ピッチャーへの挑戦⑪
「……古義。お前、ピッチャーやる気あるか?」
「え?」
古義が眼を丸くした。
「お前も知ってると思うけど、正式にピッチャーとしてやっていくつもりなら、他の部員と切り離して、それ相応の練習を積まないとだろ? 古義が『ピッチャーをやりたい』って言うんなら、こっちもそう対応する。あ、でもイレギュラーもあるけどな、ウチ部員ぎりぎりだし。けど、主軸はそこに置く。ちょっとやってみたいって程度なら、ガッツリこっちに集中させるわけにもいかないしな」
「そ、れは……」
古義が不安げな表情で明崎を見上げた。
それから恐る恐る、後方の蒼海を振り返る。
「……蒼海センパイ的には、アリなんですか?」
どうするのだろう。いつもならフォローを入れる所だが、明崎は湧き出た興味のまま無言を貫き、蒼海の反応を伺う。
何より今、古義に投げさせたのは彼なのだ。
そんな明崎の思惑に気づいた蒼海は、明崎に恨めしそうな視線を送ってから、渋々口を開いた。
「どうして俺が決めないといけない。他人に委ねる程度の『覚悟』なら、辞めろ」
「ちっ、違います! そーゆー意味じゃなくって! 蒼海センパイ今オレの査定してたじゃないすか!?」
「査定? してない」
「え!? じゃあ今投げさせたのは!?」
「確かめたい事があっただけだ」
「確かめたいコト?」
「お前には関係ない」
(いや関係あるでしょうよ!?)
と、古義は思ったが、蒼海相手に突っ込むなど勿論できる筈もない。なんとか口内に押し留めて、助けを求めるように明崎を振り返る。
何がおかしいのか、明崎は口元に手を当ててクツクツと笑っていたが、蒼海に凄まれてコホンと笑いを引っ込めた。
「答えは今すぐじゃなくていいぞ。今後に関わる話しだからな」
蒼海の件はこのまま流されるようだ。
諭すような優しい物言いに、古義は思考を切り替え首を振った。
「いえ」
真っ直ぐに明崎を見上げる。
握りしめた指先は、まだゴムを弾いた熱が残っていた。腕の筋が、ジンとした痺れを伝えてくる。
「オレ、やりたいです! やらせてください! ちゃんと使いモンになるよう、必死に練習するんでっ……!」
今度こそ、という思いが強く背を押していた。心臓がドクリドクリと熱い血液を巡らせる。
僅かな陰りもなく言い放った古義に、眩しそうに瞳を細めた明崎が口角を上げた。
「頑張ってな」
「っ!? っす!!!」
「うし、じゃあ先ずは何事も基本が一番! 最初に教えた横向きからだな」
「っす!」
「恭は? このまま座るか?」
「……ああ」
頷いた蒼海はネットとの距離を詰めた古義の背を一瞥し、自身の投球位置へと歩を進めた。
***
「かっずちゃーん! スゴいね!? ピッチャーやるの!?」
「っ、小鳥遊センパイ! 痛いっす!」
駆け寄った勢いのまま小鳥遊に飛びつかれ、古義は反動にグエッと潰れたカエルのように呻いた。
「あ、ごめんね!」
「ったく、ホントに直す気あんのかオマエは!」
笑う小鳥遊の首元を後ろから引いて救出してくれたのは宮坂だ。
後方の岩動が大口を開けて笑う。
「小鳥遊は感情表現が豊かだからな!」
「隙ありゃ体当たりかますのは豊かっていわねーんだよ!」
「隙を狙ってるわけじゃないよ?」
「余計タチ悪ぃーわ!」
「それよりも」
クスクス笑う風雅が、小馬鹿にするように宮坂を見遣る。
「アンタは残念でたまらないでしょ? たった数日でお役御免になっちゃって」
「あぁ!?」
「ちょ、宮坂センパイ、落ち着いて」
いきり立つ宮坂に古義がどうしようかと逡巡していると、蒼海とのピッチング練習を切り上げてきた明崎の声が割り込んできた。




