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とりあえず神様を殴るためにはどうすればいいですか?  作者: タコガマ
第2章 魅惑の声者編
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追いかけるもの、追いかけられるもの(岩)[翔太サイド]

 これは盗賊たちが慌てふためくより一時間前の話。


「さて、ゆっくり休んだことだし作戦を実行に移しますか!」

「ちょっと待って、これは何?」


 やる気に満ち溢れている翔太に対し、いまいち乗り気じゃないアリス。それはアリスに用意された品々が原因である。

 アリスが指さす先には縄で簡単に括り付けられた丸太、小石が大量に入った革袋、その総重量は約15キロといったところか。


「確かに翔太が言った作戦に必要なのかもしれないけど、これって結構重いのよ?」

「そうじゃないと困るからな、よろしくなアリス!」

「…分かったわよ」

「じゃあ行きますか!」


 翔太たちは今、洞窟へ続く道の目の前にいる。そこで今のやりとりをしていたわけだが、こそこそと話すなら問題はない。なぜならそこに見張りがいないからだ。見張りがいない代わりにいくつかの罠が仕掛けてあり、それに引っかかると音が鳴り盗賊たちに知らせるものだというリナの情報どおりである。

 もちろんリナはその罠の位置を全て記憶しているためその罠に引っかかることなく、その後のことも考えて罠を一つ一つ丁寧に解除しながら翔太たちを洞窟の入口へ向かった。それでもリナが裏切ることを考慮して罠の配置を変えたり、増やしたりしている可能性があったため慎重に道を登っていくと再び情報どおり、洞窟の入口と見張りが二人いた。気づかれないように近づいていき、翔太とアリスで二人を眠らせた。


 ちなみに眠らせるのに使ったのはアリスが持っていた眠り薬で、その効き目は絶大。気持ちよく眠っている見張りの横で、淡々と作戦の最終確認を済ませたアリスとリナは指定された場所に移動する。テイルは二人の準備が完了したかを伝える伝言役として二人についていった。


 二人が移動している間に翔太は黒いローブを纏いある仕掛けを施し、自身の頭の中で作戦を何度もシミュレーションした。そしてゆっくりと深呼吸をして気持ちを落ち着かせたところで、テイルが二人の準備ができたことを知らせに翔太の元へ戻って来た。


「どうしたんですか、手が震えてますよ?」


 テイルの言葉通り翔太の右手はわずかに震えていた。翔太だって一人の人間である、恐怖を感じて当然であり、そう簡単に慣れたりましてや克服できるものではない。しかし男として少女のあの涙を見た後で、怖いから無理だと言って逃げ出すことはできない。後には引けない状況で自分があの子のために何ができるか、自分の気持ちを再確認し覚悟が決まった翔太の目には強い光が宿り、いつのまにか手の震えも止まっていた。


「もう大丈夫だ!」


 翔太は自分で自分の両頬を強く叩きながら今まで聞いたことがないような力強い言葉をテイルに向けた。さしものテイルも何も言わず笑顔で返してきたため翔太もそれ以上何も言わなかった。

 無言での意思疎通をした気になっている翔太は少し上機嫌で、自分の両頬を叩くというベタな行動に対して空気を読んで笑いをこらえていたテイルも少し上機嫌で、互いの気持ちがわずかにすれ違いながらもいよいよ作戦開始の時――


 テイルの魔法により、風が洞窟内の明かりを次々と消していく。そしてそれに続くように翔太は“声質変化(ボイス)”で声を変えながら叫んだ。


「この山から出て行け」


 その声は洞窟内で反響し、それらしく盗賊たちに聞こえたのだろう。中から怒号が聞こえてきたことで翔太は予定通り洞窟から少し離れ、盗賊たちが出てくるのを待った。


「てめぇ、何者だ!?」


 そんな声が聞こえてくると怒り心頭といった様子で盗賊たちが出てきてお決まりのセリフを言うなか、翔太も自分が考えた設定で話を進める。


「私はこの山の神様に仕える者。汝らはこの山を汚した、その罪は軽いものではない。即刻ここから出て行き、二度とこの地に足を踏み入れるな。これを忘れた者にはこの山を守護する獣が無惨な死を与えるだろう」


 翔太が考えたのは、山を汚されて怒りに燃える神様の使いというものだ。これに対して周りから色々つっこまれたが、まぁ気にしたら負けだろう。

 自分のセリフを噛まずに言えた翔太はわずかに高揚しながら盗賊たちの反応を待った。いきなり戦闘になったときのことを考え、身構えたのだが彼らの反応は意外にも話を続ける流れだった。


「布教活動ならよそでやりな。それかただの酔っ払いなら、特別に見逃してやるからさっさとどっか行け!」

「…愚かな。これは我らの最大の譲歩だ、これを無視するなら汝らに災いが降りかかるだろう」

「…何だと?お前、頭のネジが飛んでるぜ。そんなに言うならその神様とやらをここに連れてきてみろよ!」

「そうだ!それができたら俺も神様がいるって信じてやるよ!」


 山の神という存在するか分からないものを連れてこいなど無理な話だが、この時翔太は不覚にも盗賊たちの言葉に僅かばかり同意してしまった。確かにいきなり「神様は存在する」と言われたら、自分も彼らと似た反応をするだろうと思ったからだ。ここだけなら彼らの方が常識的なのかもしれない。

