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第2話 第5章 『行かない』

 尾生丹(おぶに)市 妙随寺(みょうずいじ)

 先ほどロアと電話で指定した待ち合わせ場所だ。一度家に戻り自転車を漕ぐと10分もしない内に着いた。確かに駅からは一番近いお寺だった。

 僕が妙随寺に着くと先にロアが待っていた。大体どの寺でもやっているように、本堂へ続く石階段の真ん中あたりに腰を掛けている。ロアは僕を見つけると、「傘音(かさね)くんっ」と右手を上げて声を掛けてきた。

「やぁロア、早かったな」

「えぇ、元からここに居ましたからねっ」

 それは待ち合わせとは言わない。ただ自分が動かなくて済むから呼んだだけじゃないか。

 そう指摘したかったが、いつも何となく誤魔化されるので、気にしないで話をそのまま進めることにした。

「今朝から駅前がすごいことになってるの、見たか?」

「まだ見には行ってませんが、ネズミやら火事やら……大変なことになっているらしいですねっ」

「車が燃えてたりもしてた、早いとこどうにかしないと怪我人じゃ済まなくなる、死人が出るぞ」

 駅前の悲惨な状況を伝えれば――今回は私が動きますっ――なんて飄々とした台詞を吐きながら、今度こそ重い腰が上がるんではないかと期待していた。

「そちらは傘音くんにお任せしますっ、今回の怪異は傘音くんの方が相性もいいと思いますしっ」

 返ってきた言葉は真逆のものだった。

「ロア――お前なぁ! 今、駅前がどんな状況かさっきも言ったように!」

 そこまで言うとロアは「まぁまぁ、傘音くんっ」と僕の言う言葉を遮ってきた。

「いつかは私無しでも能力(ちから)を使えるようにならなければなりません、今回はその練習と思ってやってみて下さいっ」

 飄々とした雰囲気は変わらない。

 死人が出ないように、裏で何か手を回しているのか……真意は分からない。ただ、あくまでも今回の事件に関してロアは、達観を決め込むみたいだ。

「分かった……ただ失敗しても知らないからな」

「大丈夫ですっ、失敗なんてしませんから……影が形に添うように、私が見てますからっ」

 影が形に添うように――見えずとも傍で見てますよってことか? 本当にこいつは、回りくどい事しかしない奴だ。


 ブブーッ……ブブーッ……。

 

 誰かからの着信に気付き、制服のポケットからスマホを取り出す。相手は妃慈(ひなり)さんからだった、妙随寺へ来る前に送っておいたメッセージについてかな?

 スマホの受話ボタンを押して電話に出る「もしもし」と言いかけた時、それを遮るように妃慈さんの声が聞こえた。

 『もしもし、鷺淵くん!』

「あ、はいっ……妃慈さん、どうしたの?」

『今ね駅にいるんだけど、ちょっと大変なことになってるの! 火事とか、あと……()()が……』

 あぁ……アレね、妃慈さんも『未来のネコ型ロボット』と苦手なものは一緒だったね。

『駅前のロータリーから外に出ると襲われて、私が見て把握してるだけでも3人が……』

 ……見たくないものを見た感じの声色だった。

 「そっか……妃慈さんは怪我無い? メッセージは、見た?」

『怪我は大丈夫……メッセージ見る前に、駅前に居たの……今日、早めに学校行こうと思ってて』

 なるほど、わかった。

 「妃慈さんは今、駅前のどこにいる?」

『駅構内にあるカフェの中に、私以外にも5人いて、アレが入って来ないように机とかで押さえちゃって、私たちも動けなくなっちゃってて』

 僕が送るよりも先に駅いたんだ、僕が手を打つのが遅かった、ごめん。

 とにかく、妃慈さんを助けに行くのが最重要ミッションだな。

「妃慈さん、僕これからそっち向かうから、そのカフェの中で待っててもらえるかな?」

『? えぇ、待つのは良いんだけど……鷺淵くんは危なくないの?』

「大丈夫、何とかするから……じゃ後で、駅でね」

『分かった、待ってる』

 妃慈さんの返答をしっかりと聞いてから終話ボタンを押してスマホを閉じる。

「よし、ロア……行ってくるわ」

「え、はい……行ってらっしゃいっ、私も後から向かいますから、そこは安心してくださいっ」

「分かった」

 なぜか分からないが、先ほどとは打って変わってやる気満々だった。ロアに片手を挙げて返事をすると、そのまま僕は自転車に跨って駅前方面に全力で漕ぎ始めた。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 駅前へ向かう僕は、某赤い彗星の如く自転車を漕いでいたようで、5分足らずで着いた。

