【ローゼと魔法封じの魔導具】
「くっそ!この魔導具を外せ!!いきなり魔法封じを使うなんて卑怯じゃないか!!」
―――何がどうしてこうなったのか。
闇夜に紛れて帝国へ向かっていた花の前には、セナに魔法封じの魔導具をつけられたローゼが居る。
何故こうなったのか。
時は少し前に遡る―――……
…………………………
…………
空に赤紫色の月が輝き、沢山の星々が瞬く深夜。深い深い森の中を駆ける、一人の青年が居た。
魔族であり、魔王――カオルの側近でもあるローゼだ。ローゼは自身に身体強化の魔法をかけて、全速力でジュレード王国へと向かっていた。
(まさかあの女が、そんなに大事な女だったなんて。それに人間共に騙されているなら、早く助けださなきゃ!!)
ローゼが若くして魔王の側近に選ばれたのは、魔力量の多さと、その身体能力の高さ故のこと。だが、一番の理由は人一倍仲間思いであるという点だ。まだまだ未熟でやんちゃなローゼは、数少ない魔族の里でとても人望があるのだ。そしてローゼを慕う里の者達は、ローゼが魔王に憧れているのを知っていた。皆の後押しがあって、ローゼは魔王であるカオルが復活する前に、リーシェ達と並ぶ魔王の側近へと選ばれたのだった。
それ故にローゼは、選ばれた事を誇ると同時に、強い責任感を持っていたのだ。口では言い訳を言ったりするが、内心では挽回の機会を求めていたのだ。
(相手が聖女だったとは言え、怪我を負って足を引っ張るなんて……!)
少女が聖女であると知らなかった。
けれど、怪我を負ったのはローゼ自身が敵を甘く見過ぎていた結果だ。
きちんと警戒していれば、避ける事だって出来たかもしれないのに。ローゼはそう思い、次こそはと機会を求め、単独で聖女奪還へと乗り出したのだった。
(回復薬で怪我も治ったのに、俺だけ留守番してろだなんて!今度は油断なんてしない!俺一人でも、聖女を助けてみせる!!)
リーシェ達は、今練っている聖女奪還計画からローゼを外していた。人間に騙されたリリー(花)が再び魔族である自分達に魔法を放ってきた場合、危険だと判断したからだ。
しかし、それに納得出来なかったローゼは深夜に城からこっそりと抜け出して、今に至るという訳だった。
「聖女を助けて、名誉挽回だ!そしてカオル様に褒めて貰うんだ!」
見た目は青年期に入っているのに、中身は少年のまま。例え単独での聖女奪還が上手くいったとしても、命令違反をした事でローゼは叱られるだろう。その事を微塵にも考えていないローゼは、やはりまだまだ子供なのであった。
そうしてローゼは、目当ての聖女に出会った。
ジュレード王国ではなく、帝国へと続く街道沿いの森の中で。
……………………
…………
セナの国へ行くと決めた花は、寝室についている衣装部屋から一番動きやすそうな服を選んで着替えると、魔力の飴玉が入った瓶だけを持ってバルコニーへと出た。
「本当にいいんだな?」
「うん。居させて貰う場所が、ちょっと変わるだけだよ」
「……そうだといいがな」
「え?何か言った?」
そう言って花が首を傾げていると、セナが「いや、なんでもない。行こう」と答えて、セナは花をお姫様抱っこした。
「?!」
「悪いが、しばらくコレで行く。暗い内に街道まで出たいからな。舌を噛まないように気を付けろ」
「ひっ……?!!」
花を抱えたセナが、バルコニーから跳んだ。花に与えられていた部屋は3階にあり、こんな高さから跳ぶなど、普通の人間ならば有り得ない。けれども、ここはファンタジーな魔法が使える世界。しかも、その中でもセナは刺客として他国へ派遣される程の人物だ。たかだか3階から飛び降りて、まるで忍者のように木々の間を走り抜ける位、大したことでは無いのだろう。例えお姫様抱っこで人一人抱えていたとしても。
それこそジェットコースターにでも乗っているかのように、景色がビュンビュン通り過ぎていき、花は先程の甘いときめきなど再び感じる事もなく、顔色はみるみる青褪めていった。
「ちょ、うぷっ!はや、速すぎると思っ……うぅ!」
「身体強化と風の魔法を使用して、かなりの速度を出しているからな。一応空気抵抗緩和の為の魔法もかけているから、身体は痛くないとは思うが」
「い、痛くはないけど、胃が!胃が浮く!目が回って酔いそ……うぷっ」
「…………」
「待っ……?!何残念なものを見るような目してんの?!今初めてセナにイラッときたよ?!」
世界を救った聖女様が、この程度で酔うとか。セナの目は花が言った通り、残念なものを見るような目になっていた。
(セナは何でも目で語り過ぎだと思うっ!!)
目は口ほどにものを言うを体現し過ぎだろ!!と苛立ちながら、花は自らの歯をギリギリと食い縛ったのだった。
しばらくそんなアホみたいな速度で休みなく突っ走り続けていると、やがて王都を抜けて街道が見えてきた。街道をそのまま行くとあまりにも目立ってしまうので、街道沿いの森の中を走って行くと、前方に米粒のような小さな影が見えた。その影は次第にどんどん大きくなって、その影が人だと分かる頃には、セナは既に臨戦態勢に入っていた。
「少し離れる」
「なに?何かが凄い速度でこっちに……て、わぁあ?!」
「?!」
次の瞬間、セナは柔らかな草の上に花を放り投げ、隠し持っていた魔法封じの魔導具を前方に居た人影――ローゼに投げ付けていたのだった。
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