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ありふれた悲劇

はじめにお読みください

本章には、動物の死に関わる描写が含まれています。こうした内容が苦手な方は、閲覧をお控えいただくか、ご自身の体調と相談しながらお読みください。

──九月も一週間過ぎたが、残暑は厳しく溶けるような熱が公園を覆っていた。

 朝になっても消えない熱さに汗をかきながら、数日ぶりにサトシは生物園に向かう道を通っていた。この数日間、大学からの呼び出しやら、実家での用事を片付けるためアルバイトを休んでいたのだ。


 本日、手伏区生物園(てふせくせいぶつえん)は休園日である。だが、飼育員や職員は飼っている生き物のために日々出勤をしている。それは、インターンのサトシも例外ではなかった。ましてや、今はメインで担当しているグンディが出産を迎えようとしている時期であり、自ずとサトシの中にもやる気があふれてくるのだ。

 ロッカーで制服に着替え、展示室へ向かう。展示室の正面にはグンディの展示ルームがあり、サトシが中をのぞく。グンディたちは巣箱の中にまだいるようであった。いつもであれば、王様グンディが見張りのために外に出ているはずであるが、今日はまだ出ていないことに違和感を感じつつも、サトシは展示ルーム横の控室に入ると、保温電球のスイッチを入れた。


 瞬く間に保温電球が輝き、展示ルームが一気に明るくなる。それに気が付いたのか、三匹のメスグンディが巣箱から顔を出した。

『あら?もう朝なの?』

 一番最初に出てきたアンドレが、聞いてくる。

『そうだよ、おはよう、アンドレ!』


『おはよう、下僕。今日も明るいわね!』

 巣箱の少し上にある出入り口から顔を出したのは、ミルフィである。彼女も軽く鼻をひくつかせながらも、のっそりと外に出てくる。

『おはようございます。今日も、よろしくお願いいたします』

 ゆっくりとその姿を見せたのは、一番小柄なメウェであった。彼女は、のんびりとしかしまっすぐとチモシーを配置した餌入れのほうへと向かった。

『ミルフィにメウェもおはよう。王様は元気?』

 サトシが何とはなく聞くと、三匹は動きを止めた。

『王様はね、最近具合が良くないの』

 アンドレが、心配するように言った。

『日に日にやつれているのよ。アタシたちの応援も効いていないみたい』

 ミルフィが少し悔しそうな声を出す。

『王様が私たちを大切にしてくれているのはわかりますが、自分のことも労わってほしいのです』

 メウェのその声は本当に王様の具合を案じているようであった。


『そうなんだ……なにか僕にできることはあるかい?』

『主を(おもんぱか)るとは、下僕も偉くなったものよ』

 サトシが心配そうに言うと、突然声が脳内に響く。そうして、ようやくノロノロと王様グンディが巣穴から出てきた。

 以前はふかふかなきな粉色の毛が密集して生えていたが、今はところどころ抜け毛が目立ち、ピンク色の地肌が見えている箇所もある。残った毛も、ボサボサで逆立っていた。王様グンディの姿は、やつれているを越えて痛々しいくらいである。

『あの……その体、大丈夫なんですか?』

『フンッ。余はいたって健康的である』

『でも、その姿で健康的って言うのは……』

『ここしばらく、力を使いすぎてしまってな。なに、休んでいればすぐに良くなるわ』

 王様グンディはあくまで強気な態度である。だが、いつもの岩場に直行すると、すぐに体を平らにして横になってしまった。心配そうに、ミルフィとメウェが王様の横に来ると、王様の体の上に重なり合った。

