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21、今思えば、平和な時

家族に不幸があって、精神的に大変でしたので更新が遅くなりました。

少しずつ頑張って投稿していくつもりです。

領主のククルチアは二つ返事で別邸の件に賛成した。

始めのうち無償提供すると言っていたが、それでは落ち着けないと言って交渉し 俺が預けてある物資の権利を全て渡して交換する形にした。

結婚するとは言っても その辺をハッキリさせてないと お互いに動きづらくなる。それに嫁は彼女だけではない。皆が落ち着けなくては家の意味が無い。




「すごい・・」


「大きいのね」


そんな訳で今日は家を見に来たのだが、予想したとおり 家と言うより邸宅という大きさである。もちろん領主邸から見れば小さいが一般人が住むような規模ではない。


驚いたことに この家にも日本的な風呂がある。デザイン的には洋風なのだが湯船に浸かって温まり、体は上がって洗う形式は同じである。何でも、英雄さんや、賢者様が好んでいた為 ステータスとして流行し定着したらしい。一度使うと良さが分かるから無理も無い。


殆どの家具は使えるように維持されていて 作りも豪華ではないが上等なものである。それらがそっくり手に入った訳なのでお互いに損は無い。

ククルチアも高額な資金を自由に動かせる為、以前のように商人になめられないで済む。




「ミケが居てくれて良かったよ。俺もツツルも水を出す魔法なんて使えなかったから、風呂が有るのに利用するのが面倒になるところだった」


「あっちも お風呂好きだから嬉しい」

(普通の人でもお風呂に入れる人は少ないのに 奴隷に成って入れるとは思わなかった。元は日本人なのでお風呂は願っても無い事だし、それに こんな事だけでも お兄ちゃんの役に立てて嬉しいよ)


ミケランティアはエルフらしく魔法を使える。

今はレンジの魔力を利用しているので少しやりにくい。しかし、彼と手を繋げるのでゴキゲンだ。

炎系統の魔法は使えないので 水を温めるのはツツルフルが担当してくれる。



「ほんと、凄いよね。あっち達が買い物をしている間に 新しいお嫁さんと家を手に入れたなんて・・」


「家は望んでいたけど お嫁さんは狙ってた訳じゃないからな」


「そんな事言ったら相手に失礼だよ。結婚するの嫌なの?」


「そういう風に考えられないほど高嶺の花だったからさ」


現実問題として、以前のレンジであったならククルチアと結婚するのは難しかった。

いくら女性は結婚相手を見つけるのが大変とは言っても利権が絡むと話は別だ。女は要らなくても利権だけは欲しいというハラ黒貴族は沢山居る。たとえ2人が望んだとしても 色々な方面から邪魔が入るだろう。

それが可能になったのは、やはり冒険者の功績が300を越えたという事実だ。

たとえ それが幸運に左右されたものとは言え 実績を出すのは並大抵ではない。



ドンドン☆☆ ドンドン☆☆



「・・・・早速 つがいに成る為に来たか?」


「あぅ、その・・、新居に入られたお祝いと、この前のお礼を兼ねてお食事をお持ちいたしましたのよ。いきなりでは食事の準備もままならないでしょう」


「良く来た・・歓迎する。恥ずかしがる事ではない、2人でレンジを助けていく・・仲間だ。家族とも言うらしい」


「ありがとう。ツツルフルさん」


ツツルフルは人の心が読める訳ではないが、ある程度は感じる事ができる。そんな彼女から見たククルチアは純粋な心でレンジを好いていた。共にレンジの側に居る者として何の問題も無く、大歓迎だった。


彼女に付き添ってきた執事やメイド達が手際よく食事の準備をしていく。


ククルチアを妹のように大切に思っていたメイド長のフローリアは、この前の一件以来 レンジを気に入り、彼女の結婚相手とすることに大賛成であった。

もしも 年齢が近かったらフローリア自身が立候補していたかも知れない。そんな訳で喜々として2人の応援をしていた。



「えっと・・これはいったい」


「今晩は。レンジさん。妻が旦那様の食事を用意するのは不思議な事ではありませんのよ」


今の彼女は 領主の戦闘服とも言えるようなドレスを着ていない。年相応の可憐なドレスだ。そんな姿で妻や旦那様などの言葉を使うのは新鮮であり破壊力がある。思わず少しの間 彼女を見つめてしまった。



「やはり、急に押しかけて迷惑でしたかしら・・」


「まさか。ありがとう チア。甘えさせてもらうよ」


「ふふっ。いいですわ。もっと甘えてください」


流石に領主の別邸だった屋敷だけあり、テーブルはそれなりの人数が座れるようにセットされていた。

席に着いたレンジの両隣にはツツルフルとククルチアが着き、ミケランティアは向かい側に着いた。

奴隷の立場でそこに着くだけでも異例の待遇なのだが、兄の近くに行けない自分を寂しく思う。





「ミケちゃん。私と一緒にお風呂入るの。背中流してあげる」


「えっ、でも・・レンジに 様より先に入るなど出来ません」


「いいの。今日はレンジ、ククルチアと入る」


「あっ、うぅ、その・・。わかりました・・」


(・・・そうでした。もう、お兄さんでは無いのでした)


