十五話 旅立ちの日(3/4)
「これより、勇者マサヨシの旅立ちの儀を執り行う!」
楽団によるファンファーレと共に、俺の旅立ちを見送るための儀式が始まった。
儀式と言ってもそう難しいものではない。
要は壮行会みたいなものだ。
ここで初めて、俺がカスティーラから送り出される勇者だと国民が知ることになるのである。
…と言っても、城近辺の住人は先日のテレンスとの決闘を観戦していた人が多いので、本当の意味での初披露ではないけどね。
しかしそうした人たちが俺の噂を流していたおかげか、この大広間のみならず国中が大賑わいだそうな。
音声のみだが、ラジオ放送もされているとのこと。
カスティーラの歴史上初となる勇者誕生の瞬間が国中に放送されるわけだ。
ラジオと言えば。
この国の通信技術はそこそこ発展しているようだが、あくまでもメカリカなどからの輸入が主なので、特別最先端の技術が導入されているわけではないらしい。
というよりも、メカリカが意図的に科学技術の一部を秘匿しているのだ。
この世界の文明の最先端を見るには、直接メカリカに行って確かめるほかない。
ケチ臭いと言えばそれまでだけど、ノーマが集まって作り上げた国だそうなので、イーマに対抗するにはそれくらいの警戒はして然るべきなのかもしれないな。
メカリカの都市部は、それはもうカラフルでメカニカルな雰囲気が漂っているらしい。
文明の利器に溺れていた俺としては、一度は訪れてみたい場所である。
……なんてことを考えている間も、儀式はつつがなく進行中だ。
今は王様が国の情勢だとか織り混ぜつつ、俺が勇者として旅立つことを決意した経緯を語っている。
ちなみに俺が旅立つ表向きの理由は、“【殺人鬼】を産み出してしまった責任と罪悪感から、勇者となって旅に出ることを決意した”となっている。
以前シックが言っていたことに乗っかった形である。
『しかし退屈だぜ。やる意味あんのかこの茶番?』
俺もそう思うけど…多分、他国に対する示威行為なんだろうな。
これから勇者を送るぞ!…っていう。
実際そんなことを最初の頃に言われたしさ。
『こんなことしてたら魔物に狙ってくれって言ってるようなもんだがな』
うーん…それも狙いの一つなんじゃないかな?
俺に魔王からのヘイトが向けば、カスティーラはともかく他の国だって作戦を立てやすくなるかもしれないし。
俺の存在だけが世界の命綱って訳じゃないと思うよ。
『そうか?あの王はそうは思ってなさそうだがな…』
王様の演説が終わり、次は旅の仲間の紹介へと移る。
と言っても、テレンスだけだけど。
テレンスが旅立つ経緯を説明する王様。
それにしても、テレンスが俺の配下ねぇ…。
何度考えても想像がつかない。
俺が「あれやって」とかいうと「ハイヨロコンデー!」ってやるのかな……?
いやいや、俺だってそんなテレンス見るのは嫌だ。
やっぱり、今の友達としての方が気分的にも楽でいい。
上下関係なんて面倒なだけだし。
それに、ただでさえ俺の方が素の実力は低いのだ。
そんな奴が威張ってテレンスを顎で使っても宝の持ち腐れだろう。
これからも厳しく指導してくれる立ち位置にいて欲しい。
テレンスの説明も終わった。
事前に教えてもらった流れでは、これから転移魔法でアーシア大陸の港町に送られる予定である。
海には強力な魔物がいるんだから港町の存在に意味はあるのか?と思ったが、これには理由があるのだ。
カスティーラが強固な防御壁を長年築き上げてこられたのは豊かな島国だからというのが強い。
それともう一つの要因として、アーシア大陸一の大国であるチナイリ国と懇意であるという点がある。
チナイリ国では島国よりもさらに豊富な資源と、広さを利用した農業などが盛んなのだ。
そしてカスティーラの食材の約六割は、このチナイリ国から輸入されているとのこと。
その輸入口となっているのが、カスティーラとアーシア大陸の間にある海を結ぶ港町と連絡船なのである。
今回はスムーズに旅を進めるために宮廷魔術師たちによる転移魔法で向こうの港町までひとっとびさせるとのことだ。
実際これはありがたい。
俺は船のような上下に揺れるタイプの乗り物は苦手なのだ。
マンガスにはそういった乗り物で魔王城へ向かえと言われたけど…。
できれば、飛行機くらい安定した乗り物がほしいところである。
『贅沢言うぜ。
そんなの探すよりかは自力で飛翔魔法覚えた方が遥かに楽だぞ?』
う…まあ、そんなところだろうとは思ってたけどさ。
結局、地道に色々頑張るしかないんだな。
『おう、苦しめ苦しめ。
世界を救うだの大層なこと抜かすんだから、それぐらいやりやがれ』
はいはい…相変わらず厳しいよなシックは。
旅立ちの儀も終わりか…と考えていると、王様がリハーサルにないことを言い出した。
「これで旅立ちの儀を終える…と言いたいところだが、実は先ほど連絡があった。
勇者マサヨシの旅に是非加わりたいと申し出る、二人の勇敢な若者が現れたのだ。
身元や実力等はこちらで調べ、問題がないことはわかっている。
その二人を今から紹介しよう」
え、俺の旅に加わる人がいる?しかも二人?
