第7話 傭兵と蛮族の違い
「嘘でしょ……」
訓練装置ぽいものから出てライザさんの開口一番そう言われた。
何度か標的を出してもらったのだが、戦闘機スタイルなので当てるのは簡単だった。レーダーのスコープを何個も見比べたり、レンジ変えたり、よくわかんないエコーみながらとかは無いしね。
見えたまんまだから簡単よ!
ライザさんが驚いているということは、もしや僕は天才に見られているのでは!?
運が良ければライザさんが感心して、なんやかんやエルフ村へ招待してくれるかもしれない!
エルフ村!
だがここはクールに、だ。
「たいしことはできませんでしたが、問題ありませんでしたか?」
「そ……そう?つ、次は簡単な座学に移りましょうか」
ライザさんがドン引きしているように見えるんだが、凄い能力なら、こう、もっと別の反応とかあった気がするんだが……まあいいか!
「ライザさん、凄かったでしょ!僕の成績!いつも通りにはできたと思いますよ、ライザさんが見守ってくれていたので肩の力を抜いて好成績です!」
ライザさんのおかげだと伝えておく。僕からエルフさんへ好意の矢印だ。
流し目──クールに見つめる。
「……ふッ」
ライザさんに鼻で笑われた。
さーて、座学でも受けるか。
座学は学校の教室まんまの部屋で始まった。木製の椅子に机だ。当たり前のように木材を使っているが、森も大絶壁から生えているのだろうか?その場合、木は上と横、どっちに伸びるんだろ。伐倒したときも落ちていきそうなんだよな。いつか答えを知りたいものだ。
傭兵心得の座学だ。
教官はライザさん。
「エスパノーラから繋がる空には、エスパノーラガスを運ぶ艀や、交易船を狙って空賊が頻繁にあらわれるんだ。ドラコニアとグルドアはまだ全面戦争をしているわけじゃないから、強力な軍隊の援護は期待できない。空賊を静かにさせられるほどエスパノーラ市民艦隊は強くないってことで傭兵ギルドにはとっても都合が良いんだぁ」
ライザさん曰く、そうらしい。
「傭兵を無秩序に雇っても、治安が乱れて風聞が悪いんだ。傭兵ギルドが頭になって犯罪者を摘んだりしながらブランド力の為に勧誘もしているってわけ」
なるほど、と相槌をうつ。
良い感じのリアクション。
さらに質問も絞り出した。
「傭兵ギルドが自由に契約する傭兵が引き起こす事件を防止ししているのですね!」
「そのとおり」
ライザさんはにっこり笑顔だ。
よし、こういう生徒は成功だ。
「傭兵ギルドが傭兵を一括で管理しているのは、特権であることは事実。でも、傭兵が自己責任で勝手気ままにしていてはエスパノーラに被害がでる。傭兵ギルドが拠点をエスパノーラに置き、町とギルドの利益は同じ場所にあるとしているわけね」
「ギルドは町と仲良くする傭兵」
「傭兵ギルドは蛮族とは違うの」
「蛮族、ですか?ライザさん」
「ならず者、空賊、盗人、野人でも全部ひっくるめて蛮族でも間違いないわね。傭兵ギルドは金で、綺麗な戦力を提供する」
「やる気は金額相応で?」
「新人傭兵にしても良いところを突くわね。そうよ、金額相応、でもそれは仕事を完遂する契約に、支払い額を納得したということは忘れないこと。金額が気に入らないから半端なのは許されない」
傭兵て意外と律儀なんだな。
戦場からすぐ逃げ出す印象。
でもライザさんの言いぶりだと違うぞ。
「でも傭兵と蛮族は似ているわ」
ライザさんが唇に指を当て続ける。
「蛮族は欲望のままに略奪する。傭兵は契約のために命をかける。蛮族に落ちないために、傭兵である誓いを胸に刻んでおくこと」
「はい、ライザさん」
返事をしたが、誓いとは?
「ライザさん、誓いて具体的にはどんなものなんでしょうか」
「契約と金に命を賭ける」
契約と金に命を賭ける。
僕は、何に命を賭けるんだろうか?
