160 爆散、爆散!
二回目の爆散実験が始まりました。でも、二人だけで大丈夫なんでしょうか……?
辺りを見回したけれど、適当な窪みが見つからなかったので靴の先を使って地面に穴を掘った。それからリュックを背中から下ろして木陰に置くと、中からスマホを取り出す。スマホのストラップには青い勾玉とピンクのハート形の思念石が付いている。勾玉は既に思念波が満ちていて、ハート形の思念石には半分よりも少し少ないくらいの思念波が入っている。
レイアーナさんに複数の思念石を持ち歩くなと言われたので、形を変えたハート形の思念石を外出用にした。溜まった思念波を毎晩家に置いてある思念石に移すようにしている。帰省中は新しく作った空の思念石を持って行って、そこに移し替えるようにしていたんだけど、いろいろあって帰る時には新しい思念石はいっぱいに。ハート形の思念石も結構たっぷり溜まった状態になっていた。
「そういえばしーちゃんは、精霊に憑かれなかったの? 『風の盾』使えるようになったんだよね?」
「さっき言ったでしょう。あたし、見えないんだって。大きい精霊なら見えるけど、それってこの世界だとなかなか見つからないだろうってシュリーアさんが言ってたよ」
── そういえば最初は小さな光の粒にしか見えなかったっけ……でも、どうして私には見えるんだろう。
「シュリーアさんが言ってたけど、素質がないと、びせいれいって言うの? 小さな精霊は見ることができないんだって。……あ、れーちゃんお願い。受容体作っていい?」
「お願い? あ、そうか」
しーちゃんが暴走しないように、受容体は新しい思念石が必要になった時しか作れないようになってるんだった。
「しーちゃん、今だけは受容体作ってもいいよ」
「了解です! さあ、やるよー」
しーちゃんが準備している間に私も受容体を二個作る。手のひらの上に小さな青い光が二つ並んだところで、しーちゃんも、
「準備できたよー」
と砂粒くらいの大きさの石ともう一つの受容体を持って歩いてきた。
「ここに置くね」
砂粒を穴の中心辺りに置くとしーちゃんが
離れる。
「じゃ、いくね。『風の護り』、わっ!」
風の護りを発動すると、前回とは違い一瞬で筒状の空気の壁が窪みの周りを囲んだ。
「ふ、ふ、ふ、それでは始めるよー。いっけえー!」
しーちゃんの手から離れた受容体がふわふわと風の護りに近づく。
『お願い、通して』
と思念波を流すと壁に穴が開く。受容体が通り抜けたところで、
『閉じて』
と願うと穴がなくなる。受容体が真ん中の石に当たると、石が砕けて小さな砂埃が舞った。
『解除』
砂埃が収まるのを待って風の護りを外す。二回目の実験はびっくりするくらいに簡単に出来てしまった。
「ふ、ふ、ふ、ここまでは順調だね。次はもう少し大きなもので実験してみようよ」
「私は大丈夫だけど、しーちゃんは大丈夫なの?」
「これくらいなら余裕、余裕」
しーちゃんは今度は少し大きめの小石を持ってきて、受容体を入れる。思念波を満たしたら、窪みに置き、私が『風の護り』を発動。爆散。
「解除」
ふと気付くと、あの水色の光がいくつも私たちの周りに飛んで来ていた。その間をゆっくりと動きながら小さな光を食べているあの精霊さんがいた。光を取り込むと少し元気になるのか、動きが早くなっている。
しーちゃんの周りにもいくつか飛んでいるのが見える。思念波を集めているのが面白いみたいだ。
「次はもう少し大きく……」
ぶつぶつ言いながらしーちゃんが石を探している。私は手のひらの上に二つの受容体を浮かべたまま、なんとなく周りを見渡していた。
しーちゃんは石を選び終わり、思念波を集めている。今度は少し大きいぶん、満たすのに時間がかかっているみたいだ。
「ねえ、しーちゃん。本当の爆散ってもっともっと大きくしないといけないんだよね?」
「そりゃそうでしょう。だからどんどん実験の規模を大きくして試してるんじゃない」
「でもさ、そんな大きな思念波集めるのって大変じゃない? それにどれくらいの思念石がいるのかな」
「知らない。とりあえず出来るところからやるしかないじゃない」
「それはそうだけど……それに、海の中に沈めないといけないんだよね? そこまでどうやって行くの?」
「そりゃあ船がないと行けないから船に乗るんでしょ?」
「どうやって?」
「知らない」
「……どうしよう、しーちゃん。どんどん不安になってきたよ」
「だからやれることからやるしかないって。とりあえず三回目、やるよ」
── だめだ、しーちゃん実験が楽しくて他に頭が回ってないよ。
しーちゃんはさっさと穴の真ん中に小石を置く。今度のは一センチメートルくらいのものだ。少しずつ大きくしてるけど、本物はもっともっと大きくないといけないはずだ。
── 本当に、この実験で間に合うの?
「ようし、いっくよー。れーちゃん、お願い」
「風の護り」
シュッと空気の壁が立ち上がる。側にはあの精霊さんが浮いている。
── 何してるんだろう?
「れーちゃん、通して」
「あ、ごめん」
精霊さんを見ている間にしーちゃんの受容体が壁の前で止まっていた。慌てて中に通す。
「よおし、それじゃあ爆散!」
「ちょっと待って、しーちゃん! まだ穴塞いで……」
バチッ!
弾けるような音がして、穴から勢いよく砂埃が吹き出してきたかと思うと、風に乗ってしーちゃんを直撃した……。
コラボも更新しています。
しーちゃん、れーちゃんが転移先で新しいお友達に出会いました。こちらの本編では35話の辺りのお話になります。転移している間の物語が本編になぜ影響がないのか? もコラボを読むとわかります。
コラボ小説はこちらから!
「アプリで転移って最強じゃない!? ─しーちゃんが行く!~絶望の箱庭~鳥籠の姫君~のワールドエンドミスティアカデミーにお邪魔しました!─」
https://ncode.syosetu.com/n0156hr/
それでは、また二週間後にお会いしましょう。
皆様に、風の護りが共にあらんことをお祈りいたします。