この後、風呂では感傷に浸る暇も無くツツルフルに磨き上げられてクタクタになるのだった。




「それでは、ククルチア様。明日の朝 お迎えに上がります」


「レンジ様、ククルチア様の事 宜しくお願いいたします」


執事とメイド部隊は当然のように領主を置いて引き上げて行った。



皆が引き上げるのを待っていたように二人は軽くキスをする。ククルチアの瞳には最初に出会った時の様な打算はカケラも無くなっていた。

自分に乱暴した暴漢を実力でぶちのめしてくれた。まるで少女が夢に見るような出来事、それを目の前で行った彼を本気で好きになっていた。


この世界の男性は超草食系男子で普段は女性に対しての その手の欲望は殆ど無いと言って良い。それは逆に言えば(家族は別として)、女性の為にわざわざ自らを危険に晒して戦う意味が無くなる事を意味する。

「自分の事は自分で何とかしろ」という、対等な立場ではあるが、女性から見ると薄情な関係が常識として成り立っていた。


自分の彼女を守る為に名の知れた強者に立ち向かって倒してのけた。その姿は会場に居た全ての女性に夢を与えていたのだった。





風呂から上がったミケランティアは、誰も居ない居間のソファーで声を殺して泣いていた。

今の自分は故郷を失い 家族も居ない。


やっとめぐり合えた兄は異界で記憶を無くし、彼の隣には素晴らしい女性がいる。そして今日は2人目の奥さんと成る人が現れた。前世の兄妹としてなら 兄の結婚はいずれ訪れる事であり 心から喜んでいたであろう。


だが、一人ぼっちである今の自分にとって、兄を失う事はとてつもなく寂しい現実となっていた。

迷子になって取り残された幼い子供のように、足場の無い 不安で孤独な心が彼女を満たしていた。



「・・こんな世界に生まれて来なければ良かった」


「俺はミケが居てくれて嬉しいぞ」


「えっ」


見上げると 何時の間にかレンジが側にいた。

彼は彼女の両脇を持ち上げて、親が幼い子供を抱きかかえるように抱き上げた。左腕でイスのようにお尻をささえ、右腕を背中にまわして優しく頭をなでていた。

左腕でレンジの首に抱きつき、アゴを肩に乗せながらミケランティアは声を出して泣き出した。

前世でもレンジは同じように 親が居ないときに寂しがる彼女を慰めてくれていた事を思い出してしまったのだ。



「よしよし、いい子だ。寂しかったんだな」


「ううっ、ううううぁぁぁん」


「俺も、ツツルフルもククルチアも、皆ミケの事を大好きだぞ。俺たちは仲間で家族だ、寂しくないぞ」


「れんじ・・にぃちゃん・・」


「にぃちゃん・・か。そう呼びたいなら呼んでもいい。俺がミケのにぃちゃんに成ってやるよ」


「・・・いいの?」


「いいぞ、もしも ミケが大きくなって まだ1人で寂しかったら 結婚して本当の家族に成ろう」


「えっ、結婚って・・その・・」


この時 既にミケランティアの寂しさは完全に消し飛んでいた。今は驚きと恥ずかしさと、そして例えようも無い喜びが彼女を満たしている。




「あっ、そう言えば俺はミケの主人だし 今からでも自由に出来るんだよな。ちょうどイイから命令させてもらおうかなー」ふふふ


「えっ、あの、そんな・・今からですか・・」


「そう、今からミケは さとみ という名前にする。今日からうちの家族として生まれ変わって さとみ だ。嫌なら止めるから正直に答えてくれ」


前世の姿そのままの兄が 前世の自分の名前を呼んでくれる。まるで一番平和だった時が戻ってきたようだ。



「ううん、嬉しいよ。レンジにぃちゃん」


「それじゃあ、また 明日から宜しくな。さとみ」


「うん。お休み、レンジにぃちゃん」


幼い少女を優しく慰めるレンジを2人の嫁がコッソリ見ていて、ますます惚れてしまったという。


ローレシアが警告したように、レンジは着々と女性との縁を増大させていた。特にミケこと さとみ は元の世界の兄妹であり縁が深い。


実の兄妹が お互いに相手の存在を全く知らず別な場所で育ち、他人として出合ったなら 急激に惹かれ合い熱烈な恋に落ちると言われている。

魂だけは兄妹の2人が惹かれあうのは必然とも言えた。








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