第3話 尋問
「空賊が管理していたものです。私は何も」
エスパノーラ治安維持局とエスパノーラ移民局、エスパノーラ税関の揃い踏みで尋問を受けている。
ボラタイルの出自。
キャプテン・ヴァルカの実在性。
空賊からの鹵獲品だとか他細々。
それらは一切〝無問題〟だった。
では、エスパノーラ当局揃い踏みで何を尋問されているのかと言うと、僕を襲った空賊さんはどうも、盗んではいけない相手から、盗んではいけないものを略奪していたらしく……僕が共犯者だとか、仲間割れをして逃げたのではとか疑われている。
2隻は撃沈しているので真相は闇中。
「……所属なし。奴隷ではなく自由民か」
当局がボラタイルを臨検して、僕やボラタイルの書類を確保しているので、持ち物検査は当局がやってほぼ知られている。僕の潔白は、当局が冤罪でもふっかけないと揺るがないということだ。
書類があったことは驚きだ。
僕も存在を知らなかったぞ。
所有者等の正当性の全記録。
ボラタイルの正規の書類だ。
高圧的な調査では、あった。
ただ職員は事務的に処理しているだけにも見える。僕を犯罪者として追求するために、論理的な罠を張っている感じじゃないんだ。矛盾を突くとか、嘘を吐いて、嘘を言わせるだとかの尋問とはちょっと違うぽい。
んなもんだから、ちょっとだけ気楽だ。
「書類は正式なものだな。きちんと管理されていて提出は、臨検で見つけたから不備と言えば不備だが、まあよくあることだ」
「はあ、問題は無い、ということですか」
「まあ、そういうことだな。空賊との関係性を疑い出したら、何が出てくるかわからないだろ。ボラタイルだったか。個人にしちゃあデカいシップ乗り回している」
「えへへ、それほどでも。ボラタイルが連れていってくれるだけです。彼女でなければ1人で空を飛べませんから」
「確かにな。機械式だと頭数がどうしてもいる。生体式……ドラゴンが言うことを聞くなら良い判断だろうさ。良いドラゴンと出会ったらしい。相性が良いんだろう」
「はい!空賊船団にも負けませんでした!」
「調子に乗るんじゃないよ。まぐれさ!!」
と杭を打ち込まれてしまう。
だが庇ってくれる者もいた。
「しかしボラタイルとヴァルカくんの戦闘力は傭兵顔負けということになりますよ。空賊とはいえ3隻のうち2隻撃沈、1隻鹵獲です。それも──」
「──ボンヤード三兄弟をやった、か?」
「航路を塞いで面倒だった連中です。奴らに手を焼いていたのは事実ですから」
「うーむ……まあ……すばしこい野郎だ」
当局、ボラタイルを凄い褒めてくれる。
ちょっと嬉しいものだな、ボラタイル。
「しかしドラゴン型とは、このあたりの空じゃ珍しいな。ドラコニスタンの出身か?あのあたりの〝壁〟はドラゴン種が営巣しているんだろ」
「いえ、僕はクリタの町からですね。ウインドストームに巻き込まれてしばらく漂流していたんです。ちょっと記憶もとんでるかな?曖昧なんです」
「お前……苦労したんだな……」
空気がちょっとだけ同情的になった。
クリタとは、僕がハイスカイフリートでアカウントを作っていたサーバーの名前だ。嘘ではない。クリタ・サーバーにずっといたんだから。
そんな世間話をしていたら、尋問室に新しい人が増えた。扉が開き入ってきたのは、美人な女性だ。
扉が開いた以上に彼女を見て驚く。
すっごいちんちくりんなのである。
俺の背丈の半分もあるか?サイズ。
いっちょまえに生意気な赤マントと、腰には絶対に特注であろうサーベルを佩いている。ちんちくりんな女騎士様か女王様かて態度でえらそうだ。
「ちっちゃ」
声には出していないはず?