誰だろう…話しやすい人だといいけど。
『あー…この流れはあいつらだろ』
あいつらって誰さ?
ちゃんと言ってくんないとわかんないよ俺。
俺が困惑しているうちに、その二人が兵士に連れられて壇上へと上がってきた。
その二人は、なんと両方女性である。
片方は黒いとんがり帽子を被り、黒いコート、黒いブーツで全身を覆っている、黒髪の女性だ。
もう片方はいわゆるシスター服だが、青と白が基調で、その内側から桜色の髪が見えている。
………っていうか、この二人って。
「こちらの黒髪の女性は存じている者もいるだろうが、ギルドでは【高額狩りの魔女】として有名なイザベル・クロッカス殿だ。
我が国でもその働きを認め、栄誉冒険者と認定している。
勇者マサヨシのお供としては、これ程頼れる魔法使いは他におらんだろう。
続いて桃髪の女性はアリス・ブルーローズ殿だ。
彼女は教会で働いており、優れた回復魔法を習得している。
五ヶ月前のクーデター事件では、傷ついた兵士たちの治療を担当してくれた。その腕前は申し分ない。
勇者マサヨシとの旅でも、その癒しの力を存分に発揮してくれるだろう」
イザベルとアリスさんかよ!!
マジで!?
『だから言ったろ』
いやいやいやいや。
そんな素振りありました、か?
確かについてきてくれたら嬉しいなー、くらいは考えてたけどさ!
まさか、本当に来るとは…。
横目でみると、テレンスも動揺していた。
俺たちには知らされていない、締め切り間際の滑り込みという奴のようだ。
…いや、王様がスラスラ紹介しているところをみると、あっちの方が結託して今日まで俺たちに教えずに来た、という方が正しいみたいだな。
なぜサプライズにする必要があるのか…。
などと考えていると、イザベルから【脳波交信】が飛んできた。
『ひゃっはろー!
というわけであんたたちの旅についていくから、これからもよろしく頼むわね』
『突然にはなってしまいましたけど、こうした方がいいとイザベルさんに言われまして。
お二人とも、よろしくお願いしますね』
言いたいことは色々あるけど…。
俺より先にテレンスが発言した。
『いいのかよ。
俺がいうのもなんだが、結構大変な旅になるぞ?
戦い慣れしてるイザベルはともかく、アリスさんは大丈夫か?』
そうだ。
いくら回復魔法があるといっても、アリスさんはただの一般人だ。
こんな危険な旅についていく利点がない。
テレンスの当然の疑問に、アリスさんは真面目な口調で答えた。
『…私、どうしても行きたい場所があるんです。
行って、会いたい人がいます。
旅の目的は存じてますから、私も微力ながらお手伝いします。
その場所につれていってもらった後も、もちろんお手伝いします。
だからマサヨシさん。
私もこの旅に同行させてください』
どうしても行きたい場所か…。
アリスさんにとって、その場所に行くことは危険な魔物や魔族と戦うことよりも大切なことなんだろう。
覚悟も決まっているみたいだし、俺の旅の目的も手伝うと言ってくれている。
仮にその場所でお別れになったとしても、俺は文句は言えないし言わない。
何より、普段は人の為にばかり動くアリスさんがここまで言うのだ。
余程の事なんだろう。
なら俺は、最大限その願いを叶える手助けをするまでだ。
『わかりました。その代わり、しっかり後方支援をお願いしますね』
『…!はい、お任せください!』
アリスさんの嬉しそうな気持ちが伝わってくる。
戦いの最中はアリスさんに流れ弾とかいかないよう注意しないとな…。
それで、もう一人だけど…。
『イザベルもどこか行きたい場所があるのか?』
『別にないわ。
あたしはここに来るまでに四大陸全部回ってるし。
なんならマイナーな村の名前全部言ってあげようかしら?』
あれひっかけじゃなくて本当に言えるのかよ。
『い、いや。それはいいんだけど…。
じゃあなんで?』
イザベルの考えが全く読めない。
今までも読めた試しなんてないけど。
行きたい場所がないなら、何のためについてくるんだ?
