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聖女なんかじゃありません!  作者: はる乃
本編第二章
28/33

【指先に誓いの口付けを】

更新遅くなってすみません(汗)



―――セナは失敗したと思った。



命令をただただ遂行する為ならば、別に自分の正体がバレても構わなかったのだが。

何故だか悲しげに揺れる彼女の瞳を見て、失敗したと思った。今言ってしまった事を後悔した。



「……今は殺すつもりは無い」


「今は?」


「……ああ」


「私が、セナの国に行かないって言ったら、殺すの?」


「…………」


「殺すの……?」


「……まだ殺さない。その場合は拘束して連れていく」



その答えを聞いた瞬間、花の瞳が驚愕に染まった。

セナの答えと態度は、明らかに刺客が標的へと向けるものではなかったからだ。瞳以外が隠れていても分かる。目は口ほどに物を言うとは聞くが、まさにその通りだった。


そもそも、何故すぐに花を攫わなかったのか。それこそ初めて会った時の花は、意識を失った後は魔力切れの状態だったのだ。なんの抵抗もなく攫う事が出来た筈なのに、何故それをしなかったのか。


聖女の能力や体調を気にしたのか?

だが、それなら攫った後でも調べられる筈だ。なのに、セナはそれをしなかった。


そして彼の、先程の言動。




―――『俺の国に来ないか?』




彼は刺客のくせに、無理矢理ではなく、懐柔を選んだのだと分かった。花は彼のことを、自分への刺客だと分かる前、命の恩人だと思っていた。信じたいと思っていた。

彼の選択は正しかったのだ。大成功と言ってもいい。そのままそれらしい嘘をついて連れ出せば、簡単に花を攫うことが出来ただろう。


それなのに―――



「なんで?」


「それが命令だからだ」


「そうじゃなくて。……どうして、そんなに戸惑った瞳をしているの?私は、今まで刺客になんて遭ったことない。それでも、セナの瞳は誰かを殺そうとしている瞳じゃないって分かる。懐柔することを選んだのに、上手い嘘をついて、連れ出せば簡単だったのに。なんでそうしなかったの?」


「!」



今度はセナの瞳が驚愕に染まっていく。



―――いつもなら、与えられた任務のことだけを考えていただろう。


今回だって、相手が聖女だろうと変わらない筈だった。無防備な涙を見た時も、何も知らずに刺客である俺を命の恩人と呼んだ時も、その辺の街にいるような、普通の少女だと思ったぐらいで。



(いや、逆に……普通の少女だからか)



もし彼女が文献通りの聖女そのままであれば、すぐに帝国へ連れて行っただろう。だが、彼女は文献通りの聖女ではなかった。


確かに、持っている力は聖女そのものだが、それ以外が全然違う。

主からの命で腐った貴族共や騎士、兵達を何度も殺してきたが、普通の少女を意図的に殺した事はほとんどない。殺す必要がなかったからだ。



(利用する代わりに、出来る限りハナを守ろうと誓ったあの時から、既に俺はハナを暗殺対象として見ていなかったんだな……)



力はある。主への忠誠も。

けれども、迷いのある今の自分自身が甘過ぎると自覚して、セナは苦虫を噛み潰したようにその表情を歪めた。


そうして、ずっと黙っているセナを見つめながら、花は決めた。



「私、セナの国に行くよ」



先程まで悲しげに揺れていた花の瞳が、にこりと笑みを浮かべて、柔らかく細められた。その事にセナはまたもや驚いて、むしろ呆然としてしまう。



「は?」


「だから、私、セナの国に行くよ。もともとジュレード王国には因縁こそあれ、他に未練なんて無いし。侍女のマリーさんにはお世話になったけど。……魔力の飴玉だって、セナがくれたものだし」


「……いいのか?」


「うん。それにやっぱり私には、セナが悪い人には見えないんだよね。ジュレード王国の人達も、多分悪い人達じゃないんだろうけど、記憶を弄られかけた今は正直言って会いたくないし。ただ……」


「なんだ?」


「行った先でどう扱われるのか、少し恐い。セナが悪人じゃなくても、他の人は分からないし」


「……それならば大丈夫だ。俺がハナを守る。護衛として側にいる」


「本当?それなら良かった。宜しくお願いします」



柔らかな笑顔。しかし、口で言ったように本当に不安なのだろう。花の指先が、僅かに震えていた。それを見て、セナは花の手に優しく触れて、震える手を自らの口元へ引き寄せた。


花の心臓が、大きく高鳴る。



セナは瞳から下を覆い隠していた布を顎まで下げて、引き寄せた花の指先に触れるだけの口付けを落としたのだ。



「セ、ナ……?」


「今ここで月の神に誓おう。この先何があろうとも、ハナを必ず守ると」



初めて目にした彼の素顔が、月明かりに照らされてハッキリとよく見えた。過去に負ったらしい耳のすぐ下辺りから目元近くまで達する古傷も。整った鼻筋と、唇も。


そして、照らされた月明かりで一際輝くワインレッドの瞳が、直視出来ない位に綺麗だった。



「……というか、この世界の顔面偏差値ってどうなってるの……?」



思わず頬を朱に染めて視線を逸らした花は、唇を噛み締めながらボソリとそう呟くのであった。




* * *




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