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38、今思えば、攻防戦 2

モルテーナ皇国の首都を襲った魔物の大群と守備隊の戦いは、人間側がおよそ千三百、対して魔物の大群は四千近くにも及んだ。


死を覚悟させられるような数の差は 数度の大魔法によって8百程にまで減らされ、力の上では互角の戦いに近くなっていた。両者の距離も無くなり、これよりは直接の戦いに移行していく。



「ここまで近くなると大魔法は使えないし、この後は乱戦に成る。ミャウラ、サトミ、ファニルは ここで守りに徹して皆を守ってくれ。ファニルとサトミは 向かってくる敵以外は魔法を使わずに魔力を節約するようにな」


「了解だよ。安心して戦って来てね」


「レンジぃ・・あたいはぁ?」


「変な声だすなよ、ペペルナは俺と来てくれ。俺が魔物の足を切るから倒れたら素早く仕留めて体力を節約しよう。それにな、大物を狙うから 殺したら直ぐに袋にしまっておけ。工房を作る資金ができるぞ」


「レンジぃぃ、おまえってば 最高のパートナーだ。絶対に離れないで付いていくよ」


遅々として進まない「工房を手に入れる」という夢に 少なからず焦りを感じていたペペルナは、レンジの提案に大感激であった。




(私って、ここでも役立たずなんですね。攻撃も出来ずに守られてばかり・・)


マーマレーナは自らの能力を卑下している。魔力の総量は高いのに それを生かすべき魔法が使えないからである。

転移の魔法では有効なので それほどコンプレックスを持たなくて良いのだが、魔族として戦えないのは想像以上の寂しさを彼女に与えていた。



「私もここでは何も出来ませんね。それでも彼の近くに居たいですし、戦っている姿を見詰めていたい。もしも、彼が死んだら正気を失って私も死ぬかもしれませんね」


「ククルチアさん?」


「マーマレーナさん、貴方も同じだから こんな危険な場所に来てるのでしょう。そして、そんな私たちがここに居るだけで彼はより強くなれます」


「居るだけで良いなんて・・」


「彼に助けが必要なのは この場だけではありません。マーマレーナさんにしか出来ない事で彼を助けられる事が必ずありますよ」


「私にしか出来ないことで・・まだ 良くかりません」


騎士も冒険者も団体での戦いをしている中、レンジとペペルナは魔物の間を駆け抜け 強い魔物を中心に狩っていた。オーク程度の相手は切り捨てて放置している。



「ペペルナ、高そうな値段の奴は近くにいるか?」


「あそこに赤オーガが居るけど、手前にも強そうな奴がいる」


「よし、行くぞ」


「だから、危ないってば」


ゲームのように雑魚魔物を無双しながら進む為、彼らの後ろには魔物の死体で道が出来ていた。適当に動いているように見えて 彼らは本陣に強い魔物が向かうのを防いでいるのだ。

逆に言えばそれ以外はミャウラ達の敵ではないと 絶対的な信頼もしていた。




「体付きはイノシシで顔がピラニアみたいな奴か、キモいな」


「あいつの肉は旨いんだ。一匹持って帰ろうぜ」


「その話 乗った」


真っ直ぐレンジが魔物に走り出すと 相手も猪突猛進とばかりに突っ込んでくる。

ペペルナの位置からは両者が正面からぶつかる様に見えていたため、相手の頭を一撃で割るつもりなのだと思っていた。

だが、次に見たときには 6本ある魔物の足の 右3本が宙に舞っていた。恐ろしいタイミングで横にずれたレンジが 擦れ違いざまに切り飛ばしたようだ。魔物は勢いのままゴロゴロところがって丁度ペペルナの近くにたどり着いた。

周りのザコを倒しながらレンジが戻ると、彼女は守りを彼に任せて転がっていた魔物にとどめを刺し アイテム袋に入れていく。


遠巻きに何組かの冒険者チームがその様子を見ていた。彼らはレンジ達が魔物の集団に切り込んで作った道に入り込み、残されている手ごろな強さの魔物を狩って行くため、楔を打ち込んだように魔物の群れを切り裂いていく。



もの凄い迫力で走って来る赤オーガに離れた位置からレンジが剣を一閃するとオーガの足は感覚を無くし、地響きを立てながら うつ伏せに倒れてしまう。ペペルナが背中に飛び乗り、首筋にハンマーを叩き込むと さすがのオーガも生きてはいられなかった。足だけに技を使ったのは魔力の節約である。さすがの彼も魔力が心細くなっていたのだ。


