113 スマホが欲しい
怜奈VS母さんのスマホ獲得に向けた攻防戦です。
修整しました。(05.10.18)
しーちゃんのいない車内はとても静かだった。ほろ酔い父さんは助手席でうとうとしている。母さんはラジオから流れる花火の歌を小さく口ずさみながら運転している。父さんと違い曲とぴったり重なって聞こえる歌にさすがだなと思いながら、私はポケットの中の思念石を御守り袋ごとぎゅっと握りしめていた。
思念波をたくさん集めれば使える力も強くなる。考えてみれば当たり前のことだった。目に見えないから、力として使えるというのがピンときていなかったのだ。だけど、悠然さんが握手をする時に使っていたり、私がしーちゃんにしている事は、思念波の力を使っている。そのことを私が意識していなかっただけだ。レイアーナさんに言われたことが頭の中に響く。
『お前が意識してその力を使えば、誰もお前を止めることは出来なくなるだろう。やがて、お前の意思は周りの者にも影響を与え、誰でも意のままに操ることすら可能になる』
私が願えば、その通りに周りの人が動く。私が欲しいと言えば欲しいものが買ってもらえる。私が指示すれば、その通りに人が動く。思念波の力を使えば。……なんて魅力的な力だろう。
花火の間に、しーちゃんに気付かれないようにこっそりと聞いたこと。
『この力を使うことで、何かペナルティのようなものはありますか?』
『思念波の力は、この世界では認識されていなかったものだ。この世界では協力者以外、誰もこの力から身を守ることは出来ないだろう。レナの力が強くなるほど周りの者はレナの感情に同調し、その感情に支配されるようになる。レナが怒れば周りの者も同じように怒り、レナが恐れれば、周りの者も恐怖に巻き込むことになる。常に冷静でいることを心がけなさい』
『私の感情が暴走したら、どうなりますか?』
『周りにいるものの感情も同じように暴走する。攻撃的になれば周りも攻撃的になり、パニックを起こせば周りもその感情に巻き込まれて集団ヒステリーが起こる』
『それはどうやったら止められますか?』
『レナと同じかそれ以上に強い力を持つものなら止められるだろう。それ以外には自分で止めるしか方法はない』
『レイアーナさんなら止められる?』
『今はまだ可能だ。だが、これから先さらに強くなっていけば、わからない。私に肉体があれば可能だったかも知れないがこの世界には思念体でなければ来れない。そう遠くない未来に私の力でも及ばなくなるだろう』
『そんな……』
私が不安に思うと、ゆらりと思念波が動くのがわかった。
『そのように簡単に感情を揺らさぬよう、今のうちにコントロールを覚えなさい。レナが本当に災害を防ぎたいのであれば必要なことだ。常に冷静であれ。難しいとは思うがそれしか方法はない。満ちた思念石を持ち歩かないようにしなさい。近くに思念石がなければそれほど心配することはないはずだ』
最後にレイアーナさんは言った。
『お前たちが挑む相手は地球そのものの持つ力だ。それはとてつもなく大きい。そして本当に止めるつもりならば残念だが残された時間はそう多くない。……そろそろ時間だ。お前の決めた道だ。励め』
そう言い残してレイアーナさんは私から離れた。「常に冷静であれ」とても難しいことだ。
── 怖い。
そう思うとまた自分の思念波が少しざわりと動く。ゆっくりと呼吸をしてその波を抑える。焦らず、少しずつ自分で慣れていくしかない。……しーちゃんがいたら、止めてくれるかな。その時、
「怜奈、起きてる?」
と母さんが話しかけてきた。
「起きてるよ」
「もうすぐ着くわよ」
「わかった」
その夜。寝る前に私はリビングに行き声をかけた。
「父さん、母さん。お願いがあります」
すると母さんが、
「ハルヴェストの丘で言っていたことね。座りましょうか」
と言った。食卓の椅子に座わり向かい合うと一息に言った。
「私、スマホが欲しい。だから買ってください!」
すると父さんは、
「いいんじゃないか。そろそろ欲しくなるよな。詩雛も持っていたしね」
と言い、母さんも、
「怜奈が欲しくなるのはわかるわ。マナーをきちんと守って使うなら母さんも反対はしません。それじゃあ来月の怜奈の誕生日プレゼントはスマホにしましょう」
と言った。この言葉は想定内だった。けれど、私にスマホが必要なのは今だ。ぐっと力を入れて手を握ると母さんをしっかりと見て言う。
「ううん、今すぐに欲しいの。私が持っていたら、父さんや母さんにすぐに連絡できるでしょう。しーちゃんとも話せるし」
けれども母さんは首を振る。
「怜奈の欲しい気持ちはわかるけれど、何もそこまで急がなくてもいいでしょう。誕生日まであと一月ほどだから、その時でいいでしょう?」
……ここからだ。頑張って説得しなきゃ。
「夏休みの今だから欲しいの。明日からも父さんに付いていくつもりだけど、ずっと父さんと一緒ってわけでもないでしょう? それに、スマホがあったら調べ物も簡単に出来るし……お願い。誕生日祝いを前渡しにしてもらえないかな?」
「うん。怜奈は夏休みの今だから欲しいんだね。父さんは怜奈を信用しているから、いいと思うよ。」
すると母さんはあきれたように言う。
「崇俊さん、そんな簡単に認めていたら、教育上怜奈に良くないわ」
父さんはにこにこしながら、
「怜奈なら大丈夫だよ。こんなにいい子なんだから信用してあげようよ」
と後押ししてくれる。
── よひ、もう一押しかな。
そう思った時、ぶわりと私の思念波が動いた。
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外伝として少し未来のお話、姫様達の母星アレトの物語を短編集として冬童話2022にアップしています。現在冬童話内ランキング19位にランクインしています。こちらも是非応援してください。こちらから。
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皆様に風の守りが共にあらんことをお祈りいたします。