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赤いカエルの貯金箱



気付けばあいつがくれた貯金箱の中身は十円玉でいっぱいだ。

赤いカエルの貯金箱。

何で赤いカエルなのか、そんなの俺にもわからない。

たまたまあいつの貯金箱と、俺の貯金箱が色違いで。

たまたまその日が俺とあいつの誕生日で。

たまたまあいつが、交換しようって俺に提案したから。

俺の手元には赤いカエルの貯金箱がある。




あいつとは幼馴染兼腐れ縁。生まれたときからずっと一緒だった。

幼稚園、小学校、中学校はもちろん一緒だし、高校だってどうしてか一緒だ。

俺とあいつの成績は雲泥の差だというのに。

こればっかりは運が良かったとしか言いようがない。

たまたまあいつが選んだ学校がぎりぎり俺の手の届く場所にあったのだ。




俺はずっとあいつが好きだった。

友情?いいや、これは確かに恋愛感情だった。

だからといって、漫画のようにうまくいくわけがない。

俺とあいつが恋人になるなんて、太陽が西から昇ってもありえない。

きっと、あいつにとって俺はただの幼馴染、もしかしたらただのご近所さんかもしれない。

そう思うと、少し胸が痛くなる。




中学のとき、友達があいつを"高嶺の花"だと言った。

あいつは美人だ。性格もいいし、頭もいい。

平凡な奴なんかにはあいつは似合わない。

それでも、俺は、俺だけはあいつの隣にいてもいいと思っていた。

"俺ら"には別の世界の住人だよな。

……その言葉に、俺はやっと、世間では俺も同じ"平凡な奴"なんだと気付いてしまった。




あいつへの想いを諦めるために、俺は彼女を作った。

平凡な俺だが、そこまでかっこ悪いというわけでもなく、今までに片手ぐらいは彼女ができた。

……結局、あいつと比べてしまって1週間も経つと俺から振ったけど。

キスどころかハグすら誰ともしていない。

結局のところ、あいつを諦めることなんて俺にはできなかったようだ。




そんなあいつは俺の知っている限り彼氏ができたことはない。

さりげなく本人に聞いてみたところ、嘘か真か、いたことがないと断言した。

告白なんて日常茶飯事のくせに。

理想が高すぎるんじゃねぇの、ってふざけて言えば

どうしようもない人に片思いしてるからね、とあいつは笑った。

……信じられなかった。

だって、あいつならより取り見取りだ。

みんながみんな惚れる、とまでは言わないけどあいつに告白されたらみんな悪い気がしないはずだ。

なのに、そんなあいつが片思い?

告白したのかと聞けば、どうせ無駄だよとあいつはまた笑う。

その顔はとても切なげで、そんな顔をさせる男を俺はぶん殴りたくなった。

あいつに彼氏がいない、というのは喜ばしいことだが、

だからといってこんな顔をする彼女をほおっておきたくもなかった。

何か言おうと俺がもごもごとしていると、あいつは、気にしないで、と俺の背を叩く。

優しいあいつ。俺に気をつかわなくてもいいのに。

いつか、玉砕覚悟で告白するんだ。

そう笑ったあいつの顔もやっぱり美人だった。




赤いカエルの貯金箱。

とうとう入らなくなった十円玉。

俺は告白しようと決めた。……もちろん玉砕覚悟。

振られた後に、あいつにこう言ってやるんだ。


お前以上にいいやつを、俺は知らないから。

万が一お前が振られたって、その男の見る目がないだけだから。

自信を持って、告白しろ。


あいつの彼氏になれないけれど、俺だってあいつの背中は押せるんだ。

きっとそのときの胸の痛みは尋常ではないだろうけど。




あいつと俺の誕生日。告白するにはベストな日。

いつ告白しようかと右往左往して、やっぱりやめようかと思った時。

おふくろが、あいつが来たと俺に言った。

心の準備ができてない、と思いながら玄関まで急ぐ。

いっそのことあいつが誕生日おめでとう、とか言う前に好きだと言ってしまおうか?

そう思いながら玄関を開ける。

あいつは俺が出てくると、顔を真っ赤にして俺に言った。



「ずっと、好きでした」


「君は私のこと、ただの幼馴染としか思ってないかもしれないけど」


「私は、ずっと好きでした」


「小さい頃の約束は、もう無効ですか?」



小さい頃の、約束。

そう言って思い出すことが、1つだけあった。


 『 大きくなったら 結婚しよう 』


気付けば俺とあいつは18歳。

法律上では結婚できる年齢だ。

俺は目の前にいるあいつをじっと見つめる。

その目にはうっすら涙が浮かんでいた。



「……俺で、いいのか?」



俺以上にかっこいいやつはいるぞ?

俺以上に優しいやつはいるぞ?

俺以上に頭のいいやつはいるぞ?

世界には俺以上がたくさん存在するのに。



「それでも、俺でいいのか?」



そこまで言って、俺は後悔をした。

そうだね、と言って、この告白をなかったことにされたら。

あいつは、大きな目で俺を見る。

震えた唇から、馬鹿、と聞こえた。



「君でいい、わけないじゃない」


「君がいい。君じゃなきゃダメなのっ」



あいつは震える唇を噛みしめる。

涙が一滴、零れ落ちた。



「……言ったよな?」


「俺じゃなきゃダメって言ったよな?」


「聞き間違いじゃないよな?」



あいつは一度、頷く。

俺は、そんなあいつを自分のほうへ引き寄せると、強く抱きしめた。

後悔してもしらないぞ、なんてわざわざ口には出さない。

やめとけばよかった、なんてあいつが言っても俺は二度と離さない。



「俺も、お前がいい」


「……俺の彼女になってください」




赤いカエルの貯金箱。

その中身は、今では五百円玉ばかりだ。

いつか、貯金箱の中に五百円玉が入らなくなるほどいっぱいになったら。

そのときは、あいつにプロポーズしよう。


幸運を呼ぶ、赤いカエルの貯金箱。

その隣に青いカエルが来る日は、きっと遠くない。




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