174 ソル、微精霊に話しかける
最終章に入りました
怜奈たちは、無事に地の力を爆散できるのでしょうか?
キャンピングカーは明石海峡大橋を渡り、淡路島に入った。
「れーちゃんは淡路島には来たことある?」
「何度かあるよ。温泉もあるし、遊ぶところもいろいろあるもの」
「あたしは二回目かなー? ねーねーミシェルさん、温泉入れる?」
『君たち何をしにきたかわかってる? でも、さすがにこの車にシャワールームまではないからね、予約したキャンプ場の近くに温泉があるよ』
「やったー! 今晩は温泉だね!」
ワイワイ言っているうちにミシェルさんはハイウェイオアシスに停車すると、
『ここでお昼を食べてそのまま漁港に直行するよ。午後から釣船を予約しているからね』
「釣船、ですか?」
『うん、チャーターできる船がそれしかなかったんだ。とりあえず今日の午後と、明日は一日借りているから。天候次第だけれどね』
「今日は晴れてるから大丈夫だよね?」
『風の強い日には出港できないんだよ。でも、大丈夫そうだ。君たち、船に乗ったことはある?』
私もしーちゃんも首を振った。
『念のために昼食を食べたら酔い止めを飲んでおいた方がいいね。結構揺れるからね』
私は朝心配性の母さんに飲んでおくように言われて薬を飲んできていることを伝えた。しーちゃんは「大丈夫」と言っていたけれど、私の持ってきていた薬を渡した。
漁港に着くと、ミシェルさんは一隻の真っ白な船に近付いて行き、英語で話しかけた。
『すみません、予約したミシェル=クレールです』
「welcome,……」
ミシェルさんは私たちのシッターだと船長の尾田さんに説明していた。忙しい両親の代わりにキャンプに連れて来ている、と。最初は不審そうに私たちのことを見ていたけれど、ミシェルさんが握手している間に笑顔になっていた。
船に乗り、救命胴衣を着けると出港した。思っていたよりも大きな音にビックリしているうちに、明石海峡大橋が大きく見える場所まで来た。そこからゆっくり進みながら光の塊が広がる場所まで進む。
そこには不思議な光景があった。波の下にキラキラ輝く光の渦が見えている。直径はこの船の五倍くらいで、中心に行くほど光が強い。
『止めてください』
光の直前で船が止まる。向きを変え、光が左側に見えるように停めると、尾田さんは釣り道具の用意を始めた。ミシェルさんが体に触れながら何かしているみたいだけれど、何も聞こえてこない。
── 尾田さんには光が見えていないみたい。
尾田さんはそのまま釣り竿を操って、私たちとは反対の側に向けて釣りを始めてしまった。
「あれ、ミシェルさんが思念波使ったのかな」
「たぶん……船長さんにはあの光も見えてないみたいだったよね」
『僕たちがすることは彼には理解できないからね、少し暗示をかけてあるよ。それに、釣舟に乗ってるのに釣果がないと後で怪しまれちゃうからね。船長には僕たちの代わりに釣ってもらうことにしたんだ』
ミシェルさんが戻ってきて、三人で光の渦を眺める。
『大きいね』
「はい、それにどこまで続いているのか……」
「それって深さのこと?」
「うん」
光の渦は波が来ても動かない。
「ソルに聞いてみたら?」
「そうだね。ソル、いる?」
『もっちろん、いるよー』
目の前に小さな光の玉が現れると、パッと人の形に変わった。
「ソル、この光がどのくらいの深さまであるかわかる?」
『待ってて。聞いてみるから』
ソルが光の塊の上に飛んでいき、かん高い音を立てた。
『ルルルル、ルル……』
ソルの羽が細かく震えているのが見える。
── あれ、羽の音だったんだ。
すると、海から紫色の小さな光がいくつも浮き上がってきた。その光がソルの羽に吸い込まれるように消えていく。
『……ふうん、なるほどね』
ソルの羽の音が止まり、戻ってくる。
『わかったよ。あの橋の一番高い柱の三分の一くらいだって』
ミシェルさんがスマホで調べてくれたところによると、だいたい六十メートルくらいだということがわかった。ソルの話によると、渦はそこまで深くなっているわけではなく、外側に行くほど浅い場所にあるらしい。
『地の力はどんどん出てきてるって。外側から塊になっていってるみたいだね。真ん中はまだ固まっていないみたいだよ』
「ソル、この塊が爆散するのっていつ頃かわかる?」
『んー、どうかなぁ。全部固まっちゃうと逃げ場がなくなるから勝手に爆散? しちゃうだろうね。どこまで固まってるかは海の中を調べないと分かんないや』
「ソル、調べてこられる?」
『それは嫌だな。羽が濡れると飛べなくなっちゃう』
「じゃあ、さっきの紫色の光は何?」
『……ふうん、レナには紫色に見えたんだね。あれは水のチカラだよ。海の中のことは海に聞くのが一番でしょ』
その時、しーちゃんが言った。
「ねえ、ソル。水のチカラに聞けるなら地のチカラとも話せないの?」
『えー、あいつら今話せる状態じゃないんだよね』
『ソル、どういうことか教えてくれないかな? 君は他の精霊と話ができるんだよね?』
『俺みたいな精霊がいればできるよ。だけど、あいつらは精霊じゃない。だから簡単な言葉しか使えないし、それに今は話せねえよ』
── そういえば、ソルも最初は話すだけで疲れるって言ってたものね。微精霊と精霊の違いなのかな?
『あいつらが今言ってるのは、『コワイ』とか『ニゲロ』ってことだけだよ』
── それって、どういうこと?
地の力を目の前にした怜奈たち。これから爆散に向けて動き出します。
二週間後をお楽しみに!
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それでは、またお会いしましょう。
皆様に、風の守りが共にあらんことをお祈りいたします。
それでは、またお会いしましょう。