38 シュリーアの目覚め
ここからレイアーナ視点です。
閑話としていましたが、とても収まりきらないことが分かったので、新章 として再編しました。
しばらくは、レイアーナ視点で進めます。
大幅加筆修整しましたR5.2.7
こちらの世界の母星から艦に戻ると、身体に思念体を戻し一息つく。
通常、肉体と思念体は密接に繋がっており、長時間離れていると命の危険があると言われている。
実際に衛星ノームでの訓練時には嫌と言うほど体感した。思念体が肉体から離れている間、本体は仮死状態となる。その状態が長く続けば確実に死に至る。初めは数分離れるだけで、戻った途端にとてつもない疲労感に襲われたものだった。
だが今は本体が時空外の別空間にあり、その空間に入ると同時に現状をそのまま凍結保存されたような状態にあるようだ。どれだけ長時間肉体から離れていても、どれだけ思念体が肉体から離れた場所にいても、ありがたいことに肉体に負担がかからない。それでも自分の体に戻ると何ともいえない安心感に包まれた。
しばらく思念体を体に慣らし、落ち着いたところで額に装着された主核の思念石に意識を集中する。思念体になっている間は思念石の中にある受容体のみが思念体に連動して付帯し、その受容体が思念波を吸収し、放出もする。思念体が肉体に戻ると同時に、受容体も思念石の中に戻る。
通常は主核が思念波を吸収し、主核が満ちると補助核に自動的に保管出来るようになっている。だが、思念体で複数の受容体を伴っている場合、各々(おのおの)の受容体に個別に吸収させることが出来るのだ。
私の場合は常に三つの受容体に吸収させることが出来る。今回はたっぷりと吸収させてから帰還してきた。大気圏を離脱してくる際にも思念体は消耗する。帰還の際はあらかじめ思念体の大きさを意識を保てるぎりぎりの大きさにまで縮小して帰還することにした。移動で消耗するエネルギーは、常に受容体から引き出しながら飛行してきた。そうすることで思惑通り消耗するエネルギーは少なくて済んだ。鑑に戻る直前に元の大きさに戻し、今に至る。
思念波を放出する前に、元の思念石の状態を確認する。やはり、補助核にかなりの空間が出来ている。思いの外消費していたようだ。おそらくシュリーアのサークレットも同じ状態か、それ以上に空白が出来ているだろうな……。
受容体の周囲には異世界の母星で吸収してきた思念波がしっかりとまとわりついている。その思念波を次々に思念石の中へと放出しながら考える。雑多な思念波を集めるのは難しくない。しかし、普段使いなれている思念波に較べるとエネルギーとしての変換効率が悪い。流れ込む思念波に統一性がないのだ。エミューリアで得られる思念波ならばエネルギーに変換しても波に変動はなかった。だが今回収集した思念波は思念石に流れ込ませる時点ですでに揺らぎがある。これは少なくとも一度は別の受容体を経由させ、より濃縮した思念波を集めなければ本来の力を発揮させるのは難しいだろう。
次からは常に複数の受容体を携帯していき、個々の受容体に吸収した思念波を、更に別の受容体を経由させて主核に集め直す必要があるな。
── 面倒な。
思わず大きなため息を吐いた。
しかし、この空間と並行世界から脱却するためには妥協出来ない大きなプロセスだ。質のいい思念波の取り込みは急務であり、しかも必要な量は膨大だ。
『やはり、イルラが必要か……。』
協力者を得るには、その数だけ受容体も必要になる。新しい受容体を生成するには、飽和状態にした思念核が必要なのだが。
さて、どうするか……。
結論は出ていた。気は進まないが、他に方法が思いつかない。
背に腹は変えられぬ、か。
決断するとすぐさま行動に移った。思念波の放出を停止し、放出し始めていた思念波を受容体に全て戻すと、再び思念体になり艦内へと向かった。
やがて新たな受容体をいくつか生成した私はコントロールルームへと戻ってきた。残った思念波を補助核に移すと、脳を休ませるために休眠を取った。
起床すると無意識に体を起こそうとしてしまい、動かぬ重い体に思わず悪態をつきそうになった。
らしくない。常に冷静であらねばならぬというのに。ゆっくりと数度深呼吸して気持ちを落ち着ける。それから時間をかけて、体を動かす訓練を始めた。
訓練を終えると一息つき、シュリーアに目を向けた。シュリーアの四肢は座席に固定され、頭はうつ向いている。目を閉じたまま動かないシュリーアに向けて、強い思念波をぶつけた。
『シュリーア!』
身体が微かに震える。だが、それだけだ。
再度思念波を叩きつけるように流す。
『目覚めよ、シュリーア!』
「………っ」
小さなうめき声が聞こえた。
シュリーアの身体を揺さぶりたい衝動に駆られる。だが、まだ身体を起こすことしか出来ない今の状態では何も出来ない。歯痒く思いながらも繰り返し呼び掛け続けた。
しばらくの後、シュリーアの瞼が震え、ゆっくりと目を開けた。唇が微かに動くが、声を出すことが出来ないでいる。
心の中で舌打ちをしながら、思念体になり近づくと、おもむろにシュリーアの思念体を力づくで引っ張り出した。
ふわりとシュリーアの思念体が船内に浮かぶ。
『ここ……は? ………わたくし、………!』
意識を取り戻したシュリーアは口元を両手で覆うと、眉をひそめた。そしてゆっくりと辺りを見回し、目を見開く。
『これは……一体……?』
『ここは異空間だ。我らは空間と空間の狭間に閉じ込められている。衝撃で艦ごと飛ばされたのだ』
『衝撃?……っ!』
シュリーアが次の瞬間、泣き叫んだ。
『わたくし、わたくしのせいです!!』
顔を覆い、強い思念波を放出させる。すかさず思念波で盾を形成すると直撃を防いだ。シュリーアの慟哭が続く。
『わたくしのせいです! これはわたくしが起こしたことです! わたくしのせいでみなが犠牲になってしまった!』
『落ち着けシュリーア。思念体のままで感情を暴走させるな。そなたの存在そのものが霧散するかもしれぬ』
シュリーアがぴくりと身体を振るわせる。
『感情をコントロールするのだ。無駄な思念波を使えばそなたの命に関わる』
シュリーアは身体を震わせながらも少しずつ感情の波を押さえ込んでいった。思念波が落ち着くのを待って声をかける。
『全てがそなたのせいというわけではない。いずれにせよこの空間から脱却することが最優先だ。ここから出て、元の我らの世界に戻らなければ何も出来ぬ』
シュリーアが震える声で聞く。
『皆は大丈夫なのですか? わたくし達以外の者達は?』
不安そうに聞くシュリーアに努めて冷静な声を出す。
『案ずるな。この空間は閉じられており、この空間にいる限り時間が止まっている。思念体で意識を保てる能力のない者はこの空間にいる限り生命活動を停止したままだ。だが』
シュリーアを見つめながら淡々と言う。
『この空間に入る前に命を失った者はどうにもならぬ』
そう言って視線を向けた先には、シュリーアが暴走する要因となった、幼い頃から共に過ごしてきた、おそらくは家族にも近い存在であったであろう側近の遺体が浮かんでいる。
シュリーアの喉がひくりと動いた。しかし今度は強く目を閉じることで意識を無理に切り替えたようだ。先程までとは違う強い光を宿した目で見返してきた。
ふむ。いい心構えだ。
シュリーアが口を開いた。
『御姉様。わたくしは何をすればよろしいのですか?』
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それではまたお会いしましょう。
皆様に、風の恵みが共にあらんことをお祈りいたします。




