海辺に眠る最終決戦兵器
海辺に眠る最終決戦兵器
モジャは海まで軍用車を走らせた。
海辺は美しい砂浜だった。
軍用車を砂浜の前で止めて。(あまりにも寒村で、車の整備さえ心もとないため、砂地に軍用車を入れるのをモジャはためらったそうだ)
モジャは言われた通り南にむかって砂浜を歩きはじめた。
あの悲惨な戦争がむかえた最後の夏。照りつける太陽の下、モジャは汗まみれになってひたすら歩いた。
モジャは軍人だ、気が遠くなるような距離を歩ける。だが、歩けど歩けど、武器をわんさと詰め込んだ、武器庫の姿は現れない。
途中あった建物といえば、砂浜を歩きはじめた頃にぽつんとあった、一軒のほったて小屋だけだった。
モジャは歩いた。ひたすら歩いた。
武器をわんさと詰め込んだ、武器庫を探して。
歩けど歩けど、武器庫の姿は現れない。
いくらなんでもおかしい。あの村人、話が噛み合わなかったが、場所を勘違いして間違ったことを言ったのではないだろうか?
モジャがそう思いはじめたころ、浜辺で海藻を取っているひとりの女性をみつけた。
「おーい」
モジャは女性を大声で呼んだ。
「はーい」
返事をした女性にモジャは、探している所在地について尋ねる。
モジャの言葉に、女性はモジャがいま歩いてきた方向を指さしたという。
「兵隊さーん。あちらに向かってずっとずっと歩いてくださーい」
なんだと?
モジャは混乱した。海藻取りの女性が指さした先は、明らかに歩いてきた北を指さしていた。
あの村人め! やはり方向を勘違いしおったな!
モジャは怒りを感じたが、同時にほっと安心もした。
モジャは女性に礼を述べて踵を返すと、いま来た方向に向かって再び歩き始めた。
歩いて歩いて、歩いて歩いて。
歩きはじめた頃に見たほったて小屋を通過して、軍用車を止めた場所まで戻ってきた。
こんなに歩くことになるとは思わず、軍用車に置いておいた水筒から水をガブガブ飲み、モジャは一休みした。
太陽はまだ高く、空は青い。吹き抜ける潮風が心地良く、モジャの心は少し落ち着いた。
無駄足を取らされはしたが、武器がわんさと保管された武器庫はもう目前だ。
モジャは休み、気力が回復するのを感じると、再び北に向かって歩き出した。
また夏の太陽が照りつける下を、歩いて歩いて、歩いて歩いて。
だが、いっこうに武器庫の姿は現れない。
今度はほったて小屋ひとつ現れない。
歩いて歩いて、歩いて歩いて。
それでも武器庫の姿は現れなかった。
またも海辺で海藻をとっている人をモジャはみつけた。
おそるおそる、モジャは再び書類に記された所在地を告げると、その人はモジャがいま歩いてきた南方向に指を向けてこう言った。
「兵隊さーん。ずっとずっとあっちだよー」
モジャは歩いた、また歩いた。ひたすら歩いた。
夏の暑さで自分がおかしくなって、武器庫の前を通り過ぎたのではないかと疑い、途中何度か頭に海水をかけ頭を冷やした。
だが、戻る道に武器庫はやはりなく、モジャは自分が止めた軍用車のところまで戻ってきてしまった。
軍用車のところまで戻ってくると、村の子供がモジャの軍用車をみつめていた。
モジャはもうちょっとおかしくなっていて、村の子供にこう言ったという。
「この書類の所在地に案内してくれたら、この車に乗せてやろう」
子供は大喜びで、モジャを武器庫の場所に案内する。
「こっちだよ! 兵隊さん!」
子供が案内した先は、すぐそこだった。
モジャが南に歩き始めた時に見た、あの一軒のほったて小屋だった。
「ここだよ! 兵隊さん!」
そう笑顔で言う子供の前で、モジャは絶句し立ち尽くしていた。
大きさおよそ四畳半にも満たない、廃材で作られた小屋。壁をなす板には隙間すらあいている、文字通りのほったて小屋なのだ。
これが、武器庫であるわけがない。
これが、本土決戦に備える武器を収めた武器庫であるわけがなかった。
それでも、モジャは震える手で、ほったて小屋の引き戸を力任せに引き開けた。
そこにあったのは、浮き、網、縄、針、銛、等々の漁具だった。
これが、本土決戦に備える武器か!
