171 強大な現実の壁
「ねーねー、ミシェルさん。ミシェルさんはどうして協力者になったの?」
『よくぞ聞いてくれました! 忘れもしないよ、あれは……』
そこからミシェルさんは海に着くまで延々とレイアーナさんに出会ってからのことを語り続けた。レイアーナさんがオフィスに初めて現れた時どれだけ美しかったか、イルラになれと言い放つ姿がどんなに神々しかったか、初めて目が合った時の衝撃……。
── どれだけレイアーナさんのファンなのかよーくわかったよ!
海が見える公園の駐車場に車が止まる頃には、私もしーちゃんもぐったりしていた。
「……しーちゃん。恨むよ」
「あたしもここまでとは予想してなかったよ……」
ミシェルさんだけが生き生きした顔で言った。
「この公園からなら海が近くに見えるらしいよ」
「知ってる。来たことあるよ」
しーちゃんがため息を吐きながら言うとゆっくりと車から降りていく。私もシートベルトを外すと蒸し暑い外へと踏み出した。
午後の日射しが降り注ぐ中、海の見える方に向かって歩く。
「しーちゃんは来たことがあるの?」
「うん。ゴールデンウィークにネモフィラを見に来たんだ。あんときはすっごい人でゆっくり海を見てる暇なんかなかったけどねー」
くねくねとカーブする遊歩道を抜けて、海が見渡せる広場まで来た。
『場所的には、あの辺りだよね?』
ミシェルさんが指差す先には明石海峡大橋が小さく見えている。そして……。
「……しーちゃん、見える?」
「うん、見えてる。ミシェルさんは?」
『これは……ファンタスティック!』
海の上にキラキラ光る光の塊が見えた。海水にくっつくようにして大きな光が張り付いているように見える。
「緑色はしてないね」
『あそこに何かあるってわけじゃないんだよね? 僕らにしか見えてないみたいだ!』
「水色じゃないけど、あれも微精霊の集まりなのかな。ソル、わかる?」
私の右肩に水色の光の球が現れると、スイと海の方に行き、大きく膨らんだ。そのまま高く上がって、
『ルルルル、ルル……』
と透き通るような高い音を出した。すると、以前のように海からぷくぷくと小さな水色の光が浮き上がるように現れて、引き寄せられるようにソルのところに集まっていく。その光をまたパクリパクリと食べ終わると、一度小さくなってパッとソルが姿を現した。
『レナ、ちょっと見てくるよ!』
そう言うとものすごい速さで光の塊に向かって飛んでいった。
「れーちゃん、今ソル何かしたの? 急に光が大きくなって、小さくなったらソルが見えたけど」
── そうか。しーちゃんとミシェルさんは微精霊は見えないんだった。
私はさっきソルがしていたことを説明した。
『なるほどね。ソルは微精霊を取り込むことで力を蓄えることができるんだね』
「ねえ、れーちゃん。あの光、集められそう?」
「わかんない。ここからだと遠くて……」
『あれがシイナの見せてくれた映像と同じものかどうかもわからないよね。緑色じゃないし、それにソルの光とも違う。たしかに場所的には一致してそうだけど……』
「んー、ただ光ってるだけだよね」
『でも、普通の人には見えてないみたいだ。誰もあの光の場所を見ていないからね』
そう言うとミシェルさんはスマホを取り出して写真を撮った。
『やっぱりカメラにも映らないか……』
ミシェルさんの撮った画像には海と明石海峡大橋が綺麗に写っていた。でも、光は写っていない。
「あの光、微精霊とは少し違う気がします」
『どう違うの?』
私は光が集まっているところに目を凝らしながら答えた。
「微精霊は空気中にふわふわ浮いているみたいに見えるんですけど、あの光は海とくっついているみたいに見えませんか?」
『確かにそうだね。海が光っているようにも見える』
「ねえ、れーちゃん。あの光から何か感じる?」
「ううん。ここからだと遠くてよくわからないよ」
「だよねー。やっぱり近くに行かないと無理かー。あの光を散らさないといけないんだよね? きっと」
しーちゃんが光を睨むように見ながら言う。ミシェルさんがスマホの画面を操作して地図アプリを開くと、私達に見せる。
『今いるのが、ここ。あの光に一番近い陸地はここになる。だからこの辺りに宿泊して現地調査をするしかないんじゃない?』
── あの光……。海の上にあるんじゃなくて……。
「あれ、海の中から出てるんじゃない?」
「そりゃそうでしょう。地震って地面が揺れて起きるんだよ?」
「そうなんだけど……。つまり、あの光って海の底からあそこまで溢れてきてるってことだよね?」
「? れーちゃん、何が言いたいのかわかんないよ」
「あの光を散らそうと思ったら、海の底から出ているもの全部散らさないといけないってことだよね?」
「そうなるね?」
「あんな大きなもの、私たちだけでできるの?」
「やるしかないじゃん! だって、あんなのが爆発したらそれこそ大災害になるよ! やるしかないよ!」
『それはさすがに難しいんじゃないかな。シイナ、君たちが今までやってきた実験とは規模が違い過ぎる。どこまでできるか考えたほうがいい』
「そんなのわかんない! だけど、あのままじゃダメだってことは見たらわかるじゃん! あんなのがそのまま爆発したら!」
『あのままじゃなければいいんじゃない?』
「え?」
ミシェルさんの答えの意味は?
続きをお楽しみに(笑)
それではまた2週間後にお会いしましょう!
皆様に風の守りが共にあらんことをお祈りいたします。