『すまぬな、ミルフィにメウェよ。そして、監視をしてくれているアンドレもかたじけない』

 王様のその声に三匹がチュルルと鳴き返す。少しは元気が出てくれればよいと思いながら、サトシは言った。

『今度のおやつは、王様が好きなニンジン多めに持ってきますね』

『そうせよ。それとトウモロコシはなるべく粒の大きいものを持ってまいれ』

『分かりましたよ。あっ、そうだ、今月は僕、あまりこちらに来れないかもしれません』

 その言葉に、王様はわずかに頭を上げる。

『大学から呼び出しがあって。後期はもっと本腰入れないとまずいって』

 期末試験の結果が思わしくなく、このままでは進級に必要な単位が取得できない。それが、夏休み中の呼び出しの理由であった。律儀に教えてくれる大学の親切さに感謝するのが半分、そこまで細かいことを気にするのかとあきれるのが半分な気持である。

『全く、余の心配をする前に自身の心配をするべきであろう』

『まったく、そうですね』

『何度も言っているが、余の王国に無能を入れる気はないぞ。自身の挫折は自身で何とかせよ』

『そうしますよ』

 怒る気力もないのか、王様は再びぐったりと頭を岩へ横たえた。

『それと、九月は実家の方に行かなくてはいけないんですよ。なんでも今年は大きいお祭りの年らしくて』

 サトシの父方の実家は、万葉県(まんようけん)の中部にある。ここでは数年に一度大きな祭りがあり、丑前(うしまえ)家もそれに参加するように言われている。おみこしを担がされたり、年寄りと混ざって飲み会に参加しなくてはいけないので、正直に言えば避けたいのだが、学費を出してもらっており、実家暮らしまでさせてもらっている手前、親の命令を無視するわけにもいかず、必要経費として割り切っていた。

『ふむ。行くがよい。余は知らぬ』

『分かりました。お土産買ってきますから、何か欲しいものあります?』

『それをもらう側に聞いてどうする。良きに計らうがよい』

 少しだけ元気そうになった王様グンディをみてホッとする。その間も、メウェとミルフィは王様を温めるかのように重なっていた。


『下僕も気を付けるがよい。最近、侍女(じじょ)が不埒な輩に襲われたそうだ。貴様もどこで誰に襲撃されるか分からない故な』

『えっ!?それは初耳なんですが、本当なのですか?』

『いかにも。余があらかじめ魔除けを持たせておいて正解であった』

『それはナイスなことですね!その魔除け、僕にはくれないんですか?』

『貴様は自分で何とかするがよい。子供ではないのだ』

 無下に断られ少しがっかりするが、憔悴している王様にこれ以上言う気も起きない。サトシは、今回は素直に引くことにした。


『分かりましたよ。でも、本当に良かったですよ。迎江さんが無事で』

『誠である。そして、()も済んだようで何よりよ』

『んっ?礼って?』

『それはどうでもよい。余は少し休む。はよう、ほかの生き物たちの世話をしに行くがよい』

 そうにべもなく言われればサトシにやることはない。サトシは控室から出ると、別の生き物の様子を見るため、展示室を出ていった。


***


「なるほどな。まあ話は分かった」

 小さな会議室で、園長はにべもなく言った。王様グンディにもした話を園長たちにも言うと、思ったよりあっさりとした答えが返ってきた。

「なら、しばらくは週一くらいで出るとよい。あとでおタエさんにも話しておくから、出れる日を伝えておけよ」

「すいません。いろいろとご迷惑おかけして」

「気にすんな!まあ、学業をおろそかにしたんじゃ、本末転倒もいいところだ。もう一年同じ学年でした、にはならないようにしろよ、ウシ!」

 そう言って、園長は軽くサトシの肩をたたくと、会議室から出ていった。


「というわけで、申し訳ありませんが、後方のほうお願いしますね、箱音(はこね)さん」

 サトシは、会議室に残っていた、サナエに頭を下げた。彼女はニッコリと笑いながら、答えた。

「了解!サトシくんも、ファイトだよ!」

「はい。まずは明日からお祭りに行ってきます」

「いいねー!お祭り、がんばってね!」

 サナエの声援に、サトシはあいまいに笑う。

「それじゃあ、今日は残りいろいろやっちゃおうか!」


***


 その翌日のことである。

 イロハは、生物園に来ていた。今日は塾が休みで、その上アリナが熱を出したため、一緒に勉強することができず、こうして生物園で久しぶりにグンディたちと仲良く話をしていた。