 相変わらず駅前には、燃えている車、窓ガラスから漏れ出る煙と熱気、炎。

 日常的ないつもの風景ではない。この中に妃慈さんはいるんだ。


 一秒でも早く、助け出さないと。

 

 駅の南側大通りから近付く。左手に見える駅前駐輪場からは、ネズミが何匹か出たり入ったりしている。あれがネズミの怪異そのものだとしても、操られている唯のネズミだとしても、その脅威が未知である以上は、避けて近寄るのが賢明だろう。

 不必要に音を立てないように、ただ遅くなり過ぎないように、右手を建物の壁に添えながら徐々に駅構内に近付いていく。

 どこかは分からないが、ある地点を超えた時点で――ネズミ共が僕の方を一斉に向いた気がした。

 実際にはネズミの視線なんて気にしたことなんてなかったし、一斉に僕の方を向いたこと自体が気のせいだったかもしれない――ただ、言い表すことのできないような『敵意』を感じた。

 身の毛もよだつ、全身の毛穴から汗が滲み出る、そんな気持ちの悪い感覚。

 それを感じてすぐに駅の方向から、もの凄い音が鳴り始めたのに気付いた。


 ドドドッ……。


 大きな物が流れてこちらに向かって来るような、ただ酷く重くて、腹の底に響く――そんな音だった。

 目を凝らしてみると駅のバスロータリーから黒み掛かった灰色の塊が――彗星が尾を引くように――小さな灰色の粒を後方に散らしながら飛び出しきた。それは真っ直ぐ、こちらへ向かってきていた。

 僕はスマホを取り出し、画面から音楽再生アプリを起動させた。


 最近は何でもかんでもネット上に配信してあって、本当に便利な時代になったなと思う。

 ()()()()()()()()()()()()があるくらいなんだから。

 スマホをワイヤレスのスピーカーに繋いでから、音量を最大まで引き上げる。


 ……ィーーーーッ…………。


 僕の耳には微かな音しか聞こえないが、モスキート音よりも高い周波数が辺りに鳴り響いているのだろう。

 鳴らした瞬間――迫りくる灰色の塊は、ザワッと音を立てて波打ち、その進行を止めていた。

 油を張った水面に、洗剤を一滴垂らしたとき――それと似た挙動で大きく弾かれるように、僕との間に空間を作って離れていく。

 このまま駅前まで行ける。そう思ったが、中には音に多少の耐性がある個体もいるのだろうか――何匹かは鼻をヒクヒクさせながら僕の方へ近づいてくる。

 だが、さっきまでより明らかに動きが鈍い、スピーカーから出ている音自体は効いてるみたいだ。

 近寄ってくるネズミ共を足で追い払うように蹴り上げ、駅までの道程を確保しながら進む。

 僕が一歩進む。するとネズミ共は、見えない壁が出来たかのように一定の間隔を僕と開けたまま退く――真っ直ぐ後ろに向かって走り去ろうとするネズミ、体を丸めて音を嫌がるような仕草をするネズミ、他のネズミの上を這ってでも逃げ出そうとするネズミ、実に様々な逃げ方で――僕を避けて行った。


 駅前――バスロータリーが見える位置まで来ると、そこにはいつもの光景はどこにもなかった。

 所々に服飾の金属部品が落ちている。地面に飛び散る血飛沫や血痕も見える。

 駅前の通りはアスファルトも、花が植えてある花壇も荒らされている。

 近隣の建物も、原形を留めないほど(いびつ)に変形したシャッター。内装や壁が食い破られ、壁の中身が剥き出しになったお店。目の前に広がる光景には、どこにも見慣れた駅前の姿はなかった。

