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第31話:大脱出!仲間たちの共同戦線

 水族館のど真ん中で「公務執行妨害」で逮捕されるわけにもいかなかった。


抵抗すれば、ルナがどうなってしまうか分からない。俺は結局、高城という男に連れられ、ルナと共に黒塗りの車に乗り込んだ。後部座席には、まるで飼い主に従う従順な犬のように、未来とレイジが座っている。


「未来、レイジ……なんで、お前らまで」


俺の問いかけに、未来は気まずそうに目を逸らし、レイジはため息をついた。


「ふっ、僕も君も、この男に逆らえるほど偉くはないということだ。残念ながら、僕のプリンセスへの忠誠は、この男の持つ権力の前には、無力だった」


未来は、俺とルナに申し訳なさそうな顔で俯いた。


「すみません、先輩……私、止められなくて」


「いいんだ、未来。お前は悪くない」


俺はルナの手を握りながら、そう言った。ルナは、不安そうな顔で俺を見つめていた。その手は、冷たく、ほんの少し震えている。


 車は、都心にそびえ立つ、ガラス張りのオフィスビルに到着した。俺は、高城に促されるまま、ルナと手を繋いだままエレベーターに乗り込んだ。しかし、行き先ボタンに地下の階層を示すボタンはない。


「え?こういう本部って地下じゃないんですか?」


俺がそう呟くと、高城は不敵な笑みを浮かべた。


「我がJESUSの拠点は、地下深くにある。エレベーターは特殊な認証を経なければ降りることはできん」


エレベーターが最上階に到着し、扉が開く。しかし、そこはビルの最上階ではなく、何もないコンクリートの通路が広がっていた。


俺たちは、その通路を進み、無機質な扉を抜けた。その先には、また別のエレベーターがあった。


そのエレベーターに乗り込むと、今度は地下深くへ向かっていく。けたたましい機械音と共に、ぐんぐんと階層が下がっていく。そして、エレベーターの扉が開いた瞬間、俺は思わず息をのんだ。


 そこは、まるでSF映画に出てくるような、広大な地下司令室だった。無数のモニターが並び、オペレーターたちが忙しなくキーボードを叩いている。


その中心に、俺とルナが座らされた。冷たい金属製の椅子が、俺たちの心をさらに冷え込ませる。


高城は、俺たちの正面に立つと、重々しく口を開いた。


「まず、単刀直入に言おう。我々が『滅びの鍵』と呼んでいる彼女、ルナくんの正体についてだ」


高城は、手元のタブレットを操作し、目の前の巨大なスクリーンに、地球の映像を映し出した。青く美しい地球が、ゆっくりと回転している。


「ガイア理論、という説を知っているかね?」


「ガイア…?」


俺は、首を傾げる。ルナも同じように不思議そうな顔をしていた。


「地球と、そこに生きる全ての生命体を、一つの巨大な生命体『ガイア』と見なす考え方だ。我々人類も、その細胞の一つにすぎない、という説だな」


高城は、スクリーンに映るルナの写真を、指さした。


「我々の長年の研究により、この説が、単なる仮説ではないことが判明した。そして、ガイアは、自らの生命を維持するため、一種の『自己防衛システム』を持っている。それが――彼女、コードネーム『セラフ・シグマ』だ」


高城の言葉に、俺は全身が凍りつくのを感じた。


「……どういうことだよ。ルナは、人間じゃないってのか?」


「そうだ。彼女は、人間ではない。ガイアそのものが、自らの意思を代行させるために生み出した、生体端末……言うなれば、地球の『巫女』のような存在だ」


巫女…。つまり、ルナは、地球の意思そのもの、ということか?俺の頭は、一瞬で真っ白になった。


「彼女の感情は、地球の環境にダイレクトにリンクする。彼女が幸せを感じれば、地球は安定し、平和になる。だが、逆に、彼女が強いストレスや悲しみを感じれば……ガイアは、自らを守るため、『リセット』を行おうとする」


「リセット……?」


「そうだ。地殻変動、異常気象、火山の噴火……あらゆる天変地異を引き起こし、地上の文明、すなわち、ガイアにとっての『ストレス源』である我々人類を、一掃する。それこそが、君たちが『世界の滅亡』と呼ぶものの、正体だ」


驚愕の事実…


ルナの感情一つで、本当に世界は終わってしまう。それは、比喩でもなんでもなく、地球の自己防衛システムだったのだ。


「そんな…ルナの感情一つで世界が滅びるなんて…」


ルナは、信じられない、とばかりに自分の手をじっと見つめている。その瞳には、絶望の色が浮かんでいた。


「我々JESUSの目的は、彼女の感情を安定させ、この『リセット』を防ぐことにある。そのために、我々は、彼女を安全な施設で保護し、あらゆるストレスから隔離する必要がある」


「……それが、あんたたちのやり方かよ!」


俺は、思わず声を荒らげた。


「隔離して、管理して……そんなのが、本当に、あいつの幸せだって言えんのかよ!」


「感情論では、世界は救えん。これは、最も合理的で、確実な方法だ」


高城は、冷たく言い放った。その時だった。

ブオオオオオオオン!

突如、司令室全体に、けたたましい警報が鳴り響いた。


「な、何事だ!?」


「司令!第3ゲートが、外部から、物理的に破壊されました!」


「なんだと!?」


メインスクリーンに、監視カメラの映像が切り替わる。そこに映っていたのは、分厚い装甲で固められた施設のゲートを、まるで紙切れのようにこじ開け、侵入してくる、黒いローブの集団だった。


「教団か!なぜ、この場所がわかった!?」


高城は、苛立ちを隠せない。


「わかりません!ですが、侵入者のオーラパターン……幹部のクロウ、サイガ、そして……『審問官』も複数確認!」


教団が、JESUSの本部に、直接、殴り込みをかけてきたのだ。


「面白い。我々の聖域に、自ら足を踏み入れるとはな」

高城は、不敵な笑みを浮かべた。


「全隊員に告ぐ!第一級戦闘配備!教団のネズミどもを、一匹残らず駆除せよ!」


 司令室が、一気に、戦場の空気に変わる。オペレーターたちが、慌ただしく走り回り、武装した隊員たちが、次々と出撃していく。


「天城海斗、ルナくん。君たちには、ここで待機してもらう」


「冗談じゃねえ!こんなところに、いられるか!」


俺が立ち上がろうとした、その時。俺とルナが座っていた椅子から、機械音が鳴り、金属製のアームが伸びて、俺たちの体を拘束した。


「なっ!?」


「言ったはずだ。君たちに、拒否権はない、と」


高城は、俺たちに背を向け、悠然と、戦いの指揮を執り始めた。まずい。このままでは、俺たちは、ここで、教団とJESUSの戦いに巻き込まれる。


「カイト……!」


ルナが、不安そうに俺を見つめる。彼女の感情が不安定になっている。その瞳が、悲しみで揺れている。このままでは、本当に、世界が……!


俺は、必死に、拘束から逃れようともがいた。だが、金属のアームはびくともしない。


JESUS vs 教団


二大組織の全面戦争。そして、その中心で、なすすべもなく、囚われる俺とルナ。


事態は想像を遥かに超えるスケールで、最悪の局面を迎えようとしている。俺とルナの本当の戦いは、まだ始まったばかりだった。

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