モジャの心に、言いようのない真っ黒い感情が渦巻く。
これが、司令部の書類に記録された、本土決戦用の武器なのか!
モジャの口から、言葉にもならぬ怨嗟の叫びがほとばしった。
その怨嗟の声に、子供はおびえて一目散に逃げ出していなくなった。
やがて陽が傾き、夕暮れが過ぎ、砂浜が夜の闇に沈むまで、ほったて小屋の前で崩れ落ち、モジャは言葉にならぬ怨嗟の叫びをあげ続けたという。
あとがき
「つまり、最終決戦兵器は漁具だったんだ」
もじゃもじゃ頭の先生は最後、私にそう言った。
書類の上に書き連ねられた数々の武器庫。その記録のかなりのものが架空のものだったと、モジャは息子であるモジャ先に語ったそうだ。
それは明らかに誤記であるとか、そういう類のものではなかったとモジャは言う。
いったい誰がこの架空の武器庫を、作戦司令部の書類上に生み出したのかはわからない。
だが、あの悲惨な戦争がむかえた最後の夏に、私が命令を受けて探した武器庫のかなりのものが実在しなかった。それは紛れもない事実だとモジャは語る。
モジャが海辺の寒村で、恐怖の最終決戦兵器ギョグーとの遭遇からほどなく、あの悪魔の爆弾がこの国に次々と投下され、戦争は敗戦を迎える。
モジャが見つけだした、恐怖の最終決戦兵器ギョグーが、実戦に投入されることは遂になかった。
実在しないがゆえにその存在が生み出された、恐怖の最終決戦兵器ギョグー。
あまりにもあやふやな存在について語る、心を突き刺す銛のような物語は、口伝によって私へと伝えられた。
あらゆる情報が明確ではなく、今現在においてこの話の真偽を確かめることはおそらくかなわない。
だが、モジャ先が言うように、
「最終決戦兵器ギョグーについての公的資料は、今現在どこにも残存していない。だが、あの男が語ったことは絶対に真実であると、私は確信する」
その言葉を、私は強く、強く信じる。
口伝された物語であれば、やはり口伝するのが正しい姿なのかもしれない。だけど、時代は変わり、私と君が直接会って話すことは意外とむずかしくなった時代だ。
だから私は、この物語をはじめて文字にして、ネットという情報の海に放つ。
そしてこの文章を呼んでいる君は今、長い時間の果てに、この物語を引き継がれた一人になった。
いつの日にか君が、この物語を誰かに伝えることを、私は願う。
嘘だと思ってくれてもかまわない。この話を真実だと裏付けるエビデンスは、おそらくどこにも現存しない。
だけど、この物語が誰かの作り話であったとしても、私はこの話には意義があると思う。
ポスト真実という言葉が存在する時代。
恐怖の最終決戦兵器ギョグーは、まだこの世界のどこかで、その毒牙に世界をとらえようと狙っているのではないか。
私はそう思うのだ。
最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
私に口伝された恐怖の決戦兵器ギョグーの物語。
君がこの物語の継承者になってくれることを、最後に願って、この文章を終わりにします。
※最終決戦兵器ギョグーについて、何か情報をお持ちの方がいらっしゃいましたら、この悪魔までぜひ一報いただきたく。
2026年版あとがき増補
2026年の今現在、この物語が真実である可能性はうなぎのぼりに高まっていると私は確信している。
捏造、改ざん、歴史改変が当たり前となった21世紀の令和日本。21世紀に19世紀の大日本帝国へと回帰しようとする今現在、馬鹿一本帝国と言っていいこの国の現実を前にして、最終決戦兵器ギョグーが本当に存在したことは、疑う余地がないほどに蓋然性の高いことだと私は確信するに至る。
過去に口伝された遠い戦争の話は、21世紀の令和日本と呼ばれる馬鹿一本帝国の実情を語る。私はそう確信するのだ。
繰り返しになりますが、本作品はノンフィクションです。