 

「酷いな……」

 思わず漏れた言葉だった。誰に言うでもないが、口が勝手について出た言葉だった。

 こんな場所に妃慈さんは取り残されてしまっているんだ、早く助けに行かなきゃ。

 そう思うと、駅構内に向かう歩みは力強く、ネズミ共なんて寄せ付けない雰囲気を持っているかのような、そんな錯覚を覚えた。

 

 残念な事に、それは本当に錯覚だった。

 

 右斜め後方からバリンッと()()()()()()音が鳴り響いた。

 こういう時、人間って反射的に頭を守ってしまうらしい。

 僕は自分の頭を大きく抱えるように覆って、体を力の限り丸くして身を守った。

 

 音の正体――それは駅近くの商業ビル、その内部で火災によるものだろう、大きな爆発によるものだった。

 初めに傘音を襲ったのはガラスの割れる音――、何枚ものガラスが一斉に割れると、耳を突く様な高い音が鳴り響き、痛みを覚える程の耳鳴りに見舞われた。

 次に衝撃――、爆発の衝撃は物理的に傘音を襲う。それは脳の血圧を調整する中枢細胞を刺激し、急激に血圧を低下させた。結果として立ち眩み、眩暈、そしてショック症状による部分的な麻痺を引き起こした。

 最後に熱気――、建物に面した身体の右側だけだが、赤い変色、強い痛みを感じる――皮膚の表面にⅡ度の火傷を負っていた。

 火傷の痛みも、衝撃による身体の麻痺も、余程の重傷でない限り、しばらくすれば回復する。今の傘音にとって最も深刻だったのは、音による損傷(ダメージ)だった。

 出血は無い。鼓膜が破れたり傷付いたりなどはしていないだろう。ただ、一時的に奪われた聴覚と三半規管に起こった何かしらの異常。そのせいで治まらない立ち眩みと眩暈が傘音を苛み、壁にもたれたまま、まともに進むことが出来なくなってしまっていた。

 周りに危険なネズミ共がいる状況で、周囲がどうなっているか、聴覚を奪われたことで感知できなくなってしまった。身体の麻痺も、治まるまでは即座に身動きの取れない状態になってしまっていること――それに気付くと、全身の毛穴から嫌な汗が滲み出るのを感じ、激しい焦燥感が襲う。

 

 マズい――。

 早く動かないと――。

 何故、後ろのビルの窓ガラスは割れたのか――。

 ネズミ共は襲ってきているのか――。

 周囲の状況はどうなっているのか――。

 

 これらが頭の中をグルグルと駆け巡る、思考が安定しない。何から考えればいいのか、優先すべきことは何なのか。

 幸いしたのは、スマホの音源を切っていなかったことで、スピーカーから出る高周波でが出続けていたことだろう。結果としてネズミ共の大半は依然、傘音と一定の距離を取り近寄ろうとして来なかった。

 もたれ掛かっていた壁に、背中を付けて、そのまま背中をするように座り込む。

 さっきまで力強く進んでいたはずなのに、今は全身に重りを括り付けられたのかと思うほど、体が重かった。

 脚が歩行に必要なほど上がらず、引きずる様に前に出すしかない。大きな音がもたらす人体への影響なんて考えたこともなかったが、これは思ったよりも動くのがキツい。

 もたれ掛かっていた壁から前に進もうとしたが、脚だけの力では少しずつしか動けない。もっと前へ進もうと、傘音は手を壁へ付けて、後ろへ押し出す様にして進んでいく。

 駅前のバスロータリーはもう目と鼻の先だ、時間経過で徐々に痛みを伴う耳鳴りも、少しずつ軽くなっていった。

 やっとの思いでバスロータリーに着いた――その頃には少し頭痛がするだけになり、耳鳴りもほぼ治まり、眩暈や立ち眩みも回復していた。

 ロータリー内には、駅前にいた数よりも更に多いネズミ共が蠢いていた。シャッターが不自然にひん曲がったパチンコ屋。そこから止め処なくネズミが溢れ出てきている。

 パチンコ屋の方を避けて、ロータリー沿いを大きく迂回しながら、駅の敷地内へと向かう。

 敷地内に入る道の裏手は、居酒屋街だからなのか、更に多数のネズミ共が蠢いている。

 食べ物や、おそらくは壁だったであろう粉塵を、口元や全身に付けたネズミが、駅裏手の飲食店や居酒屋から出たり入ったりしていた。

 それらのネズミ共が近寄ってこようとすると、傘音はスピーカーから出る音量を――スマホを操作して上げる。上げた瞬間、見えない障壁に阻まれるように傘音から距離を取り遠退いていった。

