第19話 野生の王の「おねだり」が止まらない
ユニコーンが「エロス支部」への入信を済ませ、舎弟として庭園の隅で控えるようになった直後。
私の背後から、陽だまりを凍てつかせるような低い声が響いた。
「……ナオミ。不公平だと思わないか」
「は? 何がです、レオン様」
振り返ると、そこには眉間に深い皺を刻み、今にもユニコーンを「ジビエ料理」に変えそうな形相の獣人王が立っていた。
レオン様は私の返事も待たず、その太い腕で私の腰を強引に引き寄せると、近くの石造りのベンチに腰を下ろすと……そのまま、私をごく自然に自分の膝の上へと拘束した。
「ちょっ……!? 何やってんの、王様! 離してってば!」
「離さん。ナオミ、貴様は先ほど、あの馬に乗っただろう」
「仕事だったからでしょ! しかも王様が言い出しっぺだし……」
「ならば俺のことも義務遂行しろ。馬に乗ったのなら、俺(狼)にも乗るのが道理だ」
「…………は?」
私は、本日何度目かわからない思考停止に陥った。
目の前のドS美形王は、至って真面目な顔で、とんでもなく支離滅裂なことをのたまっている。
馬に乗ったから狼にも乗れ? どんな食物連鎖の理屈よ、それ。
「意味わかんない! そもそも、王様は今、人間の姿じゃないなじゃない。乗れるわけないでしょ!」
「……ならば、こうして俺が貴様を乗せていれば同じことだ」
レオン様は、私の背中に顔を埋め、銀狼の野生を隠そうともせずに深く息を吸い込んだ。
その大きな手のひらが、私の腰をがっしりとホールドし、逃げ場を完全に塞いでいる。
耳元で囁かれる、熱を帯びた低音。
「あの馬に触れさせたその指も、その腿も。……すべて俺の独占物(メンテナンス対象)だ。……ナオミ、俺……もう限界なんだ。貴様が他のオスに愛想を振りまくたびに、心臓が『概念ごと』焼け焦げそうなんだよ……っ!」
「…………っ!!」
出た。この人の必殺技。
強引に独占しておきながら、最後は「捨てられた仔犬」のような声で甘えてくる、卑怯な【おねだり】。
さっきまで「裸の王様」状態で焦っていた私の心臓が、今度は別の意味で爆発しそうになる。
「……っ、もう! 分かったわよ、分かったから! メンテナンスでも何でも好きにしなさいよ!」
「……あぁ。一生、離さない」
膝の上で顔を真っ赤にして暴れる私と、それを満足げに「捕食」するような瞳で見つめる獣人王。
遠くでユニコーンが「姐さん……ッ! さすがはエロス開祖、王様を手なずけていらっしゃる!」と言いたげな、熱い視線を送ってくるのが死ぬほどウザい。
ナオミ、本日十二度目の大ピンチは、王様の「膝の上」という名の、最も逃げ出しにくい檻の中だった。とほほ。
(つづく)




