プロローグ
―――ハイエルフの古き伝承より
異なる瞳を持つ者 影の兆しにあり
万象を灰へと還す炎と共に現れ
森の理を変える力を招くという
* * *
ああ、体中が痛い。
喉は焼けているように熱く、肺の奥も締め付けられる。
視界がぼやける。おそらく矢に毒が塗ってあったのだろう。
意識が朦朧としてくる。
「はあっ……、はぁっ……!」
足がじんじんとしてもう動かすことはできない。
ここまで来て、捕まりたくない。
後ろから、人間達の足音が聞こえてくる。
壁のような茨の隙間に無理やり体を入れて通り抜けた。
棘が体中に突き刺さった。
切り傷の痛みに震えが走る。
どこまで逃げればあきらめてくれるのだろう。
(なんで私がこんな目に……一体なぜ……)
私はハイエルフの村で生まれた。
ずっと疎外感を感じてきてはいたが、生活には困らなかった。
しかし、その村からついに昨日、追い出された。
今は人間に見つかり、まるで獲物のように狩り立てられている。
「よし、茨は焼き切った!これで通れるぞ!」
「さっきの毒矢が効いているはずだ!よく探せ!」
足音に続き、人間達の声が聞こえてきた。
もう、ここまでか……。
体がもう限界だと訴えてくる。
この巨大な倒木の影に隠れてはいるが、見つかるのも時間の問題だろう。
(まだ死にたくない……それとも、彼らの前に出て命乞いでもしようか……)
この世には神はいないのか、森は私を見捨てるのか。
諦めとともに、震える唇を動かした。
「助けて……」
一筋の涙が頬をつたう。
――その時だった。
奥の方からこちらに向かって足音が聞こえたような気がした。
そして、次に聞こえてきたのは、もっと異質な音であった。
パチン。
金属の乾いた音。
なぜだろう……安心できる……。
誰かがこちらに寄ってくる。
その人は、私を見て何か悩んでいるようであった。
そして、まるで傷ついた花を拾い上げるように、私に触れた。
まるで、生まれて初めて他人のやさしさに触れたような気がした。
(ああ……温か、い……)
何故だろうか、もう大丈夫だという安心感が胸に満たされていく。
そのまま私の世界は完全な暗闇へと落ちていった――。




