154 成長した精霊さん
精霊は怜奈と話せるようになるのでしょうか?
確かにこちらの意志を理解しているんじゃないかなと思う心当たりは、ある。
『あなた、おしゃべりできるようになるの?』
すると、水色の光の玉が急に震え出して、
『ルルルル、ルル……』
と高く透き通るような音を立てた。それから不意にぽーんと跳ね上がると、
『ルルルル、ルルルル……』
まるで歌うように音を出し始める。澄んだ音が海辺を包み込むように響いていくと、あの小さな水色の光の粒がまた浮き上がるようにいくつも現れて、誘われるように光の玉に近づいていった。その時、
『ルルルル、ルル』
突然音が止むと、ぶわっと光の玉が一際大きくなり、周りに集まった光を一気に呑み込んだ。一瞬、フラッシュのような光が生まれる。
「うわ、眩し……」
思わず腕で目を覆う。
「ねえ、何か光らなかった?」
「うわ! 何、今の?」
「誰だよ、フラッシュ出したの?」
── うわ、まずいっ。他の人にも見えたんだ!
『レナ、思念波を使え。『今のは気のせいだ』と流せ』
「わ、わかりました!」
レイアーナさんに言われて急いでリュックから携帯を取り出すと、ストラップに吊るした思念石をギュッと握り、
『今の光は気のせいです!』
と海水浴場全体に届くように思念波を流した。プールの時はしーちゃんと一緒だったし、広さもそれほど広くはなかったので、そんなに思念波を使った感じはなかった。でも、今回は広い範囲に流さなければならない。目でどのあたりまで流せばいいか確認している間にすばやくレイアーナさんは上空に避難していく。範囲を確認したら、強めに思念波を流す。思念石から出たエネルギーが行き渡ったところで言葉を乗せた。
「今のは気のせいです」
「光は気のせいでした」
「今の光は見ていません」
口々に海水浴場にいた人が無表情になって言葉に出していき、その後は何もなかったかのように次々と元の動きに戻っていく。それはあまりにも異様な光景で、ものすごく気味の悪いものだった。終わった後になっても胸の中にぞっとした気分が残った。
── 『そなた、王になるつもりか?』
以前レイアーナさんが言った言葉を不意に思い出した。あのときはそんなめんどくさいものになるつもりはないって答えたんだけど……。
『よくやった』
その時、上から声がしてレイアーナさんが降りてきた。
『レナ、気にするな。今の出来事は私が命じたことだ。そなたが気に病む必要はない』
そう言ってレイアーナさんが私の腕に手を重ねる。するとレイアーナさんの思念が伝わってきて、少しほっとした。私の責任じゃないから大丈夫……。
── え、ちょっと待って。
『レイアーナさん、今私に思念波を使いましたか?』
『……やはり、効かぬか』
レイアーナさんから少し辛そうな感情が流れてきた。どうしたのかと思っていると顔の横が不意に明るくなってびっくりした。そこにはメロンくらいの大きさに成長した精霊さんがふわふわと浮かんでいる。
「うわ、また大きくなっちゃった」
『オオキクナッタヨ』
高く澄んだ声が聞こえて、精霊さんがうれしそうに上下に動く。
「今の、あなたの声?」
『ソウ オハナシ スルノニ オオキク ナッタ ヨ』
『やはり、話せるようになったな。精霊よ、その大きさのままでいるとレナ以外の人間にも見つかるかも知れぬぞ。どうする?』
すると精霊さんが小さく震えた。
『レナ オオキイト コマル?』
と聞いてくるので、
『他の人に見られるのは困るよ』
と伝えると、
『デキル、ヨ』
そう言って精霊さんは急に空気が抜けるように小さくなっていった。蛍くらいの大きさにまで縮んで、明るさは少し前よりも明るいくらい。
『ダイジョウブ、ヒカリ カクシタ ヨ』
隠した? どういうことだろうと思っていると、風船がふくらむように大きくなってみせ、また元の光に戻ってみせた。出し入れ自由ってことみたい。
『あなた、私に憑いてるってほんと?』
『レナ オモシロイコト スル オモシロイコト スキ ツイテキタ モーット オモシロク ナッタネ オハナシ タノシーヨ』
よくわからないけど、懐かれたって感じ?
『レナ、精霊は気まぐれだ。いつもそなたの思う通りに動くとは限らぬ。力を持てば持つほど扱いにくくなる。決して精霊を信用するな』
『ダイジョウブ レナ ノ イヤナコトハ シナイヨー』
精霊さんはそう言うとその場でクルクル回ってみせる。すごくかわいい。でも……、
『わかりました、気をつけます』
後で精霊のことを調べてみよう。そう思っていると、
『セッカク オオキクナッタカラ マタネー』
と言って精霊さんはフッと見えなくなった。
『レナ、思念波を使うときは今まで以上に注意せよ。特に自然の恵みが多い場所での使用は避けるように。精霊が集まりやすくなる。あの精霊をあまり成長させぬように気をつけることだ。過ぎたる力は己を滅ぼす元となるぞ』
『どういうことですか?』
『あの精霊の力がレナの力を上回れば、そなたが使役されるかも知れぬということだ。あれ以上大きくならぬようになるべく精霊の力の及ばぬ場所で思念波を集めるようにしなさい』
『レイアーナさん、精霊について教えてもらえますか?』
『今度会った時に話そう。そろそろそなたのほうが時間切れだろう』
その時、浜から私を呼ぶ声が聞こえた。
ゆっくり更新ですが、読んでいただきありがとうございます。
コラボの方も読んでみてくださいね。最新話は26話までとリンクしています。しーちゃんから見た本編の様子がわかると思います。本当に凸凹コンビだな、と毎回思いながら書いています。最新話はこちらからどうぞ
https://ncode.syosetu.com/n0156hr/58/
それではまた二週間後にお会いしましょう。
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皆様に、風の恵みが共にあらんことをお祈りいたします。