「シロちゃん、良いよ!つきあってもらったんだから、アタシが払う」

 意地でも、若菜が支払いたいらしい。

 そう察した流花が言った。

「ありがとう。じゃあ、ごちそうさま」

 流花は、素直に若菜の好意に甘えた。

 会計を済ませた若菜は、マスターに言った。

「マスター、携帯のラインを教えて下さい」

「携帯は、持っていません」

「今時?うっそだあ~」

「本当です」

「じゃあ、アタシ携帯プレゼントしちゃう!」

「プレゼント?」

「マスターと電話したり、ラインを送ったりしたいんだもん」

「ボクは機械音痴ですから、携帯をプレゼントされても使いこなせません」

「それって、プレゼントされても迷惑って、遠回しに言いたいの?」

「はい」

 マスターは、笑顔で返事をしたのだった。

 そんな若菜とマスターを、テーブル席に座っていた流花はぼんやりみつめていた。

 いつの間にか、マスターをみつめていたことに気がついた流花は、慌てて視線をそらした。

 ……やだ、私ったら……。 

 マスターをみつめていた自分を、流花は恥じていた。

 しかし、自分をじっとみつめていたマスターの顔がはなれない。

 楽しそうに話をしている若菜を、うらやましく流花は感じていた。


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