ちっちゃい女が俺を見る。
「ノノノじゃないか、尋問室に用か?」
「ノノノは見慣れないドラゴンがいたから来た。これが持ち主?ノノノよりも〝小さい〟みたい」
ふふーん、と、ノノノとやら顎をあげる。
ノが多い名前だな、しかも一人称が名前。
だが俺はハードボイルドな男なので、な。
「ノノノがお前に質問する」
「なんでも訊いてください」
「名前は?」
「ロウ・ヴァルカです」
「船名は?」
「ボラタイル号です」
「積荷は?」
「鹵獲した空賊船とお宝です」
チビだろうが敬意は払う。
当局に目をつけられない。
これが1番真面目なのだ。
「シケた金額だから税金も少額払い、しかも納税済み。ありがたいのは空賊のアジトに目星がつく地図があったことだな。これは買い取ることで交渉は終わった。ノノノが来なけりゃ世間話をして解放するつもりだぞ」
と、当局職員が全部言ってくれた。
尋問は既に〝終わっている〟のだ。
僕にやましいものはない。
税金も係留代も支払い済。
エスパノーラに滞在する理由は、ボラタイル号への消耗品の補充と修理、ついでに羽休めと路銀を稼げる仕事も探していることを伝えてある。
どれも問題なく話を通してくれた。
残念だったな、ちびっこノノノめ。
ノノノは空賊の口を割らせてやるとでも考えながら、遊びにきたのだろう。そう言う意味では当局の職員は実に誠実に、僕の話に親身になってくれた。
どこで修理を、どこで買えば、誰に話を、どういう手続きかを全て、教えてくれたんだからな。……まあやっぱりと言うかボラタイルの貯金が完全に空っぽになるほどの予算が必要だったが……必要なら仕方がないよな。
「……クレーム。ノノノが話しているヴァルカに紹介してあげた仕事の書類を見せなさい」
「そ、それは……」
当局職員の1人──クレームて名前だったのか。そういえば自己紹介をされてなかったな?──が急に狼狽えた。それどころか先程まで楽しげだった職員達も、心なしか顔が青くなる。
「ノノノは見せなさいと言いました」
「あッ、すぐにお持ちしますので!」
クレームが慌ただしく尋問室を飛び出す。
クレームを追い残りの2人も同じように。
「……書類を改竄か破棄に行きましたね。ノノノはお見通しです。証拠隠滅てやつですね」
「……えッ!?」
「ヴァルカはぼったくられて、金庫を根こそぎ回収されたと、ノノノは断言しましょう。他人を迂闊に信じないこと、ノノノは警告しておきます」
あの野郎どもッ!
僕をカモにして!
そうかだからフレンドリーだったか。
危なかった、ノノノは命の恩人だな。
「あ、ありがとうございますノノノさん!」
ノノノさんが椅子を引く。
丁度俺の対面に腰掛けた。
「ノノノは、ヴァルカがどの空から来たか、どんな人柄かには興味がありません」
「無いんですか……」
なんでだ。
少し残念。
………恋か?
「だけどヴァルカにはスパイの疑惑がある。ノノノの愛するエスパノーラで〝破壊工作〟とか〝離反工作〟とか〝情報を盗む〟とかしないか心配」
「スパイ!?違いますよ!!」
心外中の心外だ、冤罪まである。
スパイてのは勤勉な人間がやる。
俺が勤勉?真面目を絵に描いた男だ。
俺はもしかしたらスパイの素質あり?
「仮にスパイだとしても、ノノノさん個人のスパイになりますよ。恩人ですからなんでも訊いてください」
俺はたぶん白い歯を見せてニヒルに笑う。
ノノノさんには鼻で笑われた。
小学生に冷笑された位、辛い。
「……まあスパイかどうかは尋問で口を割らせられない。監視がつくから日常生活はそう言うところを気にしておけと、ノノノは言っておきます」
「気をつけられます!」
なんだ、要するにあれだな。
スパイだと脅して犯罪予防。
恐喝がスタンダートちびっこ……。
ノノノさんは優しげに微笑まれる。
ちょっとだけ、胸が高鳴った。
もしかしてこれって……恋……?
「ノノノにとっては、まあいいです。ノノノ、言い忘れていました。ヴァルカは銀行口座が無かったのでエスパノーラ銀行で換金できる小切手として〝報奨金〟を渡しておきます」
「これが小切手」とノノノさんはくれた。
現金換金!お金が入っているてこと。
小切手に書かれた金は、散財しなければ当面の間は食べていけるだけの桁数が並んでいた。勿論、ボラタイルと込みでだ。
「額に喜んでいただければ、ノノノも嬉しいです。近頃は少ないと暴れる輩も多いですし。そういう意味ではヴァルカは我々寄りなのかもしれませんね」
「……〝我々〟ですか?」
「ヴァルカは傭兵登録をしているか、ノノノは疑問。まだ登録していないなら登録しておいたほうが良いかもしれない」
なんかはぐらかされたな。
でもまあ空賊退治だろ?
危険性は、段違いに高い。
そしてようやっと尋問から解放された。




