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5.メイドは「大好き」を見つけました。

 オーデ城、玉座の間。

 先だってのマクスウェルの謀反関連の事後処理で国内外を駆け回る羽目になっている国王のかわりに、その玉座を守るのはアリエノーラ第一皇女。


 そして。


 ――数年前に事故死したとされていたが、その魂のみをマクスウェルが量産していた人造少に転移させた悲劇の女性、ヴィスタリア王妃である。


 その前に立っているのは、玉座の二人と同じ銀髪を結い上げた少女リエル。

 彼女もまた、マクスウェルによって量産されていた人造少女の生き残りだ。


 このオーデ城には、リエル同様の元マクスウェルの【花嫁】たちが侍女の他にも厨房、医局従者あるいは衛兵、庭師などさまざまな場所で働いている。銀髪あるいは黒髪で、どこか面差しの似ている少女たちの参入を、古参の職人たちはじめ快く思わなかった。


『俺たちの仕事が、女子供に分かるもんか!』


 それが、彼らのちっぽけなプライドだったのだ。


 しかし、半年近い年月の中で、彼女たちの勤勉さやそれぞれの長所、そして短所がわかるうちに、


『なんだ、同じような顔してる嬢ちゃんたち……あれでなかなか、やるじゃねえか』


 そう判断する人間が増えた。なんというかも、めっっちゃ上から目線である。

 なんだそれは。

 ともあれ、【花嫁】たちの職は、今後どんどん増えるだろう。今が岐路である。



 ――さて。

 それはさておき。



 ***


 リエルの簡潔な報告を聞き終わり、アリエノーラはほうっと肩の力を抜く。


「……では、毒竜(ヒュドラ)による健康被害は出ていないのですね」

「はい、シスター・アリエノーラ。避難した周辺住民や冒険者たちと一緒におりましたが、それらしき症状を発症した者はありませんでした。詳細は王立医療院からのレポートを待たないといけませんが」

「よかった。本当によかったです」


 リエルのように、元・【マクスウェルの花嫁】のなかで王都のなかで働いているものもいる。いざというときに王族の目……つまりはスパイとなるようにという意図もあってのことだ。


 先般、王都オーデ襲撃のおりにその中心地である広場にいたリエルは市井の状況報告のためにこの場に立っている。


「これも、リリウムの皆さんのおかげですわ。あの場所に皆さんがいなかったらどうなっていたことか」

「本当ですね。シスター・リエルも、怖い思いをしたのではないですか。大丈夫?」

「はい。ある人が……逃げていいんだと、言ってくれたので。ターニャ様が、ナディーネ様が……私の料理を待ってると、言ってくださったので」


 冷たい無表情が特徴だったリエルの頬に、薄く笑みがうかぶ。

 その様子に、アリエノーラは気づいた。


 『わたくしには好きがわかりませんわ』、と。

 リリウムの邸宅へと出仕する際にピシリと言い放っていたリエルとは、もう違う。


「シスター・リエル」

「はい、シスター・アリエノーラ」

「最後に一つ質問です。リリウムの皆さんの戦いを間近で見て、どう感じましたか?」

「それは、その……すごく、」

「すごく?」

「すごく、格好よかったですっ!!!」


 リエルは、笑顔でそう宣言した。

 リリウムは、彼女たちは強い。

 それでも、絶対に弱いものを見捨てない。

 立ち上がろうとする人間を捨て置かない。


 それが、男性の回復術師であろうとも。

 戦いたくない、と逃げ出すメイドであろうとも。


 リリウムは守ろうと、共に在ろうとしてくれた。


「ふふ。そうでしょう、私の大好きなリリウムの皆さんですものっ!」

「はい、シスター・アリエノーラ。私もリリウムの皆さんのことが……」




 大好きです。




 リエルは胸を張った。


「それにリリウムの皆さんが安心して帰って来られる邸宅を管理するのも、わたくしは大好きです。みなさん、お料理やお掃除を少しずつ覚えてくださっているんですよ」

「ええっ、ターニャさんたちとお料理っ!? う、うらやましい……っ!」

「はい。それでは、ヴィスタリア様、シスター・アリエノーラ。報告は以上となります。わたくしは失礼いたしますわ……枯葉ブレッドを焼いておきたいですので」


 深く一礼。

 リエルは謁見の間を去る。

 その背中はこの城を出立した日よりも自由で、大きく見えた。


***


「お母様」


 アリエノーラは呟く。


「ええ、アリエノーラ」


 いままで、アリエノーラとリエルのやりとりを黙って聞いていた王妃ヴィスタリアは、深く目をつぶったまま思案にふけっているようだ。

 国王不在のいま、ノーヒン王国の決定権は彼女にある。

 その際に起きた、王都オーデへの襲撃事件。


 悩みは深い。


「今回の襲撃、いままでだったらありえなかった大事件……すぐに対策を打たなくては」

「そうですね。特に、先の大戦で敗れてから長い年月がたっています……王都の守備も、今回の襲撃では役に立ちませんでしたし。王国軍の強化は急務ではないかと思います」

「そこは私も同感です。良い着眼点ですね、アリエノーラ」


 ヴィスタリアはやっと瞼を開けて薄く笑みを浮かべる。


 マクスウェルの一件は、王国のあり方を少なからず揺るがしている。

 そのどさくさで、政略結婚で婿を迎えるというアリエノーラのたどる予定だった運命は変わりつつある。このまま彼女が王位を継承するための法を整えるべきでは、という声が王城内でも出てきているのだ。


「いずれにしても、すぐにでも動き始めないといけない案件だし……襲撃の原因究明と王都の守護強化、議会の緊急招集、軍部の体制見直しは急務で間違いない」

「はい、そうですね。王都の守護は、宮廷魔導師団が徹底的に見直しをかけています。同時並行で襲撃者の特定も急ピッチで進めているとのことですし……でも、そちらはラプラスお姉さまが当たっているので安心ですね!」

「議会については、私がどうにかしましょう。元の体だった際に面倒を見ていた者も多いですしね」


 ヴィスタリアは胸をはる。

 ふむ、とアリエノーラは唇に指をあてる。


「残るは軍部の体制見直しですね」


 そうなると、頼れる相手。

 否、頼りたい相手はただ一人……。


「ターニャ様に、頼りましょう」


 アリエノーラのその言葉に、ヴィスタリアは頷いてペンを執る。

 辞令書。




 ――王族直属SSランクパーティ【リリウム】、ターニャ・アルテミシオフにオーデ王国軍の視察を命ずる。



お読みいただきありがとうございます。


今後はかっこいい女狙撃兵~女は下がってろ、と言われたので遠距離魔術で無双してます~とか書きたいです。

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