 それを繰り返して徐々に、バスロータリーから駅内部へと近付いて行く。

 電力供給が立たれているのか、隙間にネズミでも挟まったのか分からないが、止まってしまったエスカレーターを階段の様に進み、駅の2階へと上って行った。

 2階は地上よりもネズミの数は少なかった。

 ただ、いつもは人で溢れかえっている駅構内は、寒気を覚える程閑散としている。それなのにネズミ共の爪の音、金切り音にも似た不快な鳴き声だけが強調されて聞こえる。それを認識すると、傘音も身の毛がよだつ様な感覚を覚えた。

 

「妃慈さん、確かカフェにいるって言ってたよな……」

 駅構内のカフェは2店舗、2店舗のうちバスロータリーに近い――駅構内入り口側のカフェに、バリケードを作って隠れていると電話で言っていた。

 奥側にあるカフェは、ネズミ共が何の不自由もなく出入りし、外の居酒屋などと同じ様に食べ物のカス、小さな壁の破片や粉塵を纏って、お店の入り口も食い破られたように壊されていた。

 それに対して手前側のカフェは入り口近くでネズミが押し合い、我先にと上に乗り上げ、小さな山も作っていた。どうやら容易に中へ入れない様になっているらしい。

 手前側のカフェに妃慈さんが居るようだ。そう思いスマホの画面操作でスピーカーの音を最大まで上げる。

 蜘蛛の子を散らした様に山は崩れ、カフェの入り口が見えた。自動ドアのガラスはハンマーで叩いたのか、放射状に割れている。割れた穴の周りからはガラスが綺麗に取り除かれ、這えば人が1人通れそうなくらいの穴が空いていた。

「妃慈さーん、いるのー⁉」

 ドンドンと自動ドアのガラス面を拳の小指側で叩く――いつもならこんな大声を駅で上げたら、警察は来ないまでも駅員さんが来そうなくらいの大きな声で、カフェの中にいるであろう妃慈さんへ声を掛けた。


 ……。


 返事がない、こっちのカフェじゃなかったのかな。

 いや、でも奥のカフェは……絶対に人がいるような状態じゃないし。

 とりあえずもう一度。

 ドンドンドン。

「妃慈さー…ん?」

 なんとなく、先ほどよりも呼ぶ声のボリュームが落ちた、そんな気が自分でもした。十分大きな声ではあるんだが、先ほどまでよりも『目の前のカフェにいる』という自信が声から消えた感じだ。

