114 力の使い方を探れ
意図せず思念波の力を使ってしまった怜奈。
今夜はどんな夢を見たのか。
加筆修整しました(05.10.21)
どうしても買って欲しいという強い想いが流れて行き、母さんを包み込む。
「お願い。どうしても今欲しいの。買ってください」
そう頼み込むと、母さんの顔から一瞬表情がなくなり、
「わかりました。スマホを買ってあげます」
そう言うと、思念波が母さんの中に吸い込まれるよう消えていく。母さんが軽くため息をついて言った。
「怜奈がそこまで言うなら仕方ないわね。ルールをきちんと決めるから、それを守って使うのよ。守れなかったら、次の日はスマホ禁止にします。それでいい?」
── やったー!
よし、とテーブルの下でぐっと手を握る。……でも、これは気を付けないと相当やばいことになるかもしれない、と何となく思った。急にオッケーした母さんに父さんが驚いて目を丸くした。
「由実さん、本当にいいんだね? さっきまであんなに反対していたのに」
すると母さんは目を瞬かせて、軽く首をかしげる。
「あら、そうよね。……うーん、なんだか怜奈が本当に欲しいって思ってるのが伝わったから気が変わったみたい。夏休みの間なら、お休みも取りやすいからお店の予約をしておくわ。……さあ、もう寝なさい」
「うん、母さんありがとう。おやすみなさい」
「怜奈、良かったね」
「うん、父さんもありがとう。おやすみなさい」
父さんに笑顔で返し、自分の部屋へ向かった。ベッドの中で、やったー、という思いと、一瞬表情のなくなった母さんの顔を思い出す。……あのとき、力を使おうと思ったわけではないと思う。どうしても欲しい、という思いが強かっただけだ。だけど、力に変わってしまった。強く心の中で思うだけで、思念波が力を持ってしまう。思っていたよりも簡単に力が使えてしまうから、気を付けなければどこで力を使ってしまうかがわからない。
しーちゃんなら、これもラッキーって思えるのかな。思っていたよりもやっかいだ。私は四個までなら一度に思念石に思念波を集められるんじゃないかと考えていた。早く集めて、地震を何とかしたいと思ったから。だけど、二個でこれだけパワーを持つなら、慎重にしないと周りへの影響がどれくらいあるのか想像が出来ない。
── 他の協力者の人たちはどうしているんだろう?
よし。今日の夢では、その辺りを調べてみよう。私は目を閉じると、そのまま眠りについた。
夢の中で、私は空を飛んでいた。ものすごい速さで地上が近付いてくる。
── ここはどこだろう?
辺りをきょろきょろ見回すと、右端の方に微かに見覚えのある像が少し見えた。テレビで見たことがある。あれはたぶん自由の女神だ。
── ということは、ここはアメリカ? うわあ、アメリカの空を飛んでる! すごいすごい!
見とれている間にみるみる高層ビル群が近付いてくる。レイアーナさんは迷うことなく一つのビルを目指して飛んで行き、窓からするりと中へ入って行った。中に入ると、途端に大声で怒鳴る男の人の声が響いた。何を言っているかはわからなかったけれど、何となく英語だな、とは思った。ワイドンチュー、って言ってるみたいだ。次の瞬間、頭の中に声が響いてきた。
『だから私の言う通りにしろ。お前の耳は何のためについているんだ! 私の言うことを聞いて、従うためだ。今、すぐ、アポをとるんだ、分かったか!』
野太い声で伝わってきたのは、この壁の向こうにいる人の思念波だ。びっくりするくらい強い。壁一つ向こう側なのに、はっきりとした意思と力強さを感じることが出来る。
その思念波をもろに浴びていただろう人が震える声で答えているところにレイアーナさんが壁を通り抜けて入って行く。ちょうどその人が表情のない顔で繰り返し了承を伝えているところだった。
「ゴアウ エン……!」
『わかってるなら、さっさと動け!』
なんだか同時通訳を聞いているみたいに、相手の声と思念波が重なって聞こえる。部屋にいたのは大柄な中年の男性で、少し色の抜けたような金髪に、灰色の目が抜け目なく光っている、見るからに野心家といった感じの人だった。
『ジョンソン、相変わらず元気そうだな』
レイアーナさんが声をかけると、ジョンソンと呼ばれたその男の人は、怒鳴られていた人が部屋から出た途端に、急ににこやかな笑みを浮かべて両手を広げた。
『ようこそ、レイアーナ姫。この通り私はいたって元気です。あなたからいただいた受容体のお陰で、順風満帆といったところですよ』
そう言ってジョンソンはスーツの裏ポケットから、金色のチェーンのついた懐中時計を取り出した。金色に輝くその蓋には、びっくりするくらい大きなダイヤがキラッキラに輝いている。それを見たレイアーナさんは面白そうに、
『ほう、相変わらずジョンソンの思念石は満ちるのが早いな』
と言いながらジョンソンに近付いていく。ジョンソンは背も高く、レイアーナさんよりも少しだけ顔の位置が高い。大柄で威圧感半端ない様子なのに、レイアーナさんは全然動じない。それだけじゃなくて、
── こいつは野心家なだけに扱いやすく良質な思念波が得られる、いい協力者だ。
と考えていた。レイアーナさん、最強。
次回もジョンソンの話が続きます。
面白いな、次が気になる!と思っていただけたら、いいね、で応援してください。
感想いただけるとまりんあくあのやる気がみなぎります。
それではまたお会いしましょう。
皆様に風の守りが共にあらんことをお祈りいたします。