172 地の力、爆散!
連載開始5周年目となりました。
ご愛読ありがとうございます!
「ミシェルさん、それはどういう意味ですか?」
ニヤリとしているミシェルさんにそう聞くと、
『言葉通りだけど? 全部消しちゃう必要はないんじゃない? 規模が小さくなればそこまで被害は出なくなるよ』
「つまり、あの光が小さくなれば地震の規模も小さくなるかも知れない?」
「なるほどー。それなら少しずつでも爆散すればいいってことか! ミシェルさん、頭いいっ!」
『どちらにしてもここからじゃ無理なんでしょ? どうするレナ、シイナ?』
その時、ソルがこちらに向かって飛んできた。
── あれ? なんか光ってる?
『ただいま、レナ! 見てきたよー。はいこれお土産』
そう言ってソルが両手を差し出した。そこにはうっすらと黄緑色に光る光の塊があった。
「ソル、ありがとう。それは?」
『あそこにあるヤツを少し取ってきたんだよ。俺が持つと色が変わっちゃったけど同じものだよ。重いからたくさんは持ってこれなかったけど』
「重いってどういうこと?」
しーちゃんが首をかしげながら言うと、
『こういうことだよ』
そう言ってソルはその光の塊から手を離した。するとそれはそのままストンと地面に落ちる。
『これは地の力だからね、重いんだ。それにもう固まってるからそのままで散らせるよ』
「れーちゃん、やってみる?」
『ちょっと待って。さすがにここだと人の目があるからね。ソル、これ僕たちでも持てるかな』
『んー、できるとは思うけど、変に力がかかっちゃうと途中で散っちゃうかも。俺が運ぶよ』
私たちは人気のないところまで歩くと、ソルに塊を置いてもらって爆散の準備をした。今回ミシェルさんには見張り役をしてもらうことになった。
受容体を作り、それを核として光の塊の周囲に『風の護り』を発動させる。今回しーちゃんは受容体を二個作り、そのうちの一個は、風の護りの中に入れた。
「それじゃあ、やるよ。爆っ散! いっけーー!」
しーちゃんが受容体を投げると、ゆっくりと風の護りに近付いてくる。穴を作って受容体を通し、穴を閉じる。しーちゃんの受容体が光の塊にぶつかった瞬間。
どんっ。
地響きがして、風の護りの中が土煙でいっぱいになった。
「わっ」
『おっと、』
「……!」
しばらく土煙が収まるのを待って、風の護りを解除すると急いで見に行った。塊は跡形もなくなっていて、置いたところの地面が大きく凹んでいる。
「うわ、すごいね」
『あの量でこれだけ威力があるのか。これは厄介だね……』
── すごい。これが地の力……。え? 待って。さっきのでこれだけ大きな凹みができるんでしょう? じゃあ、アレが全部爆散したら……。
思わず身体が震え出し、腕で押さえた。
「ちょっとれーちゃん、大丈夫?」
「大丈夫……じゃないかも」
「座ろうか?」
しーちゃんがそっと背中をさすってくれる。その手の温かさに少しほっとした。身体の力が抜けたので一息つくと首を振って答えた。
「ううん……怖くなっただけ」
「ああ、さっきの結構な破壊力だったもんね」
「あれを爆散なんてできるの? 小さな塊でこの威力だよ。怖いよ」
『爆散すると直接地面に影響が出るのはまずいね。それに重さがあるなら海上で爆散することもできないね……』
ミシェルさんが額に人差し指を当てているのが見えた。その時しーちゃんが言った。
「ねえ、れーちゃん。『風の護り』でさ、底作ればいいんじゃない?」
「え?」
── どういう意味だろう?
「ほら、ここに来る前に箱を作ったでしょ? 箱ができるんだから蓋のない箱にしたらどうかなって思ったんだけど?」
『シイナ、それは良いアイデアだね! その手があったか。うーん、もう一度検証したいけどそろそろ移動した方がいいんだよね。コレ見つかったら怒られるかも知れないし。とりあえずできるだけならして戻ろうか』
私たちは駐車場に戻り、車に乗ると近くのコンビニへ移動して休憩することにした。ミシェルさんが買ってくれたアイスを持って車に戻る。ミシェルさんはアイスコーヒーを車のホルダーに置くと言った。
『さて、と。今日はこの後博物館に戻らないといけないからそんなに時間がないんだけれど、とりあえず少しずつあの『地の力』を削ることから始めた方がいいよね。そのためには淡路島に移動して向こうで船を借りることになる。あ、安心して。僕、船の操縦はできるから。宿泊や船の手配は僕ニ任セナサイ!』
「分かりました。よろしくお願いします」
「れーちゃん、いいの?」
しーちゃんが目を丸くしている。
「うん。私も覚悟を決めたよ。あんなに大きな力をどれだけ減らせるかは分からないけど、あのままにしておいたら絶対駄目なのはよく分かったもの。勝手に爆散したらどれだけの被害になるか。考えただけでも怖いよ」
「れーちゃん、よく言った! あたしは最初からヤル気だったからね。後は父さんたちの説得だね!」
『それは大丈夫でしょ? 僕からもお願いはするけど、君たちが力を使えば簡単だよね?』
「ミシェルさん、あたしたちあんまりあの力は使わないようにしてるんだよ。……ま、いざとなったら仕方ないけどね。れーちゃん、今回はいいよね?」
『そこで聞くんだ?』
面白そうに言ったミシェルさんに、しーちゃんが真面目な顔で答える。
「だって、あたしはれーちゃんの許可がなかったら思念波使えないもん」
今度はミシェルさんがポカーンと口を開ける番だった。
想像以上に強大だった地の力。
一度に消し去るのではなく、少しずつ爆散してみようということになりました。
それでは続きはまた2週間後に。
皆様に風の守りが共にあらんことを祈りいたします。




