133 楽しい時間の終わりには寂しさが付いてくる
予定通り133話投稿します。
修整しました(06.1.23)
高橋の後ろからシャワーに向かった。
「ね、しーちゃん。さっきのって……」
「うん。やっちゃったね……ま、誰もあれでポーチに触らないだろうから結果オーライってことにしよう。考えたって仕方ないよ。それよりも……」
しーちゃんが私の手を握る。
『何か……上手く言えないんだけど、今までと違ったよね?』
周りが騒がしいところで思念波で会話しようとすると伝わりにくい。こうして手を繋ぐとよく伝わるんだ。
『そうだね。ポーチは少し離れたところにあったのに、力が発動したよね』
『そう。それに力も強かったよ』
昨日の夢で見た記憶を思い出した。レイアーナさんが感じた私たちの思念波。
── あのときも……。
しーちゃんにも伝わったみたいで顎に拳を当てて考えている。
『……ああ、あの記憶か。あたしとれーちゃんが一緒に笑ったら、思念波が重なって強くなってたんだっけ』
しーちゃんの手をぎゅうっと握ると伝える。
『そう。私たちの思念波が重なると、力がとても強くなるんだと思う』
『なるほどねー。あたしはさ、触わられたらヤバいってめちゃくちゃ強く思ったんだよね』
『うん、私も同じ。触らないで! って。二人とも同じことを強く思ってたから、いつもよりも強い思念波になったんじゃないかな』
「そうだろうね」
シャワーを浴びて高橋のところへ歩いていくと、私たちが手を繋いでいるのを見て呆れた顔をした。
「お前らほんと仲いいのな。ほら、行くぞ」
そう言って流れるプールの方を顎で示すとみんながいるところへ連れて行ってくれた。
「うそ、怜奈? やだ、久しぶり!」
「怜奈だ! お帰りー」
「え、マジ守川か?」
口々に言いながら皆が出迎えてくれた。くすぐったいような気持ちで、
「みんな、久しぶり」
と声に出した。そこからは慌ててプールから出てきた元クラスメイト達に抱きつかれたりもみくちゃにされたりと思っていた以上の歓迎を受けた。懐かしい気持ちと嬉しい気持ちが溢れてきて、
── うわあ、幸せだー!
と思ったら、皆から生あたたかい視線を送られてしまった。感情が盛り上がると気持ちが駄々(だだ)もれになるんだってこと、忘れてたよ。とほほ。……ものすごく恥ずかしいしっ! 気を付けようそうしよう。硬く胸の中で誓っていると、しーちゃんと目が合った。同時に思念波が、
『無駄だと思うよ。妄想大好きれーちゃんが止まるはずないからねっ!』
にやりと笑っているしーちゃんに非常にムカッときたけど何も言い返せない。心当たりがありすぎる。ジトリとにらみ返したけど、しーちゃんはもう他の子と話すのに夢中で気付かなかった。くやしいからさらに睨みつけてやると、ちらりとこちらを見てふ、と鼻で笑い、片方の唇を上げて見せた。
── く、くやしいっ。本当に気をつけるんだからっ!!
「何に気をつけるの?」
話し掛けてくれていた彩花ちゃんが不思議そうに聞いてきたので、慌ててごまかした。
「ううん、な、何でもない。さっきシャワーのところで滑って転びかけたらしーちゃんにからかわれたのを思い出しただけ」
彩花ちゃんはくすりと笑った。
「怜奈ちゃんって時々ぼーっとしてることあるものね、気をつけなよ」
「う、うん、そうだね。あははー」
力なく笑ってごまかした。くぅーっ、しーちゃんの顔はこちらから見えないけど、絶対笑っているにちがいないよっ。かなりくやしかったけど、これ以上の駄々もれは避けたかったから必死で我慢した。今度は漏れなかったみたいだけど、精神的にはかなり疲れた。
その後は元クラスメイトのみんなと楽しい時間を過ごした。久しぶりの再会を喜んでもらえて本当に嬉しかった。けれどもその分、別れる時は少し寂しかった。次はいつ会えるかわからない。
「またね」
と言いながら帰っていくみんなが、なんだかとても遠くに見えた。
帰りの車中でしーちゃんが伸びをしながら嬉しそうに言った。
「あー、楽しかったねっ!」
「うん……」
一応返事はしたけれど、私の心は少し沈んでいた。
新しい学校のことを思い浮かべる。クラスの子の顔がほとんど思い出せない。私、一学期何やってたんだろう。友達がいないのはいつも図書室にこもっていて積極的に友達を作ろうとしなかったからだ。転校してすぐの頃は、話しかけてくれる子が何人もいた。けれど、流行りのゲームの話も人気のアイドルの話もあんまりついていけなくて。うまく答えられないでいたらそのうち誰も話しかけて来なくなった。もともと自分から話しかけるタイプでもないから、気付くと既にみんなグループが出来てしまっていた。
── 大体、新しい図書室が魅力的だったのが悪いよね。前の学校の倍は広いから読みたい本も目白押しなんだもん。そうだ、本が私を離してくれないんだから仕方ないよ、うん。
げし。
「あいたっ」
隣でしーちゃんが肘を曲げてじとっとにらんでいた。背中を冷や汗がつーと流れた。しーちゃんが珍しく冷たい声で言った。
「れーちゃん、友達が出来ないのは作る努力をしなかったれーちゃんのせいだよ。あたしが今までどれだけ苦労したと思ってるの?」
── しーちゃんが苦労? むしろ迷惑かけられた記憶なら山ほどあるんだけど?
するとしーちゃんが、はあーっと大きなため息をついた。それからジロリとにらんでくる。
「ほんとに分かってないんだね。いい? れーちゃん。本の虫って言われるくらい本ばっかり読んでたれーちゃんがどうして今まで友達に苦労しなかったと思う?」
そう聞かれて、ぱちぱちと目を瞬かせた。
── そういえばどうしてだろう? クラスも少なくて、同じ学年の子はほとんど顔見知りだったからどこでも普通に話しかけられるんだと思ってた。
「ふうん。じゃあ聞くけど。れーちゃん、あたし以外に仲のいい子っている?」
じっと見つめてくるしーちゃんの目がなぜか怖く見えた。
しーちゃんといえばやらかしイメージが定着しつつありますが、やるときはやる女だよっというアピールもしたいようですので、やる女モードのしーちゃんをお楽しみいただければと思います。
げしっ。あいたっ!
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