200 撤退
「そうだ、れーちゃん。思念波を集められないか試してみてよ」
「え?」
しーちゃんがニヤリとしながら言った。
「バレバレだよ。自分だけやることがないって思ってたでしょ」
「……また、漏れてた?」
「れーちゃんの思念波は強いからね。でも、顔見ててもわかるって。またしょーもないこと考えてるんだろうなって」
「ごめん」
「こっからいーっぱい思念波いるからさ、またガバッて集めといてよ」
「わかった。やってみるよ」
しーちゃんが爆散に集中し始める横で、私は思念波の網を広げてみた。
── やっぱり、海上には少ない。近くの海水浴場から人が少なくなったせいもあるかも。もっと遠くに広げなくちゃ。
『レナ、遠くにじゃなくて高くはできるかな。前にレイアーナ姫が言っていたことがあるんだ。強い思念波は高所に集まるって』
── それって、思念波網のことかな? 強い思念波は上に、か。
「ミシェルさん、やってみます」
「いっけーー! 爆っ散!」
しーちゃんが叫んでいるのを聞きながら、網を細長く縦に伸ばすイメージをしてみる。
── どれくらい上に伸ばしたらいいのかな。あの時は、かなり高いところだった気がする……。
どんどん伸ばしていくと、
「うわっ」
突然ひどい頭痛に襲われた。慌てて思念石に、伸ばした網の根元を繋ぐ。
「しーちゃん、使った思念石貸して」
「え? あ、うん」
渡された思念石にも流し込みながら、急いで網を回収する。流し終わるとほっとして、そのまま椅子にもたれかかると大きく息を吐いた。
「大丈夫? れーちゃん」
心配そうにしーちゃんが駆け寄ってきた。
「うん、大丈夫。思念波酔い、だと思う」
「そんなに強かったの?」
『レナ、大丈夫?』
「はい、もう大丈夫です。すぐに引っ込めたので」
『何があったの?』
思念波を集めている間に少し雨が小降りになり、船の揺れが治まった。ミシェルさんがほっとした様子で、それでも心配そうに聞く。
「高いところにある強い思念波はすぐに見つかったんですけど、思いがすごくて。『殺してやる!』とか『死ね』とか『馬鹿にして!』みたいなのが一気に押し寄せてきたんです。それでびっくりしてしまって」
「えー、なにそれ! なんでそんな言葉ばっかりなんだろ」
『なるほどね。ごめん、嫌な思いさせちゃったね。少し考えればわかることだったのに』
「ミシェルさん、どういうこと?」
『人の強い感情って、喜びの時よりも怒りや憎しみの時の方が多いってことだよ』
「え? そうなの?」
『もちろん嬉しくて叫んだり、飛び跳ねたりすることだってあるけど、怒りや悲しみ、憎しみの方が強くて長く続くからね。よし、次は僕がやってみるよ。レナは『護り』の方を担当してくれる?』
「わかりました」
その時、突然サラの声が届いた。
『マスター、あふれてくる量が増えています。わたしの力では持ちこたえられません。いったん戻ります』
「どうしたの、れーちゃん?」
「サラがもうもたないから、戻るって。地の力のあふれる量が多すぎるって」
「もたないって、それじゃあ……!」
『ここを離れよう』
「え?」
私が戸惑っている間にミシェルさんは続ける。
『出来ることはやったよ。地震は防げないけれど規模は小さくなった。きっと、もう大地震にはならない。レナの護りがあるから、他の場所への影響も少ないだろう』
「だけど、まだあんなに高いところにまで地の力が積もってるんだよ?」
しーちゃんが緑色に光る地の力の柱を指さしながら叫ぶ。柱の高さはそんなに変わっているようには見えない。
「この前、こんなちっさいかたまりでも大っきな穴が空いたよ。あれが爆発したら、もっとすごいよ!?」
ソルが持ち帰った地の力を爆散した時、地面に大きな穴があいた。あの小さなかけらでその威力だから、あの柱が全て爆散したら……!
『だとしても! 君たちの命を守る方が優先だ。ここにいる方が危ない。戻るよ』
きっぱりとした声でミシェルはそう言うと、船を港の方へ向けた。
── もう、どうしょうもないのかな。あれが全部爆散したら、どうなっちゃうの?
港の方へ船が向かい始めた時、不意に船が下がったような気がした。
「わっ、」
「えっ」
『二人とも、しっかり捕まって!』
まるでジェットコースターで下る時のようにお腹が冷えたような感覚がして、次の瞬間、ザバーっと波が被さってきた。船室内にも水が入ってくる。
船がスピードを上げた。
「何? どうなってるの!」
「……地の力が!」
緑色の柱が、ゆっくりと下に下がってきているのが見えた……。
大地震は起こるのでしょうか?
怜奈たちは逃げ切れるのでしょうか?
続きは2週間後に。
皆様に、風の守りが共にあらんことをお祈りいたします。




