【もう一人の同行者】
更新遅くなってすみません(汗)
ジュレード王国から帝国への街道沿いにある森の中。
魔法封じの魔導具を両手首につけられて拘束されたローゼを、花はまじまじと見つめていた。それを見たセナが、「ハナ、あまりそいつに近付くな」と注意を促す。
「でもセナ、この人って魔族だよ。確か、ロー……ロー……ロードだっけ?」
「ローゼだよ!!て言うか、お前聖女だよね?」
「え?!いや、えっと……」
「誤魔化しても無駄だよ。見た目もだけど、俺に怪我を負わすことの出来る女なんて、お前くらいなんだからな!」
「?!」
ローゼの言葉に、花はハッとした。確かにローゼが魔物達と襲撃してきた時、花は初めて魔力を解き放ち、その結果、ローゼに怪我を負わせた事を思い出したからだ。
「あ、あの時はごめんなさい。怪我、今はもう大丈夫?」
「あんなの怪我の内に入らないし。とっくに治ったよ。でも、この魔導具はどういうつもり?」
「セナ……これ、外してあげて?」
花はセナを見上げて、魔導具を外してくれるように願い出たが、セナはローゼを軽く一瞥した後、首を横に振った。
「駄目だ。魔族ならば尚更な。この間の戦闘は私も遠目から見ていたが、魔族の戦闘能力は侮れない。危険だ」
「でも、魔族の人達は……!」
「……拘束を解いた途端に、ハナを連れていかれたら困る。この魔族の狙いはお前だ、ハナ」
「私?……そうなの?」
「…………」
ハナは驚いたように目を丸くして、視線をセナからローゼへと移すと、ローゼは面白くなさそうにセナをジロリと睨む。
「聖女、この人間はお前の何? まさか恋人とか言わないよね?」
「ま、まさか!セナは友達だよ!それと、その聖女って言うの止めて!私の事は花って呼んで!」
「ハナ?……それが聖女の名前なの?」
「うん!そうだよ」
「……」
花の答えに、ローゼは疑問を抱いた。リーシェの話では、聖女の名は『リリー』の筈だ。人間達に再び騙されているのかもしれないと聞いていたが……
(まさかコイツ、カオル様と同じで記憶が無い?少し様子を見てみるか)
ローゼが思考を巡らせていると、セナが花に「もう行こう」と言った。気付くと、もう空は白んできている。朝が近い。
「……ローゼはどうするの?」
「このまま置いていく。……ここでこの魔族を始末してしまえば、ハナは私と来てくれないだろう?」
「うん」
「なら、やはりこのまま置いていく。私にとっての最優先事項はハナを連れていく事だ」
そこまで話を聞いて、ローゼが口を開いた。
「俺も連れてってよ。聖女の……ハナだっけ?いずれハナは俺達魔族が貰い受ける。傍に居た方が都合がいい」
「馬鹿が。何故お前の言う事を私がきかねばならない?私には何のメリットも……」
「いいや、絶対に連れて行った方がいい。何故ならお前一人では何ひとつ守れないから」
「……なんだと?」
「俺達魔族は空間転移が使える。お前は運良く俺を拘束出来たが、他の魔族達相手ではお前程度、話にならない。仲間の魔族達は直にハナを奪還するべく現れる。その時、俺が手を出さないように説得してあげるよ」
「そんな口約束、信用出来る筈もない」
「勘違いするな、人間。お前に拒否権は無い。俺を殺せない時点で、お前の負けは決まっている。俺をここに置いていくつもりなら、明日には魔物の大群がお前の国に押し寄せる。分かるだろ?」
「拘束されているくせに、私を脅すとはな……」
セナの瞳に殺気が宿るも、傍でハラハラしているハナを見て、セナは大きく溜め息をついた。そして懐から、何か別の魔導具を取り出す。
「……誓約の指輪だ。これを嵌めるなら同行を許可しよう。言っておくが、流石にこれ以上の譲歩は出来ないぞ」
「いいよ。誓約内容は?」
「許可なくハナを連れ出さない事、私の主やハナに手を出さない事、それと魔族が現れた時の仲介役だ」
「分かった。指輪を嵌めて」
セナが再び重い溜め息をつきながら、魔導具で拘束されているローゼの両手首を引き寄せ、右手の中指に誓約の指輪を嵌めた。
こうしてローゼの同行が決まったのだった。
* * *