『あんたの記憶とかまだまだ興味あるものも多いし、教えてない魔法だってたくさんあるわ。
それにほら、あたしがいれば他の魔法使いなんか永久にお役ご免よ?
あたしレベルの魔法使いなんてそうそういないんだから、ラッキーだと思いなさいな』
うーん…何だかはぐらかされている気がする。
アリスさんほど迫真の態度じゃないし。
何か隠してないか…?
俺が怪しげに思っているのを感じ取ったのか、イザベルは不機嫌な声になった。
『…何よ。あたしなんかいない方がいいってわけ?』
う…そう言われると弱い。
まあでも確かに、イザベルがいてくれるならそうそう困ることはないか。
魔法のエキスパートってだけでもお得なのに、その上豊富な知識と旅の経験がある。
何より、俺の秘密を知る数少ない人物だ。
話もしやすいし相談も乗ってくれる。
こんなに頼りになる人も他にいないだろうな。
よし!
『…いや。色々考えたけど、この旅にはイザベルが必要だ。
こちらこそ、よろしく頼むよ』
俺がそう返事すると、イザベルは嬉しさを隠しきれない声で返事した。
『初めからそう言えばいいのよ。
…よろしく』
アリスさんがクスッと笑った。
『やっぱり仲良しさんですね』
『なっ…!べ、別にそこまでじゃないわよ!
ただ利害の一致ってだけ!』
『利害って…その中身を知らされてないんだが』
『うっさい!あんたは黙ってなさいな筋肉だるま!』
『俺にだけ当たり強くねぇか!?』
『まあまあ、そのうち話せる時が来たら教えてもらうからさ…』
『ふふっ♪楽しい旅になりそうですね』
何だかんだ言って、俺たちは波長が合うのだろう。
この四人なら、きっと辛いことも苦しいことも乗り切れるはずだ。
だからこそ俺は、もっと頑張らなくちゃいけない。
勇者として。
リーダーとして。
この三人がちゃんとそれぞれの役割を全うできるようにするのが俺の仕事なんだ。
最初は上手くいかなくて、たくさん迷惑をかけるんだろうけど…。
それでも、俺は諦めずに戦い続けよう。
だってこれは、俺が願ったことなんだから。
世のため人のため、そしてなにより自分のために、俺はこの世界を救うと決めた。
なら俺は、この力が続く限り走り続けよう。
それこそが、俺の信じる“正義”なんだから。
ふと、脳裏に鮎の姿がよぎる。
向こうのみんなはどうしているかな…。
今の俺の状況を知ったら、きっと指を指して笑うんだろうな。
…戻れるのなら、あの頃に戻りたい。
でもこの世界で出会った人たちや、これから出会うであろう様々な体験のことを考えると、それはそれで楽しみなのだ。
行き来できるようになるのが一番都合がいいんだけど……。
なんて、さすがに多くを望みすぎか。
「では、旅立つそなたたちにこれを進呈しよう!」
そう言って王様が用意させたのは、翡翠色の小さなペンダントが四つ。
水滴のような形のその内側には、この国の国旗が刻まれている。
「我が国から発行される通行手形だ。
身分証明書にもなるゆえ、なくさぬようにな」
なるほど、国家間の行き来の際に使うのか。
確かにいきなり現れて「私は勇者です」とか、不審者にも程があるしな。
四人それぞれにペンダントが渡され、俺たちはそれを首からかけた。
準備万端。問題なしだ。
「それでは、勇者マサヨシとその一行を送り出す!
勇者マサヨシとその仲間たちよ!
その光輝く精神を持って、必ずや魔王の野望を止めてくれ!」
観客から歓声が上がる。
俺が右手に剣を構えて振り上げると、よりその歓声は大きくなった。
そして宮廷魔導師たちの掛け声と共に転移魔法が発動し、世界が歪んでいく。
さあ、冒険の始まりだ!




