170 地震対策を考えよう
ミシェルさんの運転で、私たちは近くのショッピングモールのフードコートに来ていた。私としーちゃんはお弁当があるため、ミシェルさんがジュースを買ってくれた。
ソルは光を消して、私の右肩辺りにいる。
ミシェルさんの頼んだラーメンと餃子のセットが来て、私たちはジュースで乾杯をした。
『爆散成功、』
「「おめでとー!」」
「ところでミシェルさんもしーちゃんも、いつソルの声が聞こえるようになったんですか?」
お弁当を食べながら聞いてみた。公園を出る頃には、すっかり四人で普通に会話ができるようになっていたからだ。
「爆散が終わったら、急に聞こえるようになったよ」
『僕も同じだね』
けれどもソルが姿を消してしまうと聞こえなくなったらしい。ここでは大勢の人がいるから、モールに入る前にソルには光を消してもらった。私とは思念通話で話せるので、私がソルの言葉を二人に伝えることになっている。
「ソルが言ってる。あの爆散の時に力を貯められたからだって」
『ソルは微精霊を取り込んで力を蓄えることができるということなのかな?』
「うん、そうみたい」
「ねーねー、あたしも精霊欲しい!」
『あ、僕も!』
「それは自分で見つけてね、だって」
目に見えて二人がガッカリした。
── もしも、二人の近くに興味を持った精霊さんがいたら、教えてあげようかな。
そんなことを考えているとミシェルさんが言った。
『ソルは地震がいつ起きるかはわかるのかな?』
「えっと、実際に見てみないとわからないって言ってます」
「それって海を見に行ったら分かるってこと?」
『まずは具体的な大きさと場所が分からないとね』
「しーちゃん、渦の記憶、ミシェルさんにも渡してよ」
「わかった」
しーちゃんはテーブル越しに手を伸ばしてミシェルさんの受容体に触れた。ミシェルさんが目を閉じて確認している。
『なるほど。かなり大きいね』
そう言うとミシェルさんは持っていた大きなリュックからタブレットを取り出して何か操作を始めた。タブレットを私としーちゃんの間に置くと、そこには地図が表示されていて渦の辺りに印が付けられている。
『さっきの渦はこの辺りだったよね?』
私たちが頷くとミシェルさんが印の部分をズームアップしていく。
『渦の大きさはこのくらいかな』
印の部分に赤く円を描いて見せてくれた。
『そして、今僕たちがいるのがこの辺り』
ミシェルさんがショッピングモールの位置を指差す。
『渦に近付くなら船に乗るしかないのはわかるよね? 今日は夕方には戻らないといけないから行くのは明日以降だね。君たち家は近いの?』
しーちゃんが首を振って答えた。
「ううん。れーちゃん引っ越しちゃったから結構離れてるんだ。あたしんちは博物館から車で10分くらいだけど……」
『そうすると、二人同時にピックアップしようと思うと今日みたいにあの公園で待ち合わせすることになるのか……うーん、あそこから午前中に出発して渦の場所へ行くとなると夕方に戻るのは厳しいね』
「れーちゃんがあたしんちにお泊りすることはできるよ」
『シイナの家があの公園辺りだとしても、毎日渦の場所へ行くには遠いかな』
「毎日行かなくちゃいけませんか? 爆散する日だけ行くのではだめですか?」
『今日の様子だとあの公園で練習するのはもう限界でしょ? 一回で渦が散ればいいけど、そんな簡単じゃないよね。まずは少しずつ試してみる必要があるんじゃない?』
私が不安に思っていたところを的確にミシェルさんが指摘する。
「でも、どうしたら……」
『そうだね。今日はとりあえず海の近くまでは行ってみよう。本当にこの渦があるのか確かめるためにもね。それから明日以降だけど、レナもシイナもとりあえず三日間くらい宿泊できるように用意してくれる? 君たちのお父さんに頼んで僕と旅行に行く許可をもらおう。あ、費用は心配しなくていいからね』
「ボクに、マッカセナサーイ!」
そう言って胸をたたくミシェルさん。
「え? お泊まり? ミシェルさんと?」
途端に疑惑の視線を向けるしーちゃんに、ミシェルさんは、
『僕のこと信用してほしいな。同じイルラとして、ね。受容体を持つ仲間なんだからさ!』
と笑顔で言った。
けれども私もしーちゃんも即答はできなくて、とりあえず海へ向かうことにした。
移動中の車の中で、しーちゃんと思念通話をした。
『しーちゃんはどう思う? ミシェルさんのこと』
『言い方がチャラくて信用できない! って思うんだけど、でも噓は吐いてないと思う』
『私もそう思うよ。でも、明日から泊まりでって言うのはいきなりすぎるよ』
『だけど時間がないのも確かだよ。二学期が始まっちゃったらこんなふうに出られないし』
『それはそうだけど……』
車内には某アニメのオープニングが何曲もかけられている。時々ミシェルさんの鼻歌も聞こえてくる。
『それに、ミシェルさんが手伝ってくれなかったら、あたしたち渦に近づけないよ。あたしの力だとあんまり遠くに受容体飛ばせないと思う』
『私もどれくらい離れたところから『護り』を発動させられるかは、わからないよ』
『それに、今度は地の力を集めるんでしょ? そんなことが本当に出来るのかも検証が必要だと思うんだよね。って、考えたら時間はいくらあってもいいと思う』
『そっか……そう考えると、私たちが宿泊できるのは大きいね』
『それにさ、夏休み最後にまたれーちゃんとお泊まり会できるのは嬉しいよ! ……ねえ、れーちゃん。難しく考えても仕方ないよ。出来る手は全て打ってやる! くらいの気持ちでないと本当に間に合わなかったらシャレになんないんだよ』
『しーちゃんはミシェルさんとのお泊まり、心配じゃないの?』
『それこそれーちゃんの方がくわしいんじゃないの? おんなじレイアーナさんの協力者でしょ? あたしさ、思うんだけどあんだけレイアーナさん推しなんだから逆に信用していいんじゃないかな……そうだ、いいこと思いついたよ!』
そう言うとしーちゃんの目がキラリと輝いた。
── う、嫌な予感!