『王様、この前はありがとうございました!』

『……侍女(じじょ)こそ、よく辛い仕打ちに耐えた。そなたは誠にあっぱれよ』

 腹を見せながら横になる王様グンディは、いつもより辛そうである。それでも、王様グンディの声は威厳を保っていたが、イロハは心配そうに言った。


『王様?もし、具合が良くないのですか?』

『そなたも、下僕のようなことを言う。余は心配無用よ』

『でも、もし私にできることがあれば言ってくださいね』

『なら、余は少し巣箱で休む故、妃たちと会話をせよ』

 王様グンディは、いつもの快活さはどこへやら、よろよろと木箱に入っていった。


『イロハは、ケガはないのですか?』

 一番小さな、メウェが心配そうにガラス越しに言った。彼女たちは、王様からイロハの身に起きたことを聞いたそうだ。

『はい。王様のくれたお守りで特に何もなく済みました』

『それは、とっても良いことなのです』

『メウェは、どうですか?もうすぐ、生まれると思いますが』

 グンディの妊娠期間はおよそ60日である。計算上では、七月末に妊娠したメウェの出産は、今月の末になる。見た目こそほぼ変わらないものの、最近は高いところに無理していくことが少なくなっていた。

『大丈夫なのです。きっと王様の子供だから、元気に生まれるはずです』

 メウェが慈しむような声で言う。すっかり、お母さんのようである。


『イロハ!久しぶりね!今度はどんな動画を見せてくれるのかしら!』

 こちらも、九月末の出産を予定しているアンドレが、メウェの横に来た。彼女は、動画を見るのが何よりも好きであるそうだ。

『アタシにも、動画を見せて!アタシは、カヤネズミの巣作りを見て赤ちゃんの巣の参考にするの!』

 こちらは先月の中旬に妊娠したミルフィである。彼女のインテリアへの思いはまた大きく、よくコーディネートの動画を見せてあげていた。


 和やかな、三匹のグンディとの楽しい会話。イロハが自分のスマートフォンから動画アプリを開こうとした時のことであった。


『……っえ?あ、あっ……!?』

 真ん中にいた、メウェが一瞬固まったかと思うと、横になった。よく寝転ぶグンディであるが、このように急に横になるのは珍しい。イロハとほかのグンディが不思議そうに見ていると、メウェが苦しそうに言った。

『お腹が……波打って……まさか……!?』

 それは、おそらく同じ女性だからだろう。アンドレやミルフィと同じことがイロハの頭に浮かんだ。


『待って!?なんで……?』

 いつもの強気な態度を崩したミルフィがオロオロとする。

『メウェ!ダメ!まだ早すぎるわ!』

 アンドレが、メウェの顔に自身の顔を近づけ、励ますように言った。

『痛い……!痛いよ……助けて……あああっ!』

 その叫ぶような声がした時、巣箱から王様グンディが飛び出してきた。


『メウェよ!?しっかりとせよ!』

『王様……苦しい……助けて……』

『なぜだ!?まだ早すぎる!』

 苦しそうに身悶えするメウェを前に呆然とした王様は、すぐにいつものような顔に戻ると、杖を取り出しメウェに向けた。

『余の力で、苦しみを除く。だから、耐えるのだ!メウェぇ!』


『あっ!?私、誰か飼育員さんを呼んできます!すぐ戻ります!』

 イロハは目の前で起きていることの重大さを悟ると、踵を返して飼育員を呼びに行った。


***


(何故だ?何故こんなに早くに……?)