こうしてレンジとペペルナは地竜をはじめ、多くの強い魔物を仕留めていった。それは同時に魔物の集団を切り裂き、分断する形となり、そこにすかさず騎士団が突撃をして各個撃破していった。



戦いの趨勢が人間側の勝利に傾いていると思い始めたころ、それはやってきた。



「ちっ、来たか。逃げるぞ」


「えっ?ちょっ、レンジ」


レンジは声を出すより早く動き出し、ペペルナを抱きかかえて走り出した。急にお姫様ダッコされたペペルナは混乱している。



「逃げろーーぉぉ。死にたくなかったら全力でさがれー」


「レンジ殿・・。全軍撤退、全力で下がれーっ。走れー」


さすがに、レンジと行動を共にしていた騎士団長コルトスは事の重大さを感じ取り、指示通り騎士達を下がらせていた。

冒険者のパーティにもカンの良い者達は多く、危険を感じ取って一目散に走り出していた。


遅れたのは獲物に欲を出していた中堅の冒険者たち。彼らが気付いた時には 目の前に空から巨大な黒い陰が舞い降りた後であった。



暴風と地響きで動きが取れなかった冒険者や魔物たちは、次の瞬間に肉片となってドロと一緒に吹き飛ばされた。恐るべきドラゴンブレスである。




「黒いドラゴン・・だと。父が倒した災厄級の奴だぞ」


「倒し方をご存知なのですか?レンリスト王子」


「私の父は 黒竜の油断していた隙を突いて 竜殺しの斧で切り伏せたと言われています。その斧は国宝で今ここにはありません。あいつには一切の魔法が利きません、並みの武器では鱗にかすり傷すら付けられないでしょう。逃げるしかありません」



「しかし、ここで引いては都を守る事ができない。

・・・コルトス、私と共に都の盾となってもらえるか?。我々の血肉を貪れば満足して引いてくれるやもしれぬ」


「姫様。某に死に場所を与えて頂き ありがたく思います。もとより、先日 恩赦によって救われた命、存分に使ってくだされ」


悲壮な顔をしてはいるが 騎士達は誰一人逃げ出す者はいなかった。

既に冒険者たちは引く準備をしている。自由な彼らが未だに残っているのが不思議なほどだ。




「マーマレーナ。ゲートを開いて魔国に帰るぞ」


「いやです。お兄さまだけでもお帰りください」


「魔族である 私達がここで死んでも無駄死にだ」


「魔国では 私は能無しの笑いものです。それくらいなら 今ここで満足のいく生き方をいたします」


そう言って悲運な魔族の王女はレンジの腕にすがりつく。



「レナ・・」


「レンジさん、貴方まで帰れと言うのですか?」


「バカ言うな」


「「「!。ああぁぁーーーーーっっっ。ずるい」」」


もう直ぐ危険な距離になる黒い竜を無視して、レンジは 泣きそうなマーマレーナを引き寄せ初めてのキスをした。

これにはレンリストをはじめ、(嫁達以外)全ての者達は唖然とさせられる。


アトラントの大地と黒竜を背景にキスをする 若い男女のアンバランスな光景であった。




「レナと俺の魔力は似ていて相性が良い。魔力を俺にくれないか」


「ほんと?。・・あげるよ。私のみんなあげる」


両手を握って再び熱いキスを始める二人。

今まで劣等感で押しつぶされていたマーマレーナは、この時 心の底から幸せを感じていた。


逆に他の女性陣は 言葉に成らない羨望の念をいだいていたという。



時間にして ほんの10秒ほどのキスが終わると、幸せな顔をしているレナの髪をなでてから離れた剣士は

味方に被害が出ないように 前に出て行くと腰を落とし片ヒザ立ちの体制になる。



黒竜が周りの肉を食い終わり 走り出そうとする一瞬、透明な金属音を響かせて名刀 開放の楔は一閃される。

黒竜は躓いたように足をもつれさせ、骨の無い肉が崩れ落ちるように倒れていく。


そのまま全く動かなくなった竜を見詰めていた者達は 徐々に命が助かった事を確信し、やがて大歓声となっていった。



(どうやら向こうも片付いたようだな・・)


遠くに見えるアトラントの大地から黒い煙が一筋上がっていた。古代竜が恨みを込めてニニルケルナを焼き払ったのだろう。レンジが古代竜と契約し 友となった事が知れて大騒ぎになるのは後の話である。



モルテーナ皇国を襲った未曾有の災害は 僅かな犠牲者を出して ここに終わりを告げた。










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