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忌み子の世界救世記  作者: 紅月ぐりん
謀略の魔王皇編
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74話

 そうしてサーベルグの壮絶な半生の一人語りは終わった。

「まあ私の話はこれくらいにして、今度は皆さんの話も聞かせてほしいですね」

「ぼくらの話?」

「ええ。コーちゃんの頼みですからこの先何年マガミネシアに逗留して頂いても構わないのですが、まさか一生をここで過ごすつもりでもないでしょう? ここを出た後どうするのか良かったら聞かせて貰えませんか」



「私はクロの傍に居て守り続けるだけだ。どこにいようとそれは変わらん」

「随分子煩悩になったものですね。気持ちは分かりますが」

 そう言ってチラ、とクロを見やる。

「何よりもまず故郷を取り戻すことだな。後の事はそれから考える」

とジュレス。

「オレは、とりあえず最終的には故郷に戻りたい。その方法が見つかるまでは、クロ達と行動を共にしようと思っている」

とユータ。

「ボクはまあ、クロ達がエスクエスに戻ったら島に帰る事になるのかな~」

とコーデリック。

 そして全員の視線を受けてクロが口を開いた。



「ボクは……世の中を変えたい。悲劇や悲惨ばかりがまかり通る、この世の中を少しでも良くしたい」

「素晴らしい目標です。ですが、具体的にはどのように?」

「大司教様はおっしゃられた。女神信仰者と魔族信仰者過激派の奥に潜む者は同じだと。意図的に、世の中を悪くしようとしてる誰かが、いるんだと思う。感じるんだ。この世界に、命あるものに対する、底無しの悪意を。ぼくは、それを何とかしたい」

 クロの言葉にその場の全員が驚いていた。そこまで深く明確な展望を持っていたなんて誰も考えていなかったのだ。サーベルグはクロの言葉にニヤリと微笑んで更に質問を重ねる。


「その者を最終的にどうします? 殺しますか?」

「まずは話をするよ。止めてもらえるようにね。それでもダメなら、他にどうやっても道がないなら……殺すよ」

 アッサリと、『殺す』という言葉を出すクロ。それは全くクロに似つかわしくない言葉に思えた。

「暴力で、解決すると?」

 鋭くきつい言葉で責め立てるサーベルグ。だが全く怯む事なく言い返す。

「『他に道がどうやってもないなら』だよ。……多分、そこまで追い詰められてしまったらどうやっても負けなんだ。相手と同じ土俵に落ちた時点で、決して本当の勝利や平和は訪れないと思う。道を探さなきゃならないんだと思う。それ以外の何かを」

「そのような曖昧で頼りない指針に全てを賭けるというのですか?」


「『世界を平和にする』聞こえのいい言葉だけど、それを達成できた事は誰もないんだ。それぐらい、難しくて困難で、出来るかどうか分からない事なんだ。曖昧になるのはしょうがないよ。ぼく達は机上の空論で生きてる訳じゃないんだから。最初から皆完璧に出来るならそもそも争ったりしないよ」

「なるほど。どうなるか分からないけれど、それでもやる、と?」

「誰にも強制するつもりもないし、強制された訳でもない。ぼくが、ぼくの意志で、ぼくが目指すものの為にやるんだ。ぼくが救世の天子だと言うなら、ぼくのやる事は他にはない。例えどんな結果になったとしてもね」



 サーベルグはしばし黙り込んでいた。だがやがて拍手と共に笑顔を浮かべクロを賞賛した。

「素晴らしい。夢物語のような都合の良い綺麗事を唱えるのではなく厳しい現実をきちんと見据え、かといって現実に追従して諦めるのではなく、信念を持って理想に突き進む…………百点満点です、クロ殿。それこそが前人未到の偉業を成し遂げようとせん者が持つべき姿です。貴方は、正しく救世主であろうとしているようだ」

「今まで救えた試しなんてないけどね。口だけなんだ。ぼくはいつも……」

 悔しそうにクロは言う。

「ならば、僭越ながらこのクロイツェフ=サーベルグが力をお貸し致しましょう」

「え……?」

「何でも言ってください。力、人材、資源。何でも揃えましょう。貴方が必要だと仰られるのなら」


「どうしてそこまでしてくれるの? これはぼくの勝手な理想でしかないのに……」

 困惑するクロにサーベルグはふふ、と笑って言った。

「分かりませんか? 貴方が追おうとしている理想、それは正に『世界征服』なのですよ」

「あ……」

 コーデリックがクロの手を握り、真っ直ぐ顔を見て言った。

「クロ。ボク達が初めて出会った時、キミは言ったね。『2人で手を組んだら世界を征服できるかな』って。きっとできるよ。キミとなら、夢物語としか思えない事も叶えられる。そんな気がするんだ。2人で、ううんサーちゃんも入れて3人だね。世界を、征服しちゃおうよ!」

「そうです。私達が力を合わせれば出来ない事などありえませんよ」

 そう言ってサーベルグが更に手を合わせる。

「ならば、4人なら尚更だな」

 片目がそう言って上から手を乗せる。

「ならオレも、お前達と行動を共にするだけだ」

 ユータが、

「言ったよな。俺はお前の側からいなくならないって。お前が行く道には俺が居るって事忘れんなよ」

 ジュレスが、それぞれ手を重ね心を一つにした。



 今ここに、世界を変える為の革命団が結成されたのだった。

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