 しかしそれでも翔太は知っていた、人の不幸を笑うような奴だが神は確かに存在していることを。


「ここに神を連れてくるのは不可能だが…神はいるぜ」


 盗賊たちが動揺しているなか、思わず出てしまった言葉に翔太が一番驚いていたがなぜか優越感を感じていて、それが思わず顔に出てしまった。そんななか翔太は思い出したかのように道の方へ移動しつつ“物体引力(フックショット)”を発動させた。

 それにより大岩が轟音を上げながら翔太の方へ引き寄せられていく。盗賊たちは翔太と大岩の間にいるため、それをどう解釈したかは想像するに難くないだろう。


「逃げろ!」


 無事に“物体引力(フックショット)”が発動したことを確認し、先に走り出した翔太は再び“声質変化(ボイス)”で声を変え、叫んだ。その声に従って全員が大岩とは逆の方に、つまり翔太がいる方に走った。道を下り始めていた翔太は後ろを確認しながら、そのスピードを徐々に落とした。

 その後ろに続くように逃げてきた盗賊たちも角を曲がった後で安心しきったように足を止めたが、この時翔太の最初の難関が訪れた。


 いくら“物体引力(フックショット)”で引き寄せたからといってもその動きは直線的なものだ、自分の意志で動き方を変えたり、ましてや都合よく曲線を描くことができないのは承知している。そこで翔太が考えたのは曲線を描くのではなく、あくまで直線的な角ばった動きで強引に曲がること。そうなると問題なのは翔太のタイミングである。


 仮に翔太と大岩の距離が遠いと大岩が道を無視して転がり、そのまま落ちて作戦が台無しになってしまうが、距離が近いと大岩に轢かれお見せできない姿になってしまうだろう。必要なのは絶妙な距離感を維持しつつそれに合わせて動くことである。

 翔太は曲がり角を過ぎたあとすぐに止まることでやって来る大岩の軌道を少し曲げた。それにより道の曲がり角まで引っ張ってきた大岩は落ちることなく、半ば道を無視した形になったが結果的に曲がることができた。

 その時盗賊たちの純粋な悲鳴が聞こえてきて「ざまあみろ」と思う翔太は笑みを浮かべながら再び走り出した。


 ひとまず三つある心配の内の一つが解消され、細心の注意を払いながら道を下っていき最後の曲がり角を過ぎたところで作戦の第一関門をクリアした翔太は直線道を全速力で駆け抜ける。その途中で盗賊たちは魔法を撃ち続けたが、びくともしない。そのことをリナから聞いていたからこそこの作戦を思いついたわけだから、そこに関しては心配ない。


「団長、どうすれば!?」

「くそ、仕方ない!お前ら脇に…」

「このまま全力で走れ、一か八かこの先にある崖に飛び込むぞ!」


 ここで翔太は“声質変化(ボイス)”で団長の声を使い、盗賊たちを誘導した。ここまで連れてきたのに一か八かで脇に飛んで避けられたら厄介だと考えた翔太は、状況が分からない時ひとまず前にいる人間の後を追うように逃げるという集団心理を利用した。そして前を走る団長の指示として「走って逃げる」ことだけに集中させようとしたのだ。

 しかし翔太もそんなに余裕があるわけではない。翔太が速すぎると後ろの指示が届きにくくなるが、遅すぎると追い越されてしまい盗賊たちに逃げられてしまう。だからこそここでも付かず離れずの距離を維持しなければいけないのだ。


 しかしいくら先を走ると言っても、走力に差が無ければできないことだ。だから翔太はテイルに自分より足が速い人がいたらその人に追い風を当てたり、砂埃をあげたりして妨害するように頼んでいた。それにより翔太を追い越す者はいなかったが、それでも何があるのか予想できないため、団長が口を開くたびにそれを同じ声で妨害し続けた翔太はついに崖の手前までやって来た。


「下は川だ、飛び込むぞ!」


 息切れしつつも翔太は団長の声で再び盗賊たちに指示し、自身も崖に飛び込んだ。それと同時に“物体引力(フックショット)”を解除したことで、大岩も引きずられていた勢いのまま崖下に落ちていった。


 本来ならこのまま崖下に落ちていくはずだが、翔太は飛び込んだ場所より少しずれた位置に向かって手を伸ばし再び“物体引力(フックショット)”を発動した。それにより翔太の身体は手を伸ばした方向に引き寄せられた。その先にいたのは重いモノを付けさせられたアリスの姿。


 作戦通り崖の近くで身を隠していたアリスは翔太が自分の方へ来るのを確認した後、翔太に渡されたあの重いモノを身につけたことで“物体引力(フックショット)”の条件をクリアした。それにより翔太は無事崖の上に戻ることができたのだ。


「ちょっと岩が掠ってた。けっこうギリギリだった…」

「ひとまずお疲れ様。やっぱりちゃんと成功するか心配だった?」

「…自分で言ったことだけど、走ってた時ちょっと後悔してた。けどこっちの心配はしてなかったよ、アリスがいたからな。」

「…あとはリナ次第ね」


 自分の予想よりギリギリだったことで驚いていた翔太に照れた様子で労いの言葉をかけるアリスだったが、二人の役目はここまで。

 これから先は、不幸に抗えなかった少女の勇気が試される。


読んでいただきありがとうございます。これからもよろしくお願いします。

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