ボラタイルは大切だ。寡黙だけど。
ゲームでも1番の相棒ドラゴンだ。
でも、そういうことじゃないよな。
この世界でどう生きたいかだよな。
ボラタイルを守る為に生きるのは違う。
ボラタイルには悪いけど、それは違う。
僕は────どう生きたいんだろうか。
この世界に落ちたとき、不思議と不安を感じなかった。ドラゴンを操船なんて、少なくとも本物に触れたこそさえなかったのの、ボラタイルと一緒に飛んだ夜は長年連れ添っていたかのように当たり前に馴染んだ。
不安はなかった。
恐怖もなかった。
空賊と戦ったときでさえもだ。
大絶壁を目の前にした時、始まりも終わりもわからない〝壁〟を見た時には……この先の果てには何があるんだろう?遥か天上の世界には、地上があるのか?
行ってみたいと、思ったんだ。
たぶんエルフの村もそこだ!!
「ライザさん!」
「なにかしらぁ」
「ライザさんはエルフさんですか!?」
「エルフはとっくに絶滅したわよぉ?」
無情。
「さて、新人教育終わり!」
ライザさんはパンッ!と手を合わせて鳴らし、僕の手を引いて立たせる。
「傭兵入りの初祝い!おいで、美味しい場所でおごってあげるわ!」
──てなわけで連れ出された。
あッ、レストランが見えてきた。
看板に書かれた店名が気になる。
ルーンカタカナだ。
オイシイスシだぞ。
寿司のことなのだ。
暖簾をくぐればちょい高級感。
なれズシ、早ズシ、巻きズシ、押しズシ、ばらズシ、稲荷ズシとスシも色々あるが、寿司と言えば早ズシのあれ、切り身のネタに酢飯を握った早ズシのスタイルだな。
ハイスカイフリートではルーンカタカナかゴシックローマワードなので、音読には基本的に困ることはない。
便利な世界だよね。
ありがたい世界だ。
「奢ってあげるわよ」
ふふーん、とライザさんの背が伸びた。
店内は殺風景どころではない〝無〟だ。
自販機風のものが一面に並んでいる。ライザさんはそれにコインを投入した。すると何らかの機構が動いて、酢飯の……おにぎりの出来損ないみたいなのが落ち、続いて、たぶん魚の切り身が落ちた。
ちょっとどころではなくズレてる。
ライザは出てきたスシ?を食べる。
「……」
ライザさんの奢りなのだ。
僕は試しに指差してみた。
ライザさんがコインを入れる。先ほどと同じように、飯が落ちた。ネタも落ちた。ズレてるので拾って合体させる。
ライザさんが目を輝かせる。
食べてみて!と語っている。
僕が注文したのはメニュー名では、マグロの醤油漬けだ。赤身が黒くなるほど醤油に漬けられ、塩分が水分を抜いて日持ちするようになっている。醤油が身をねっとりさせて生ではあるが、また違う食感と味を楽しめるのが、僕の知っているヅケだ。
物は試しで食べてみた。
すっごく、不味かった。
「……スシて自分で作れるんですかね」
もういっそ自分で魚をさばいて握ったほうが美味いまであるあろ、という内心がこぼれた。
家でのんびり手巻き寿司もある。
本気で言ったわけではないのだが、ライザさんは真剣に考えてくれたようだ。
「ここのスシは機械だけど、そうね」
ライザさんがたぶんマグロを食べる。
「巨大な水槽を作って魚を飼っている金持ちの話を聞いたことがある。1つの国程もある土地で、何種類もの魚を管理していると。そういうのなら、いつでもスシを握れるかも?」
「魚を仕入れるのて難しいのですか?」
「まず手に入らないわね。このお店も不定期にしかやってないもの。魚は時価、いつとれるかわからない貴重な生き物だから、スシを食べたいと思うのなら養殖しかないわね」
スシは気軽に食べれないのか。
魚そのものが大変に希少、と。
うん、いいかもしれない。
「ライザさん、僕、決めました」
僕はたぶんタイのスシを放り込む。
やっぱり海と地上が無いとダメか。
空の果て、大絶壁の上を目指すぞ。
「僕、スシのために1国1城作ります」




