127 しーちゃんの涙
今回は予告通り投稿出来ました!
叫び声の正体は?
修整しました(05.12.28)
父さんとおじさんは、出張で奈良にある考古学研究所に行くということなので、私はしーちゃんの家へ送ってもらった。また帰りに迎えに来てもらうことになっている。洗浄の終わった遺物の鑑定と調査をしてもらうのだと父さんは朝からうきうきしていた。
今日は午後から市営プールに行くことになっているので水着を持ってきている。懐かしいクラスメイトにも会えるかもしれない。ちょっと楽しみ。
午前中はしーちゃんと夏休みの宿題のポスターをかくので、絵の具セットと画用紙も持ってきた。荷物を玄関に入れていると、どたたっとしーちゃんが二階から降りてきて、そのまま私の腕を掴むと問答無用に引っ張り上げる。私が驚く間もないくらいの勢いでひきずられている間に、
「母さん! 二階にいるけど上がってこないで!」
と大声で言う。思念波も使ったみたいでググッと私の思念波も引っ張られる感じがしたので、慌てて思念石に繋ぎ止めて流されるのを防いだ。その間に階段を上らされ、気付けば二階のしーちゃんの部屋に連れ込まれていた。しーちゃんはおばさんが来ていないことを確かめるとかちゃりとドアを閉め、私のことをにらみつけるように見てくる。
── え、何? 私、何かした?
まったく思い当たることはないけれど、しーちゃんの迫力に背中につーっと冷や汗が流れる。心臓の音が大きくなる。
ドン。
しーちゃんが私のすぐ横の壁に手をつく。一瞬ヒヤリとして身をすくませて思わず、
「ごめんなさい!」
と叫ぶと、
「は? 何謝ってんの」
と不思議そうに言われた。だったらなんでそんなにすごんでるのよ! 思わずじと目を向けると、しーちゃんはさらりとスルーした。
「それより、昨日聞いたよね? 悲鳴」
その言葉にすぐ昨日の衝撃を思い出す。
『お願いっ! だれか助けて!』
悲鳴というよりは叫びに近かった。急いでこくこくと頷くと、しーちゃんが顎をくいと動かして、いつもの折り畳みテーブルを示す。
「座って」
「はい」
素直に座るとしーちゃんが続ける。
「あの時、何か見えた?」
真剣な顔で聞かれたけれど、首を振る。
「何も。ものすごく大きな声が響いてきたけど、それだけ」
するとしーちゃんは残念そうに、
「そっか」
とだけ呟いた。それからべたりとテーブルに顔をつけると、
「れーちゃんなら何か分かったかもって思ったんだけどなあ」
はぁとため息をついた。もそもそ起き上がるとスマホを取り出す。
「Chatterの設定はした?」
「ううん、まだ。インストールはしたけど」
「そっか」
しーちゃんがスマホの画面を見せてくれる。ゴーグルの自動翻訳で日本語表示になっているチャットルームが表示された。悲鳴を聞いた午前五時頃からコメントが続いている。最初のコメントがミシェルさんの、
「先程助けを求める悲鳴を聞きました。情報を求める。皆さん無事ですか」
というものだ。その続きにサイイドさんが、
「私も悲鳴を聞きました。誰か助けて、と聞こえましたが誰の声かも分からなかった。女の人ではないですか?」
それに続いてシエナさんが。
「シエナです。私ではありません。悠然、アリーシャ、シイナ、レナ。大丈夫ですか?」
ヤーン、ジョンソンからも、助けてという声を聞いたがそれ以上はわからない、という書き込みがあった。それから八時頃に悠然の書き込みがある。
「私ではありません。私も聞きました」
しーちゃんはまだ書き込んでいなかった。
「読んだ?」
「うん、読んだ」
返事をしてしーちゃんを見ると、唇を強く噛みしめている。
「しーちゃん?」
声をかけても様子は変わらない。そのときはっと気付いた。
「もしかしてしーちゃん、何か知ってるの?」
シュリーアさんの記憶を見ているしーちゃんだ。同じように病気のことを知ったのかもしれないと思ってそう聞いたんだけど、しーちゃんは何も言わずにぽろりと涙をこぼした。そっと手を握ると思念波で伝えてきた。
『悔しい。何も出来ないよ』
ぽろぽろこぼれる涙を手で拭おうとするしーちゃんにティッシュの箱を渡し、
「しーちゃん、何が見えたのか記憶をちょうだい」
と言ってしーちゃんの額に手を当てる。
ずわっと何かが入ってくる感じとともに映像が頭の中に飛び込んでくる。ベッドに横たわったアリーシャが叫びながら手を伸ばしている映像だった。縮れた黒髪を振り乱し、伸ばした手にはいくつものブレスレットが揺れている。
アリーシャのブレスレットの石の一つがキラリと光ると同時に叫んだ。
「お願いっ! だれか助けて!」
── やっぱり。
私よりもしーちゃんの方が、はっきりと彼女の思念波を受け取っていた。しーちゃんも彼女もシュリーアさんの協力者だ。同じ人の協力者同士の方が感応するんじゃないかとは思っていたけど。私がレイアーナさんの協力者だから、そこまではっきりとは伝わってこなかったんだろう。
「あの悲鳴、アリーシャだよね?」
しーちゃんに確かめると黙って頷く。しーちゃんの目にはまだ涙がにじんでいる。
「昨日の夢でアリーシャを見たの?」
「うん。その前の続きが見られないかな、と思って。……でも、あれ以上の記憶はなくて、その次の記憶はあったんだけど」
しーちゃんはそこまで言うと、また涙をこぼす。そのまま私の手を額に当てると、記憶を送ってきた。
二回目のレビューをいただきました!
とても幸せです。
でも、ブクマも評価も増えてない(泣)もう少しでブクマ100!道のり遠し。頑張ります!
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感想もらえるとまりんあくあが大喜びします。レビューいただけると、変な舞いを踊って喜びます。
それではまたお会いしましょう。
皆様に、風の恵みが共にあらんことをお祈りいたします。