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貞操逆転世界で、僕は希少な男子らしい  作者: きなこもち
貞操逆転世界で、僕は希少な男子らしい

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プロローグ 「男として、生まれ変わった」


最初に気づいたのは、駅のホームに漂う香水の匂いだった。


甘い匂いが、はっきり分かるほど濃い。

少し強すぎる気もするのに、不思議と嫌じゃない。


それよりも、この匂いを「普通だ」と感じている自分の感覚が、少し怖かった。


発車メロディが鳴り、電車が入ってくる。

ホームに並ぶ人たちは、似たような背丈で、似たような服装をして、同じようにスマホを見ている。


――ただし、全員が女性だった。


そこでようやく、違和感が形になる。


僕は、自分の手を見た。

開いて、閉じる。


指は細く、骨ばっていない。

爪の形も整っている。

手首も、少し細い。


(……僕の手だよな)


鏡があれば確認できたのに、と思う。

でも、鏡がなくても分かった。


周りの視線が、全部、僕に向いている。


(……見られてる)


正確には、じっと見られているわけじゃない。

一瞬だけ視線が上がり、すぐに逸らされる。

逸らしきれず、固まる人もいる。

少し離れた場所で、小さな声が漏れる。


「……男の子?」


「え、本当に? 可愛い……」


「どこの所属? 学生?」


所属。


その言葉が、妙に引っかかった。


僕は、東條凪。

ただの学生だ。


今日も学校に行って、授業を受けて、帰る。

それだけのはずだった。


なのに、僕が一歩動くと、人の流れが少し変わる。

無意識のうちに、道が空いていく。


電車に乗ると、もっとはっきりした。


座席は全部埋まっている。

それなのに、僕の近くにいた女性が、慌てて立ち上がった。


「どうぞ……!」


息を切らしたような声だった。


「え、あ……大丈夫です」


反射的に断った。

だって、座っていたのはその人だ。

譲られる理由なんてない。


でも、その瞬間、車内の空気が変わった。


譲ってくれた女性は、顔を赤くして立ち尽くす。

周りの女性たちは、声に出さずにざわつく。


(……今、断った?)

(……なんで?)


そんな空気が伝わってくる。


(……あれ? 僕、変なことした?)


胸の奥が落ち着かない。

それでも、僕の中の常識がはっきり言う。


「席を譲られて当然だと思う男にはなりたくない」


その考えが、

**前の世界の常識だった**と、

この時の僕はまだ気づいていなかった。


ふと、車内広告が目に入る。


《男性保護局 あなたの大切な“男性”を守ります》


優しく笑う男性モデル。

その周りを囲む、スーツ姿の女性たち。


広告の端には、小さな文字。


《男性が一人で行動する際は、身分証を携帯してください》

《不審な人物を見かけた場合は、最寄りの保護局へ》


不審者。

身分証。

単独行動。


僕は広告から目を逸らし、窓に映る自分を見る。


かわいい系の顔。

中肉中背。

どこにでもいそうな、普通の男子。


……のはずなのに。


窓の向こうの女性たちの視線は、

まるで別のものを見ているようだった。


希少。

貴重。

守るべきもの。

奪われる可能性。


そんな言葉が、頭に浮かんでは消える。


電車が次の駅に止まる。

人が降り、人が乗る。


その中で、

僕の周りだけ、少し静かだった。


――この時の僕は、まだ知らなかった。


この世界で

**「男性として生まれたこと」**が、

どれほどの価値と、どれほどの危険を持つのかを。



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