タイトル未定2025/11/19 08:13
翌日若菜は、昨夜のことをさっそく親友の流花に報告した。
クールな流花は、あまり表情を変えずに若菜に言った。
「へ~あんたが、年上のおじさんに一目ぼれね」
「おじさんって、失礼よ!背が高くて、やさしい物腰で。あれこそ、ダンディって言うのかな」
「ふ~ん、ダンディね」
「ダンディな人って、初めて見た!」
「そこまで言うんなら、私もお目にかかりたいわ」
「本当に?シロちゃんが、そんなこと言うなんて珍しい!」
「だって、スイが本気で好きになった相手なら興味あるし」
「本当に見たい?見たい?」
「そりゃ~少しは、興味があるわよ」
「じゃあ、お店に行っちゃおうか!」
「ちょ……ちょっとそれは、無理なんじゃないの!」
「え~行こうよ!アタシ、マスターに会いたいもん!」
「も~スイったら、我がまま!」
流花が声を上げたところで、休み時間が終わるチャイムが鳴った。
業務中にも関わらず、ちはるは机の上で寝そべる。
その日の朝、北神を見つけ半ば強引に土曜日亮とbarジェシカに行くことを決め、ちはるの顔はニヤついていた。
「ちはるさん、お茶をどうぞ」
そつなく、部下の赤井がちはるにお茶を差し出す。がばっと起き出したちはるは、目の前の赤井をみつめた。
「やっぱ、赤井だわ!気が利く~」
ちはるは、ゆっくりとお茶を飲みだした。
「あ~うまいわ~!」
「友光!お前は、おやじか!」
さっそく、馬場の罵声が響いた。
「あのね……女伊達らに、あんたの倍。いえ、それ以上にこっちは働いてんの!あ~お茶がうまい!」
「けっ!良く言うぜ。寝ていたくせに。おい、赤井!俺にもお茶をよこせ!」
「あっ、すみません。今、手が離せないっす!」
赤井はいつの間にか自分の席に着き、パソコンに向かっていた。
馬場は軽く舌打ちをして、ちはるが秘書課の北神亮と、話をしていた光景を思い出す。
ちはると亮、実に摩訶不思議な組み合わせ。
「なぁ、友光」
「あ~?」
ちはるはめんどくさそうに返事をすると、やれやれと言うように、パソコンのマウスに手を伸ばした。
「おまえ、ぱっつんと、何を話していたんだ?」
「また、それ~?しつこいよ!馬場には、関係ないでしょ」
「関係ない?そんなわけないだろ!」
「もう、うるさいなぁ!土曜日の夜、会う約束をしただけよ!」
「友光が、北神ちゃんと?嘘だろ!北神ちゃんが、友光を相手にするのかよ!」
「失礼ね!」
「何処で、会うんだよ!」
「近い!近すぎ!」
ちはるは迫ってくる馬場を体ごと押しのけ、観念したように約束した場所と時間を馬場に教えた。
土曜の夜の繁華街は、人々で溢れていた。昼間より、いきいきとした活力がみなぎっている感じだ。
広い駅前広場で、亮はかたまったようにちはるをみつめていた。
銀縁の眼鏡に、白いマフラー黒の長いコートの亮に対し、ちはるは十代の娘が見るようなファッション雑誌から抜け出した格好をしていたのだった。
このアンバランスな組み合わせは、たちまち周囲の人々の関心を寄せていた。
周りの視線が気になる亮。
しかしちはるは、天然なのか鈍感なのか、一向に気が付かない。
「なによ!」
さっそく文句を言うちはるに、亮は慌てて首を横に振る。
「さぁ、行くわよ!」
「は……はい」
亮は、慌てて歩き出した。
そんな二人の後を追う怪しい影が……と、言うのは大げさだが、馬場と赤井の二人がそっと後をつけていた。
ちはると同じように乗り気なのは馬場で、亮のように気が乗らないのは赤井だ。
「馬場さ~ん、もうやめましょうよ~」
「バカ!何を言ってやがる。黙ってついてこい!」
赤井は、しぶしぶ馬場の後をついて行った。
歩きながら、赤井の愚痴は続いた。
「も~ちはるさんに見つかったら、どうなるかわかってるんですか?」
「んなの、抑え込めば良いんだよ!」
「いつも、やられているくせに……」
「なんか言ったか~」
「何も言っていませ~ん!」
亮とちはるを見失わないように、馬場と赤井は歩調を速める。
繁華街は明るいので見失うことはないが、逆に気付かれる恐れがある。
仕事をしている時以上に、馬場の目は真剣だった。
赤井は相変わらず、愚痴を言っていた。
「寒いよ~腹減ったよ~」
「うるせ~な。おまえは、ガキか!」
「だって、もう七時過ぎているんですよ。あっ、あそこ入りましょうよ!」
離れた場所を歩いている亮とちはるは、横断歩道を渡っていた。
「わかった!月曜日の昼は、俺のおごりだ!」
馬場の言葉を聞いた赤井の顔が、ぱ~っと明るくなった。
「馬場さん!」
「はっ、はいっ!!」
「何、ぐずぐずしてるんですか!信号、赤になっちゃいますよ!早く!」
「おっ、おう!」
馬場と赤井は、横断歩道を慌てて渡ったのだった。
barジェシカの入口は、明かりが灯っていた。
「じゃ、入りましょ!」
臆することなく、ちはるはさっさと店の中に入って行った。
店の中のほの暗い雰囲気に、ちはるは早くもうっとりしている。
「いらっしゃいませ、お好きな席へどうぞ」
マスターの優しい言葉に導かれるように、ちはるはカウンター席に座った。
ちはるの後を追うように、亮はちはるの隣に座る。
マスターは、テーブル席の客に接客をしていた。
その姿を、ちはるはカウンター席からみつめていた。
やがてテーブル席から、マスターがカウンターに戻って来た。
「北神さん。今夜は、ご友人と一緒ですか」
マスターの言葉に、亮は思わず笑顔になる。
「はい。同じ会社で……」
「営業部の友光ちはるです。これを機に、よろしくお見知りおきを」
後の言葉を、ちはるはさらっと言った。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
マスターは、軽く頭を下げた。
亮とちはるの後をつけていた馬場と赤井は、barジェシカの店の前で、立ち往生をしていた。
「おい!店に入っちまったぞ!」
店のドアをみつめ、馬場がうらめしそうに言った。
「入りましょう」
いつになく、真剣な赤井。
「え~。入ったら尾行をしていたこと、友光にバレるんじゃあ……」
「此処まで来て、まわれ右して帰るんですか!さんざん人を連れまわして、ふざけないでください!」
「あ……赤井……さん?」
「どうして、ちはるさんを追いまわしたりしたんですか?」
「それは……友光が、北神ちゃんと会うのが信じられなくて。何を話すのか、気になったし。俺のこと、無視だし……」
「もしかしたらこのbarで、北神さんがちはるさんに、男を紹介しているかもですよ」
「えっ?」
「今頃ちはるさん、北神さんに紹介してもらった男と、意気投合をしていたりして」
「おっ、おい!」
「どうします?店に入ります?それとも、このまま帰ります?」
「は……入る!」
「月曜日の昼飯……」
「ちゃんと、おごるって」
すっかり形勢逆転のようなカタチで、馬場は赤井に押されながら、店の中に入って行った。