 「さ、鷺淵(さぎぶち)くん……?」

 微かだが返答があった。

「妃慈さん、良かった! 今ネズミをここには近寄れないようにしてあるから出てきて大丈夫だよ!」

 僕はもう一度スマホの画面で、スピーカーの音量が最大になっていることを確認した。

 自動ドアのガラス面――割れた個所から1人ずつ人が出てきた。

 5人目に妃慈さん、最後に長身の男性が出てきた。


「妃慈さん、大丈夫? 怪我とかはない?」

 這いずって出てきた妃慈さんに傘音は、手を貸し立ち上がらせながら尋ねる。

「えぇ、大丈夫……それよりも鷺淵くん、よく駅の外側から来られたわね、どうやったの?」

「あぁ、スマホって便利だよね……ネズミって周波数の高い音が苦手らしくてね、あとは1匹ずつ蹴飛ばしてきた」


 ジッ……。

 妃慈さんと話していると何かが燃える臭いがした。

 地べたに座りながら、膝に両手をついている。そのうち右側の手には火の付いたタバコが挟まれていた。

 フゥーッと息を吐くと、顔だけをこちらに向けて話しかけてきた。

「ほんと、命知らずっていうか……よくこんな状況の駅に来たな、少年」

 ハハッと笑いながら話しかけてきた男。ボサボサの前髪で隠されていて片目しか見えなかった。

「まぁ、電話で状況は聞いていたのと……来なきゃいけない事情もあったんで」

 警戒心剥き出しで、社交辞令的に傘音は男に向かって答える。

「ハハッ、断れない事情ね……確かに、そのお嬢ちゃんは可愛いしな」

 嫌な笑い方ではなく、ニッコリと笑いながら言うと男は煙草を吸って、その煙をフゥーッと大きく吐きだした。

 

「鷺淵くん、この人は角田 狛戌(つのだ はくじゅ)さん。 カフェの中でアイツらが入って来ないように色々と助けてくれたの」

 僕が警戒していることに気付いたのか、妃慈さんが紹介してくれた。

「そういうことだ、こっから先は少年も合流かな、頼りになりそうだ!」

 笑いながら男――狛戌さんはまだ火の付いている煙草を咥えながら、ポケットにしまっていた箱からもう1本煙草を取り出した。

「それにしても少年は頭いいな、スマホで音出して近寄らないようにね……それ真似て駅の外に出るとするか」

 咥えていた煙草はポケット灰皿に捨て、すぐにもう1本の煙草に火をつけ、一度吸ってから立ち上がり近寄ってきた。

「お嬢ちゃん達も、もう駅の外に行くんだろ? 一緒に」

「いや、僕は行けない」

 スマホで僕と同じアプリを開いて、ネズミの嫌がる音を準備しながら、一緒に駅の脱出を提案してきた狛戌さんの言葉を遮って伝える。

「鷺淵くん、アイツら人も襲ってたのよ? ここにいたら危ないよ?」

 一緒には行かないと言う僕に向かって、今度は妃慈さんが尋ねてきた。

 「ロアがね、今回は完全に手出ししないみたいなんだ……相性的にも僕の方が良いだろうって」

「だからって……」

「大丈夫、土砂崩れの時だって生きてたでしょ? 何とかなるから」

 安心してもらえるように、出来るだけ柔らかく見えるように笑って見せた。

「じゃあ、お嬢ちゃんは責任もって俺が外に連れて「なら、私も残ります」

 今度は妃慈さんが狛戌さんの言葉を遮った。

「「えっ⁉」」

 僕と狛戌さんが同時に妃慈さんの方を向いて大きな声で反応してしまった。

「駄目だよ、妃慈さん! 妃慈さんは先へ外に出てて!」

「そうだお嬢ちゃん、さすがにそれは危ないだろ!」

 男2人が本気で慌てながら、妃慈さんを説得する。


「そもそも僕は妃慈さんを助ける為にここへ来たんだよ⁉」

「じゃあ、鷺淵くんと一緒にいれば安全でしょ?」

 ……。

「お嬢ちゃん、ネズミ苦手なんだろ⁉ 一緒に外行こ、な⁉」

「カフェの中で狛戌さん助けたので、大丈夫です。ネズミだって怖くありません。鷺淵くんも居ますし」

 ……。

「お嬢ちゃん、一緒に行こ、な?」

「行きません」

「いや、妃慈さん……危ないから外へ行こ」

「行かない」


 ……。


 妃慈さんに背を向け、狛戌さんとコソコソ話し始める。

「なあ、少年……お嬢ちゃんに何した?」

「いや、僕は何もしてないですけど……」

「カフェの中にいる時、あんな強情じゃなかったぞ」

「いや、僕もあんな強情なところは、初めて見ます……」

「どうするよ、少年……」

「どうするって言ったって……」

 ああ言えばこう言い、頑なに『行かない』と返される。僕はひっくり返っても上手く説得する言葉は出てきそうになかったし、それは狛戌さんも同じようだった。

 2人揃って妃慈さんの方に向き直る。

 貼り付けたようなニコニコ顔で僕らを見る妃慈さん。

 

「鷺淵くんと一緒にいます!」

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