128 私の涙のあと
二件目のレビューをいただきました。
ありがとうございます!
加筆修整しました(05.12.28)
「うっ、うそっ……」
思わず声が出て口元を覆った。涙が止められない。ぺたんとしりもちをつくように座り込むと、急いでティッシュを目に当てた。
しばらく私たちは泣き続けた。アリーシャは息をするのも苦しそうで、またさらに痩せていた。力なく横たわり、声を出す気力もないようだった。
『アリーシャさん!』
しーちゃんは声にならない悲鳴を上げ、絶句していた。
『あたし、何も出来ないっ!』
しーちゃんが声を出さずに叫んでいた。
『こんなにはっきり見えてるのに。こんなに苦しんでるのがわかるのに! 何もしてあげられないよ! 助けたいのにっ!』
シュリーアさんは黙って思念波を少しずつ抜き取っていく。一度に抜くと負担が大きすぎるからと、少しずつ。抜いた分だけアリーシャの放出する思念波が弱まっていく。何度も繰り返しているうちに、アリーシャがうっすらと目を開けた。熱のせいか視線が定まらないようで、しばらくはぼんやりと天井を見上げている。やがてゆっくりと視線が合い、微かに唇が動く。
「シュ、リー、ア」
それを見てシュリーアさんが首を振る。
『今のあなたが声を出そうとすると、あなたの体力が更に奪われてしまうだけ。わたくしには伝わるのですから、そのままで』
するとアリーシャはうっすらと微笑む。そのほのかな笑顔がとても綺麗で、私はまた涙が出てきた。記憶の中のしーちゃんもずっと泣き続けている。アリーシャは意外にしっかりした思念波で伝えてきた。
『そう、もう三日たったのね。私、また生き延びたわね。会えて嬉しいわ』
それでも苦しそうな息づかいは変わらない。それを見たシュリーアさんは、
『なんという生命力でしょう。こんなに辛い思いをしてまで生きようとしているのね。……でも、もういいのではなくて?』
そう考えているのが伝わってくる。それからアリーシャに伝わるように思念波を流して、
『アリーシャ。あなたはもう十分頑張ったのではなくて? わたくしの提案を考えてはいただけませんか。このようなこと言いたくはありませんけれど……』
するとシュリーアさんの思念波を遮るようにアリーシャが、
『いいえ、自分の体のことは自分が一番よくわかっているわ。もう少しだけ時間をちょうだい。どうしてもという時が来たら、あなたを呼ぶわ』
そう伝えると、視線を逸らし、上を向くとゆっくりと目を閉じる。そのままアリーシャは眠ってしまったようだった。シュリーアさんはアリーシャの体に手を触れ、
『必ず呼ぶのですよ。あなたの苦しみを解きましょう』
そう言うとアリーシャからそっと離れた。しーちゃんの記憶もそこまでだった。
これがいつの記憶なのかはわからない。でも、ということは昨日の悲鳴はシュリーアさんを呼ぶためのものだったのかな。苦しみを解く。ということは……。
── たぶん、もうシュリーアさんは。
その時しーちゃんが手を握ってきた。しーちゃんの温かくて強い思念波が流れ込んでくる。
『ねえ、どうして? どうしてアリーシャは病院に行かないの? どうして誰も助けないの? あんなになるまで放っておくなんてっ! ひどいよ、ひどすぎるよ!』
ぼろぼろ涙をこぼし、顔中涙と鼻水でぐしょぐしょになっている。きっと、私もおんなじ顔をしてるだろう。
── どうしよう。私の持っている記憶、渡さないほうがいいのかな……
悩んでいたらしーちゃんがきっと睨んできた。
「れーぢゃん。じっでるごどがあるなら、がくざないでよ」
しまった、ばれちゃった。……仕方ない。
「……もっと辛くなるかもしれないよ。それでも知りたい?」
しーちゃんが強く頷く。しかたなく私は昨日の記憶をしーちゃんに渡した。しーちゃんは記憶を確認すると、ティッシュをぐしゃぐしゃとまとめて何枚も顔に当て、ごしごしこすってからぐいっと顔を上げた。
「教えてくれてありがとう。アリーシャが放っておかれてるんじゃないって分かって、ちょっとほっとしたよ」
と無理に笑顔を浮かべた顔で言った。
「ふふ、変な顔」
私も無理やり笑うと、
「れーちゃんだって変な顔してるよ」
そう言ってからしーちゃんは両手で頬をぱんっと叩いた。
「切り替えよう、れーちゃん。あたしたちどうしたって何も出来ないよ。だから、あたしたちはあたしたちにできることをしよう」
「うん、そうだね。それじゃ、まずは私たちも大丈夫ですって送った方がいいよね?」
「なら、れーちゃんもchatterに登録しないと」
そう言うとしーちゃんは、今度は本当の笑顔を見せた。
「そうだね」
私も笑顔で返せたと思う。
しーちゃんに教えてもらいながらChatterの登録をしていると、
「あなたたち、いつまで遊んでるつもり?」
下からおばさんのまじ怒りボイスが飛んできた。
「ああ! しーちゃん、私、荷物玄関に置きっぱなし!」
「やば。とりあえず降りるよ!」
慌てて下に降りた私たちは、角を生やしたおばさんにこってりと叱られることになった。とほほ。
ポスターをかきながらこっそり情報交換をし、画像を調べるついでにchatterに、
「大丈夫。元気です」
とだけ書き込んだりした。アリーシャの病気のことを伝えたかったけれど、その情報を夢で得ていることをどう伝えればいいのかわからなかったので書けなかった。それに、他の協力者の人たちが同じように感応してはいないんじゃないかという不安があったから。
ふとしーちゃんを見ると、腕を組んでむーん、とうなっている。唇と鼻の間に鉛筆をはさんで。真剣に考えてるんだろうけど、思わずぶっと吹いてしまった。すかさずおばさんに叱られる。
「詩雛! 行儀悪いことはやめなさいっ」
へいへいと言いながらしぶしぶ鉛筆を下ろすと、今度は鉛筆を上下に振って、ほーらやわらかくなったーなどと遊び出す。
あ、これは考えすぎて集中力が切れたサインだ。
「おばさん、休憩するねー」
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それではまたお会いしましょう。
皆様に、風の恵みが共にあらんことを。お祈りいたします。