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第29話:初デートと、司令官の嘆き

 俺とルナが恋人になって、初めての週末。俺は、なけなしのバイト代を握りしめて、ルナを「初デート」に誘った。行き先は、ベタだが、水族館だ。


「うわあ……!カイト、見てください!お魚が、空を飛んでいます!」


巨大な水槽の前で、ルナは目を輝かせている。色とりどりの魚たちが、まるで空を飛ぶ鳥のように、優雅に群れをなして泳いでいた。


その光景を、子供のように見つめるルナの横顔は、まぶしいくらいに輝いて見える。その笑顔を見ているだけで、バイト代をはたいた甲斐があったと思えた。


「こっちには、ペンギンがいるぞ」


「ペンギン!可愛いです!」


 手を繋いで、館内を歩く。今までも何度も二人で出かけた。それでも、「恋人」という肩書きがついただけで、見える景色も、感じる空気も、全く違って思える。


繋いだ手から伝わる、彼女の柔らかな体温。時々、肩が触れ合う距離。その一つ一つが、俺の心臓をうるさく鳴らした。


イルカショーを見て、二人でソフトクリームを分け合って食べる。


「カイト、口のところに、クリームがついてます」


「え、マジで?」


「ふふ、私が取ってあげます」


ルナが、そっと指で俺の口元のクリームを拭う。その自然な仕草に、俺は顔が熱くなるのを感じた。


いかん、完全に、俺は浮かれている。

だが、こんな甘ったるいデートが、いつまでも続くはずがなかった。


 その頃、JESUSの地下司令室では、一人の男が、怒りと絶望の淵に立たされていた。


「――以上が、現場エージェントからの報告です。『対象二名、水族館にて初デートの模様。イルカショーに感動し、涙ぐむ対象セラフ・シグマの姿に、胸が熱くなった』とのことです」


オペレーターが、淡々と報告書を読み上げる。司令官は、その報告を聞きながら、ギリギリと奥歯を噛みしめた。


報告書という名の、ただのデート実況中継。組織の機密回線を使って、何をやってるんだ、あいつらは!


「……氷堂レイジは、どうした」


「はっ。『二人の聖なるデートを邪魔するわけにはいかない』と、遠くから見守ることに徹している模様。先ほど、『プリンセスの笑顔は、深海の真珠よりも美しい』というポエムが送られてきました」


「……白石未来は」


「『先輩の幸せを、一番近くで見守るのが私の役目です』と、こちらも尾行に徹しています。ソフトクリームを分け合う二人の写真が、大量に送られてきています」


「ポンコツどもが……!」


司令官は、静かに立ち上がった。その瞳には、諦観と、怒りと、そして、ほんの少しの悲しみが宿っていた。


「もはや、現場の人間は、誰一人として信用できん。私が、直接、現場へ向かう」


「し、司令官自ら!?」


「そうだ。そして、この目で確かめてやる。滅びの鍵と、それを誑かす男の正体を。そして、このふざけた茶番に、終止符を打つ!」


司令官は、クローゼットから、一張羅の高級そうなスーツを取り出した。それは、彼が、人生の重要な局面でしか着ない、「勝負服」だった。


 水族館の出口付近、お土産物屋。俺とルナは、並んでキーホルダーを選んでいた。


「カイト、これ、お揃いにしませんか?」


ルナが手に取ったのは、二匹のイルカが寄り添っている、なんともベタなデザインのキーホルダーだった。


「お、おう。まあ、いいけどよ」


 俺が、照れながらも頷いた、その時だった。俺たちの前に、一人の男が、ぬっと現れた。高級そうなスーツを隙なく着こなし、神経質そうな眼鏡をかけた、どこかで見たことのあるような男。


「――君が、天城海斗だな」


男は、低い声で、俺に言った。その声には、

聞き覚えがあった。例の、「オンライン説教誤爆事件」の時の声だ。


「……あんた、JESUSの……」


「いかにも。私が、日本における対超常現象組織『JESUS』の総司令官、高城だ」


高城と名乗る男は、堂々と、その正体を明かした。周囲の客たちが、「え、何?撮影?」と、ざわめき始める。


「単刀直入に言おう。そこにいる少女、コードネーム『セラフ・シグマ』を、我々の管理下に置かせてもらう」


「……断ると言ったら?」


「その場合は、実力行使もやむを得ない。君も、一緒に来てもらうことになる」


高城は、冷徹な瞳で、俺たちを見据える。その圧倒的な威圧感。BBQの時の、ポンコツな隊員たちとは、訳が違う。こいつは、本物だ。


まずい、どうする。俺が、必死に頭を回転させていると、ルナが、俺の前に、一歩踏み出した。


「……嫌です」


ルナは、はっきりと、そう言った。


「私は、カイトと一緒にいます。あなたのところへは、行きません」


「ほう。滅びの鍵が、自らの意思を示すか。興味深い」


高城は、少し意外そうな顔をしたが、すぐに、冷たい表情に戻った。


「だが、君に、拒否権はない。これは、国家の決定だ」


 高城が、スーツの内ポケットに手を入れる。何か、武器を取り出す気か!俺は、ルナをかばい、身構えた。

だが、高城が取り出したのは、武器ではなかった。それは、一枚の、ただの紙切れだった。


「これは、君たち二人に対する『保護観察処分執行令状』だ。これに従い、速やかに、我々と同行してもらう」


……令状?なんだか、思っていたのと、だいぶ違う。もっと、こう、ビームとか出るんじゃないのか。


「……もし、俺たちが、これに従わなかったら?」


「その場合は、公務執行妨害で、現行犯逮捕することになる。もっとも、我々も、事を荒立てたいわけではない。穏便に、話がしたいだけだ」


高城は、あくまで「法」と「対話」で、俺たちを連れて行こうとしていた。その、あまりにも正攻法なやり方に、俺は、逆に、どう対応していいのかわからなくなってしまった。


すると、高城の後ろから、未来とレイジが、慌てて駆け寄ってきた。


「し、司令官!なぜ、ご自身がここに!?」


「黙れ、裏切り者ども。貴様らの怠慢が、私をここまで歩かせたのだ」


高城は、二人を冷たく一瞥すると、再び、俺たちに向き直った。


「さあ、どうする?天城海斗。ここで、大勢の白日の下に、お縄になるか。それとも、大人しく、我々と来るか」


選択肢は、二つに一つ。俺たちの、甘い初デートは、最悪の形で、幕を閉じようとしていた。


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