163 姿を現した精霊さん
な、何とか間に合いました!
今回少し短めです。
「地震を止めようとしてるんだから、そりゃ危険に決まってるよね?」
こてんと首をかしげながらそう言うと、しーちゃんがにやりと笑って続ける。
「失敗したら命が危険なのは当たり前でしょ。だけど、地震が起こったら結局死んじゃうんだから同じことじゃない。ふ、だから失敗しなきゃいいんだよ! そのために、今実験してるんじゃん」
── どやぁと胸を張って言ってるけど、しーちゃんはこわくないの?
「でも、一番命の危険があるのは私たちでしょう?」
「じゃ、やめる? あきらめたら結局死んじゃうんだよ?」
『地震が起きるって分かってるんだから、逃げればいいって考えかたもあると思うよ』
「だめだよ。だって、信じてもらえないもん。緑の渦は誰にも見えないんだよ? これから地震が起きるから逃げよう、なんて言っても無理だよ。だから止めるしかないんじゃん。あたしだって死にたくなんかないよ。でも、他に方法がないんだから成功させるしかないでしょう。それともミシェルさんや他の協力者の人たちが代わりにやってくれるの?」
『なるほどね……これは難しいか。レナはどうなの?』
ミシェルさんに聞かれて、私はドキッと心臓の音が聞こえた気がした。
「私は……こわいです。他に助かる方法があるならそうしたいです。でも……父さんたちに説明しても絶対信じてもらえないと思います」
『そうかな。君たちには信じてもらう方法があるんじゃない?』
そう言ってミシェルさんがじっと見つめてきた。
── 確かにそうだ。今なら、お願いすれば父さんも母さんも聞いてくれる。思念波を使えば簡単に。でも……じゃあ、他の人たちは? それに、逃げるっていつまで?
『僕はね、君たちが周りの人の命まで守ろうとしていることはすごいって思うよ。でも、君たちがヒーローになりたいだけなら止めておいたほうがいいと思うな』
「別にヒーローになろうなんて思ってないよ! だけど、あたしは自分に出来るんだったらやらなきゃいけないって思ってるの!」
『失敗したら、死んじゃうとしても?』
「だから、失敗しなきゃいいんでしょ。そのために実験してるんだし!」
その時、しーちゃんの握った拳が震えているのに気付いた。
── しーちゃんも怖くないわけじゃないんだ。
── 私は、どうしたい?
『自分たちだけ助かろうって考えるのは間違いじゃないと思うよ。君たちが背負うには重すぎる荷物でしょ?』
── 私は、どうしたいのかな。
『姫様たちは優しいから、地震が起きる前に知らせてほしいって言えば逃げることができるんじゃないかな。僕は、命を投げ出してまでやらなきゃいけないことだとは思わないよ。普通なら自然災害は避けられないものなんだし』
「でも! 今のあたしたちなら出来るかも知れないんでしょう?」
『そう、そこをよく考えてみてよ。必ず出来るとは限らないんだよ?』
── どうしよう。どうしたらいい? 死ぬかもしれないんだよね? いやだ、死にたくないよ!
ぶわっと思念波が広がる。
── 死にたくない。死にたくないよ!
『レナヲ、イジメるな!』
突然、突風が吹いた。
「つっ」
ミシェルさんが眉をしかめて腕を押さえるのが見えた。私の目の前で何かが羽ばたいている。
「え、何?」
「ミシェルさん、大丈夫?」
しーちゃんがミシェルさんに駆け寄っていく。
『うん、大丈夫……驚いた。それ、フェイクじゃないよね?』
『レナをいじめるやつは、許さないからな!』
「ちょっと待って。別にいじめられたわけじゃないから。それよりも、あなた精霊さん?」
『レナ、大丈夫? レナをいじめるやつはオレがやっつけてやる!』
「大丈夫だから。それよりもこっち向いてくれる? ミシェルさん、大丈夫ですか?」
『ああ、大丈夫。ちょっと腕を切っただけだよ。それよりも、君本物の妖精? マジで?』
ミシェルさんが駆け寄ろうとすると、
『おいお前! オレはお前を許したわけじゃないからな! レナに触るな!』
「わっ、」
また風が吹いてミシェルさんの足が止まった。
「ちょっと、ミシェルさん。ケガしてるんでしょ? 興奮するのはわかるけど、いったん落ち着いてよ」
── え? しーちゃんが冷静!?
「れーちゃん、ひどくない? あたしもめちゃくちゃ気になってるよ! だけどミシェルさんが先に暴走して目の前で攻撃されたら引くに決まってるでしょ。そのコ、どう見てもめちゃくちゃ怒ってるし」
しーちゃんが、ミシェルさんの怪我をしていない方の腕を引っ張って少し後ろに下がると、
「れーちゃん、とりあえずその精霊さんを何とかして。ミシェルさんは任せてよ」
「わ、わかった。精霊さん、なんだよね? こっち向いてくれる?」
目の前に浮かんでいた精霊さんが、くるりと振り向いた。細かく震えるように羽ばたく羽に隠れていた姿が現れる。その姿は……。
リアルが多忙過ぎて間に合わないかと焦りました。
何とかお届けすることができました。
キリがいいので、ここまで(笑)
ついに姿を現した精霊さん、どんな姿なのかお楽しみに!
それではまた二週間後にお会いしましょう。
皆様に、風の守りが共にあらんことをお祈りいたします。