 イロハが見えなくなり、後にはグンディたちだけが残される。王様の焦りが伝播したのか、展示室にいる他の生き物たちも驚いたように隠れたり、反対に不安から逃れようと暴れだした。その様子に来園客が驚くが、王様グンディはそんなこと気にする余裕はなかった。


『お、おうさ、ま……あっああああ!』

 メウェが、その身を悶えさせ、少しでも苦痛から逃れようとする。魔力が効いているはずだが、メウェの苦しみが治まる様子は一向に見られない。

『あかっ、ちゃんたちは!?わたしの、あかちゃんは!?』

『メウェよ。大丈夫である。心配はいらぬ。余が何とかしてみせる故、身を楽にせよ!』

『でもぉ!でもおぉ!』

 メウェは、何かを感じたかのように半狂乱になる。いつもの落ち着いた様子からは想像すらできないその姿を、王様は何とか痛みを和らげようと杖の力を尽くす。


『メウェ!私たちがいるわ』

『そうよ、アタシたち三匹で乗り越えてきたじゃない!』

 アンドレとミルフィは、メウェの横で励ましながら寄り添っているが、それもメウェの苦痛を和らげることにはなっていなかった。

『メウェよ。しばしの辛抱である。すぐに医師が来る。それまで余が付き添っておる故、耐えるのだ!』

 王様が叫ぶように言ったその瞬間、急に鉄臭いにおいが展示ルームの中に充満した。メウェのお腹から漂ってくる血の匂いで、アンドレとミルフィは非常に深刻なことが起きていることを悟った。同様に、早すぎる我が子の出産が始まったことを察した王様は、杖の力をさらに絞り出す。だが、王様がどれほど強く願っても、すでに枯渇しかけている杖の魔力は仄かに空間に拡散するばかりであった。


『いやああああ!お願い、お願いだからまだうまれ──』

 そこまで、言いかけたメウェは、それ以上何も言わなくなった。代わりに、メウェはチュウチュウと鳴くばかりである。

『メウェ!?どうし──』

『あれ?なんでなにもかんがえ──』

 周りにいたアンドレとミルフィの声も消えた。二匹もまた、不安げにチイチイ鳴くがその考えが王様に伝わることはない。

『どうした?妃たちよ、なぜ何も言わなくなる?』

 王様グンディが三匹に問いかけるが、答える声はない。まるで、一年ほど前に彼がメウェたちに会った時のようであることに気が付いた時、王様は最悪の事態が起きたことを悟った。


『まさか!?嘘だ嘘だうそだ!なぜ──』

 それ以上何かを言おうとした王様グンディは、しかし何を言えばよいのか分からなくなった。自身の身に余るようなことが起き、それを言葉にしようとするのだが、思いつかない。今まであふれんばかりに頭に浮かんでいた様々な思いや考えが急に霧に包まれて見えなくなっていくようであった。

(まりょくのこかつ……)

 王様グンディが王様グンディでいられるのは、その杖の力によるところが大きい。その身を削り温存していたなけなしの魔力を宝玉もなしに使い果たした王様グンディは、次第に何も考えられなくなった。いつの間にか、持っていた杖は手から落ち、透明となって消えた。

(ぼくは……めうぇ……みんな……すまな……)

 すでに、まともな言語が消えかけている王様グンディの脳裏に最後に浮かんだのは、崩壊する宮廷にいたものたち、そして苦しみを表す言葉すらなくしてしまったメウェへの謝罪であった。


***


「あのっ!?サナ……箱音さんかだれかわかる人はいますか!?グンディの様子が変なんです!」

 イロハは、受付にいる職員へ叫ぶように言った。イロハのただならない様子を見た職員は驚きながらもサナエを呼び出してくれた。サナエがやってくるまで五分もかからなかったはずだが、その時間がイロハには永遠とも思えた。

 やがて、不思議そうな顔をしたサナエが、バックヤードから出てきた。

「どうしたの、イロハちゃん?」

「あの!グンディがおかしいんです。急に苦しむように倒れて」

 その言葉とイロハの緊迫した様子に、サナエは瞬時に事の緊急さを理解したようだ。何が起きているのか分かっていない受付職員へ、獣医の土岐坂(ときさか)を呼ぶように言うと、イロハと一緒にグンディのスペースへと向かった。


