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氷の上司に、好きがバレたら終わりや  作者: naomikoryo


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第14話「本庄さんの過去」

「すまない、宮本さん

――僕は、誰かを好きになってはいけないと思っている」


その言葉が、舞子の心にずっと残っていた。


金曜の夜、公園のベンチでの告白。

勇気を出して伝えた気持ちは、優しく、でもはっきりと

――断られた。


(わかってた。覚悟もしてた。けど、やっぱり……痛いなぁ、恋って)


でも、不思議と泣かなかった。


代わりに、心の奥に火がついたような感覚があった。


(あの人、まだ傷ついたままなんや……。なら、うちは――それごと、受け止めたい)


その想いが、舞子の背中を押し続けていた。


  


翌週月曜、いつもの朝の風景。

オフィスでPCに向かう本庄は、何も変わっていなかった。


静かで、冷静で、感情を表に出さない。

告白の翌日も、その翌日も、彼は何もなかったように振る舞っていた。


(……ほんまに、仮面かぶってるみたいやな)


でも、知ってる。

あの仮面の奥には、人間味があって、優しさがあって、

そして

――まだ癒えていない“傷”があることを。


 


そんな中、昼休みに浅見からメッセージが届く。


>浅見:今日の夕方、少しだけ時間ある?

>……誠の過去、もっときちんと話すから。


(……ついに来た)


夕方、カフェにて。


舞子はホットコーヒーを両手で包み込みながら、静かに浅見の話を聞いていた。


「誠がああなったのは、7年前のこと。

彼、当時付き合ってた女性と婚約してて、結婚式の準備も進んでたんだ」


「……はい。

噂で少しだけ」


「でも、相手の女性が突然、“別の人を好きになった”って言い出した。

理由も曖昧で、気づいたら指輪も返されてた。

誠の両親にも会った後だったから、相当ショックだったはずだよ」


舞子は唇を噛みしめる。


「……そんなことされたら、人間不信にもなりますよね」


「しかもね、その相手の男って、誠の大学時代の友人だった」


「……うそ……」


「それから、誠は“感情を出すこと”をやめた。

誰にも心を許さず、誰にも期待せず、誰も近づけないようにした。

“感情で判断すると、また大切なものを失う”って、心に深く刻み込んだんだろうね」


舞子の手が、ぎゅっとカップを握る。


「でも……課長は今、ちゃんと仕事も部下も大切にしてます。

無感情に見えるけど、ほんまはすごく“見てる”し、気にかけてる。

そういう人が、ひとりぼっちのままでええわけないと思うんです」


「……俺も、そう思ってる」


浅見はにっこりと笑った。


「実は、あいつの婚約者だった人、去年結婚して海外に移住したんだって。

つまり、“過去”はもう、完全に終わってる」


「……!」


「だから、今あいつが“止まってる”のは、自分のせいなんだ。

過去に囚われて、前に進めてない。

でも――もし、誰かがその手を取って引っ張ってくれたら、変われると思う」


浅見の目がまっすぐ舞子を見ていた。


「君がその“誰か”になれるなら

――今度こそ、あいつは救われるかもしれないよ」


 

その夜、舞子は東京タワーが見える橋の上で、ひとり立ち止まった。


冷たい風が頬をなでるけど、心は不思議とあたたかかった。


(うちはあの人に“好かれたい”んちゃう。あの人を“ひとりにさせたくない”んや)


好きって、そういう気持ちやろ?


一緒に笑いたい、一緒にごはん食べたい、

一緒に、朝を迎えたい。


そんな未来を想像してる自分が、ここにおる。


(まだ間に合うなら――もう一回、伝えたい)


そう思った瞬間、スマホが震えた。


《本庄課長》

「明日、少しお時間いただけますか。お話ししたいことがあります」


(……え?)


心臓が、トン、と跳ねた。

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