104 ハルヴェストの丘で楽しもう
長らくお待たせしました!短編の方が無事完結しましたので本編再開します。
ソーセージ作り、その後からのスタートです。
修整しました(05.9.17)
「……ソーセージにかからなかっただけよしとしましょう」
母さんがため息を吐きながら言うと、近くにいたスタッフのお姉さんが急いでタオルを持ってきてくれた。
「れーちゃん。それはあたしでもやらないよ?」
珍しく冷静なしーちゃんにツッコミを入れられてしまった。テーブルの上も床も氷水が飛び散って濡れていた。慌てて混ぜようとして大失敗しちゃった、がっくし。しょげている間にスタッフさんと母さんがきれいに拭いて新しい氷水も用意してくれた。私も母さんもナイロン製のエプロンをしていたおかげで服が無事だったことだけは良かった。
「ごめんなさい」
母さんに謝ると、
「とりあえず目の前のことに集中しましょう。話は後で聞いてあげるから」
「はい」
作業を再開し、何とかソーセージ作りが終わった。出来上がりは最終加工をし終わったものを、後で受け取るということなので、私たちは先に早めの昼食を取ることになった。花火イベントのある日は園内がとても込み合うそうで、後になるほど混んでくるらしい。
「れーちゃん、ソーセージ楽しみだねっ」
絶対おいしく出来たと思うんだよねー、と楽しそうに話すしーちゃんに適当に相づちを返しながら、私はスマホのことを考えていた。やっぱり、駄目もとで頼んでみよう。そして、たぶん駄目って言われるだろうから、その時はしーちゃんがやってたみたいに悠然さんの方法を試してみよう。そう決意している間に、母さんたちが注文を済ませていた。
昼食はフードコートの焼き立てピザ。ここのピザはハルヴェルト自家製のチーズやソーセージを使っている人気のものだ。早めに来たのが良かったみたいで、席も簡単に取ることが出来た。私としーちゃんがメロンソーダ、父さんたちは烏龍茶で乾杯をした。
父さんたちは昨日までの説明会の話で盛り上がっている。予想以上にお客さんが集まって大忙しだったみたい。しーちゃんが、
「お宝ざっくざくだったんだから当然だよね、早く本物が見たいー!」
っと言って、足をバタバタさせている。その様子をぼんやり見ていたら、前に座った母さんが、
「それで? 怜奈は何を悩んでるの」
と私の目をじっと見て尋ねてきた。私はすーっと息を吸うと、一旦深呼吸をしてから言った。
「母さん、私、スマホが欲しい」
すると母さんは、すっと目を細めて聞く。
「どうしてそう思ったの?」
ここからだ。私は自分の考えを頭の中で整理しながらゆっくりと話した。
「一番はしーちゃんが持ってるのを見たからだけど、私、しーちゃんと話すのが楽しい。だけど、引っ越ししちゃって簡単に会えなくなったから、離れていても話せるスマホが欲しいと思ったの。それに、スマホがあったらすぐに調べ物が出来るし、SNSで簡単に連絡が取れるでしょう?」
黙って聞いていたお母さんは、一呼吸置いてから言った。
「そう。怜奈ももう四年生だから、そういうのが欲しくなるわよね。じゃあ、帰ったらお父さんと相談しましょう」
「うん、わかった」
でも、「じゃあ、今度の誕生日に買いましょう」そういう流れになるだろうな。だけど私が欲しいのは今だ。もっと戦略を立てないと駄目だな。
焼き立てピザは絶品だった。ふわとろのチーズ。噛むとぷりっとした食感の後でじゅわーっと肉汁が口の中に広がるソーセージ。甘みのあるトマトソース。
「これはソーセージの出来上がりが楽しみね」
とみんなで盛り上がった。父さんたちが、
「これは絶対ビールに合うな!」
と母さんたちの方をちらちら見ていて、母さんたちが知らん顔しているのも面白かった。
たっぷり食べた私たちは、
「よし、腹ごなしだ」
という父さんたちと芝すべりへ行った。プラスチックのそりを持って、ひたすら階段を上がる。上に着くころにはもう汗だくになっていた。お昼を食べに行く人たちと入れ違いになったためか、比較的空いていて、四人並んで滑ることが出来そうだ。すかさずしーちゃんが、
「父さん、おじさん! あたしたちと勝負だよ! あたしたちが勝ったら後でソフトクリーム買ってね!」
と声をかける。するとおじさんが、
「よし。大人の実力を見せてあげよう」
とガッツポーズした。しーちゃんもニヤリと笑ってガッツポーズを返し、勝負の火蓋は切られた。
「「レディー。ゴー!」」
私としーちゃんの掛け声で一斉に滑り降りる。
── ええっ、こんなに速かったっけ?
私は途中でバランスを崩しかけて慌てて立て直す。その間にしーちゃんがバカ笑いしながら一気に滑り降りていき、そのままゴール地点で見事にすっ転んだ。それをしっかり見ていた私は、ゴール手前で軽く足ブレーキをかけて無事だった。しーちゃんが、
「れーちゃん、ずーるーいー。そこは一緒に転ぼうよ!」
と文句を言ってきたけれど、さらりと無視をして後ろを振り返った。遅れておじさんが、さらにその後から父さんが降りて来た。起きたしーちゃんが、よしっとまたガッツポーズを決め、
「やったね。あたしたちの勝利!」
と言うと父さんが、
「待った。三回勝負だ」
とくやしそうに言ってきた。しーちゃんが私の方をくるりと向いて、
「れーちゃん、どうする?」
と聞くので、
「いいんじゃない?」
と答えた。うん、悪いけれど負ける気はしない。すると父さんが、
「思ったよりもスピードが出たから途中でブレーキをかけてしまったんだ。今度は勝つからな」
と自信たっぷりな様子で言う。その後、
「でないと父としての威厳が……」
などとぶつぶつ言っている。こんなことで父の威厳とやらを示してどうするつもりなのかは今いちよくわからないけれど、ソフトクリームのためなら手は抜かないよ。
私たちはまた長い階段に挑んだ。結果、その後の二回とも私たちの勝利となり、最後の泣きの一回で、今度は私たち二人が一緒に乗ったそりで対決したけれど、あっさり勝利した。最下位になった父さんが後でソフトクリームを買ってくれることになった。
調子に乗った私たちはその後も時間ギリギリまで芝すべりを楽しんだ。
……あ、父さんたちは四回目でダウンしちゃった。明日筋肉痛になりそうだ、と泣き言を言っていて、思わず笑ってしまった。
お休みしている間に、PV8000、ユニーク3000
ブクマ52となりました。
そして、異世界でお買い物様から何とレビューまでいただいてしまいました。
そしてそして、なんとファンアートまでいただきました!こちらは活動報告に載せていますので、是非見て下さい!しーちゃんがいいです!
お休み中に読んで下さった方、更新を今か今かとお待ち下さった読者の皆様に感謝申し上げます。
感想もちょっとずついただけるようになりました。どんどん送って下さい! 面白かった、だけでも元気もらえます!
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短編は現在冬童話ランキング29位です。
惑星アレトのお話と、ちょっとだけ未来のお話載せています。こちらもお楽しみいただけると嬉しいです。
https://ncode.syosetu.com/n2812hj/
それでは、またお会いしましょう。
皆様に風の守りがあらんことをお祈りいたします。