『王様!戻りました!あの、王様?』

 受付から二十メートルも離れていないグンディの展示室にイロハが入るが、そこは不思議なほど静かであった。先ほどまで脳裏に響いていたグンディの声が一切聞こえないのだ。

『王様?王様!?』

 何も反応はない。恐る恐る展示ルームをガラス越しに覗いたイロハは、目を見開いた。


 三匹のグンディが円を描くような軌道で不安げにうろついている。その真ん中には一番小さなグンディが微かに痙攣しながら横たわる。

 そのグンディの股から出ているものを見た時、イロハに雷に打たれたような衝撃が走った。


 最初それがなにか理解できなかった。いや、したくなかったと言った方が正しいかもしれない。赤ちゃん、とすら言えない四匹の小さな小さなグンディ。それらは、全く動く気配がなかった。


「そんな……ああ、ごめんなさい……」

 サナエが声を震わせる。

「なんで、なんで……」

 イロハは、目の前で起きた悲劇に腰を抜かして、ぺたんと座り込むと、やがて顔をくしゃくしゃに歪めて、嗚咽とともに泣き崩れた。


 そんな二人を、グンディたちは不思議そうに見ているだけであった。


***


 今日はもう帰ったほうが良い、と言われて『私』は家に帰ったが、気が付いたら玄関の前にいた。

 事情を知って、急ぎ来てくれた土岐坂先生が、あらゆる手を尽くしてくれたが、生まれたグンディの赤ちゃんたちが目を開けることはなかった。


「おそらくだが、小さな体で四匹も妊娠していたことが原因だな。君たちの飼育に問題があったわけではない」

 彼女はそう言った。おそらくは、慰めるつもりだったのだろう。


 生物園で飼っている生き物が死ぬことは珍しいことではない。昆虫や魚まで含めれば、毎週のように死んでいると言っても過言ではない。

 だが、それは慣れるという意味ではない。ましてや、自分が担当していた動物の死は、それが理不尽なものであれば猶更堪えるものがあった。


 玄関を開け1Kの部屋に上がると、部屋着に着替えることもなくベッドに倒れ込んだ。食欲もシャワーを浴びる元気もなかった。ただ、横になっていたかった。


 たまたま、その場に良く見知った少女がいたことも、『私』の心に深い影を差すことになった。彼女は、もっと早く飼育員に伝えられていれば、と泣きながら悔やんでいた。無論、たとえ『私』がその場にいてもこの悲劇は避けることはできなかったと断言できる。だが、そんなことは彼女の慰めにはならないことは目に見えていた。結局、彼女に何も言ってあげることができないまま閉園時間になってしまった。肩を落として園を出る少女に、何もしてあげられなかったこと、そのことが『私』を苛む。


 しばらく自責と悔悟に心をたゆたわせて、少しだけやる気がわいてきた。今のうちにやることを済ませよう、そう思った瞬間、重く沈むような香りがどこからともなく漂い、私の中から声が響いた。


──まもなくだ……

 誰の声でもない、でも、よく聞き知った声であった。ここしばらく聞いていなかったその声に瞠目する。


──まもなく、私の力が戻る。そのときこそ、杖を取り戻す

「分かっています。ですが……あのネズミたちを襲う必要があるのですか?」

──情が移ったか?

「違います。ネズミが盗んだ杖の奪還は大猫さまの悲願。それを助け支えるが私たちの役割。ですが、穏便に済ませられないのでしょうか?」

──あの盗人の子孫がこの地を這っているだけで、虫酸が走る。私は、あのネズミどもを滅ぼす


 これ以上の議論は意味がない。それは大猫さまを身に宿らした時から十二分に理解していた。

「御意にございます。私は引き続きあのネズミたちを見張ります。大猫さまは力が万全になるまで、お休みください」

 フッと、香りが消える。後には、空虚な部屋に佇む『私』だけがいた。


 つうっと、目から一筋の熱いものがこぼれる。これが、『私』が今日流した最初の涙だった。

これで第二部完です。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

第三部では、王様グンディたちは立ち直れるのか、サトシとイロハはどう寄り添っていくのか、ご期待ください。

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