155 レイアーナ視点 世界の仕組み
怜奈の回収から戻ってきたレイアーナ姫。
帰還の準備に新たな動きが……?
『御姉様、お帰りなさいませ』
船内に戻るとシュリーアが上半身を起こした状態で声をかけてきた。
『今戻った。その様子では首尾は上々のようだな。後で報告を聞く』
『かしこまりました。御姉様はお疲れのご様子ですね。しばらく休息されますか?』
『取り込みが終わるまで休むだけで良い。そなたはやるべきことがあるだろう?』
『はい。しばらく席を外しますね』
シュリーアは体を元の位置に戻すと思念体になり、移動していく。それを見届け自分の身体に戻ると、レナから回収した思念波を思念石に流していく。
── やはり、強くなっているか……。
元々《もともと》強い思念波を持っていることから協力者にした少女だが、彼女の成長速度は異常だ。既にシュリーアのものを超えて私に迫る強さとなる芽を育て始めている。当初は爆散で力を使い果たせば記憶を消し元の生活に戻す計画だった。
だが、好奇心旺盛なシイナがいきなり思念体を作り出し思念波網まで到達するという暴挙に出た。たまたま調整のため上空にいたため間に合ったが肝を冷やす思いをした。あの少女たちが夢という形で思念波網を感知し、我らの記憶を共有していたと知った時は本当に驚いた。
他のイルラには見られなかった反応だ。野心家で貪欲なジョンソンですら夢など見ないと言っていた。唯一ミシェルだけが『姿を見たことはある』と言っていた。ミシェルはその後も試しているようだが、イルラと我らが話している様子は見えても会話までは聞き取れないようだ。とても残念そうにしていた。
彼女らの話を聞いてからは流す記憶を映像に切り替えたが、幼いシイナの暴走を止めるためレナの受容体をシイナに装着せねばならなくなった。あの年にしては賢いレナは今のところうまくコントロールしているようだ。
さらに想定外だったのはレナの成長だ。我らの記憶から的確に必要な情報を読み取り、災害による危険性を理解したレナはそれゆえにひたむきに思念波を集めようとした。結果があの異常な成長だ。まさか微精霊すら見えるようになるとは。精霊は興味を持った生き物に憑くことがある。あの時レナに興味を持った様子が気になり、万一の保険にとレナにも受容体を装着する事にした。
だが、額に装着した受容体は思念体に繋がり切り離すことはできない。我らが去っても残ったままになる。我らの記憶を消したとしてあの二人が思念波に気付かず過ごしていけるのだろうか? しかもとうとうレナは精霊憑きになってしまった。我らはこの世界に存在するはずのない力をレナに与えてしまったことになる。
あの世界では育つはずのなかった力。そのような芽を育て始めた彼女はこの先どう生きていくのだ? 他にはない唯一の力を発現し、他者を願わずとも従わせてしまう力など排除の対象と見なされても仕方がない。
「しかも精霊を従える可能性すらある、か」
おそらく彼女もあの精霊もこの先更に力を増すだろう。だが彼女らの爆散を支えるものとして力を持った精霊ほど心強い存在はない……ならば、レナに使役の方法を伝えるべきか?
── そのうち勝手に使役してしまいそうな予感がするぞ。レナは毎回想定外を起こすからな。
そうなればレナはあの世界で至上の存在になるやも知れぬ。『そんなめんどくさいものになんかなりたくありません』そう言って顔をしかめていたレナを思い出す。
── ふ、あれは本当に嫌そうだったな。
思わず口元が緩む。
彼女らの国は平和だ。あの世界には争いの絶えない国もあるが、小さな島国である彼女らの国では争いそのものがほとんど見当たらない。何よりものびのびと育ったであろう彼女らはいつも笑顔だ。くるくるとよく変わる表情は我ら貴族にはないものだ。新鮮な反応で微笑ましくもある。
「あやつもさぞかし驚くであろうな」
そろそろ日本に入国するはずの者がふと思い浮かんだ。自ら進んで協力を申し出たあやつがいなければ彼女らが渦に近付くのは難しいところだった。彼女らの補佐をし、爆散直前に避難させるためにもやつの協力は不可欠だ。だが、失敗すれば命を落とす危険があると説明するとなぜか嬉しそうにしていた。相変わらず何を考えているのかわからないところはあるが有能であるのも確か。ふと、嬉嬉としてレナに迫る姿が思い浮かび、
「ふ」
思わず笑いが漏れてしまった。レナには気の毒だが耐えてもらうしかない。直に見られないのが残念だ。きっと根掘り葉掘り聞かれるであろう。だが、あやつにも振り回される未来が待っているはずだからな。相殺というところだろう。
── 後は、もしもの場合の措置に関してだが……。
「全てはシュリーアの首尾による、か」
シュリーアの計画はうまく行っているのだろうか。霧散した形跡はないらしいが。
── 私は定着してほしいのだろうか? それともこのまま責を負うべきなのか?
今回の騒乱未遂は明らかに仕組まれたものだ。行動を起こした者が全て学園生だったのは、上からの圧力に耐えられない若手だからだろう。複数の者が関与しているにも関わらずその中に上位貴族が一人もいないとなれば自ずと命じた者の地位が分かるというもの。
それにおそらくこちらは陽動だ。私の目が届かぬうちに本国で何かが起こっているはず。こちらに国際的な非難を集めておきその隙に、か。だが彼らは知らぬのだ。国家転覆など起こせるはずがないということを。
── ならばやはりこちらは大きな損害がなかったように見せられた方が良い。
取り込みを終え、ゆっくりと目を開いた私は体を起こし、足を踏み出す。まだ数歩しか動かせないが、いずれはこの空間で自由に動けるようにならねばならない。
帰還への準備は少しずつ整ってきている。
次回もレイアーナ視点が続きます。
次回は重要です (力説)
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それではまた二週間後にお会いしましょう
皆様に風の守りが共にあらんことをお祈りいたします。
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