■ 私は、クローン?
「私、クローン人間なの?」
娘が突然、尋ねてきた……。
「お父さん。私、クローン人間なの?」
突然、高校二年生の娘が尋ねてきた。
あぁ、来たか!
いつかはわかる時が来るかも知れないと覚悟はしていたものの、出来れば俺の方から折を見て話したかったのに……。
クローン人間。
昔は倫理的な問題から実際に作られる事は稀であったようだが、二つの問題から今では合法的に存在可能だ。
理由の一つは、人口減。
科学技術の発展や資本構造の革新的変化により、皆が裕福になって世界は急激に成熟、いや爛熟化していった。その結果、社会には退廃的な空気が流れ始め、かつては一部の国でしか起こらなかった少子化問題が、全世界的な規模で発生するようになったのである。
そして労働人口の減少は、社会の静かなる終焉を予感させた。以前は人口の多い国からの移民などで賄っていたものが、殆どの国が豊かになったため移民は皆無に等しくなり、人口減は世界共通の悩みとなったのである。
二つ目の理由は、夫婦間における意識の変化である。
昔は離婚の際、夫婦平等とは言いつつも、それまでの慣習から、母親が子供を引き取る事例が多かった。
しかし、いつの頃からか、
「たとえ一方的に妻が浮気をした場合でも、離婚時に子供を引き取るのは母親が多い。こんな不合理、許されてなるものか」
と、父親側が猛反発を示し始めたのである。
そして少子化が世界を襲う中、夫婦間の子供は大抵一人であった。当然、生身の人間を半分に裂くわけにもいかず、紛争は深刻さを増していく。
これら二つの問題を一気に解決するのが、クローン人間の合法化なのであった。
五年前に妻と離婚した私も娘を手放す気にはなれず、裁判所にてクジを引いた結果、娘のクローンを引き取る事となった次第である。
ただし人権上の問題から、クローン本人には事実が秘匿される場合が多い。もちろん何らかの事情により、自分と全く同じ遺伝子を持つ”もう一人”がこの世に存在する事を知る場合はあるが”どちらがクローンなのか”は、わからない仕組みになっていた。
「お、お前、どうして……」
俺は戸惑った。
しかし昔も今も、行政のやる事は穴だらけだという事実に変わりはない。いくつかの偶然と役所の不手際が重なれば、本人が事実を知ってしまう話も珍しくはなかった。
当然の如く、それを知った本人はアイデンティティーの喪失など、深刻な精神的ダメージを受ける。その可能性を”十分”に知っていた俺は、来る日のために色々と試行錯誤をしてはいたものの、いざ現実になってみると頭の中には様々な言葉が渦巻き混乱した。
「私、偽物なの? お父さんの本当の娘じゃないの?」
彼女の目には早くも涙があふれつつあり、今にもこぼれ落ちそうであった。
落ち着け、俺!
娘の人格を模したAI相手に、シミュレーションを重ねてきた日々を忘れるな。
そうさ、きっと俺は娘を納得させられる。今までのように、良好な親子関係を築いていける。それは、俺が既に”経験済み”じゃないか。
クローンである俺は自分にそう言い聞かせると、眼前の愛娘を説得し始めた。
【終わり】




