70 人避けの結界の理由
「エルフ!見てみたい!」
ライトの少年らしさが出た一言に、
「多分、女エルフだヨ」「そうだな」「もうでてこなくていいわ」
女性陣は引き気味だ。
魔石をマジックバックにしまって、街道に戻りアカマット村に向け歩き出す。
「なんで人避けの結界をつかったんだろう?」
ライトが疑問を口にする。
「エルフは絶滅危惧種なんだヨ」
「どういうこと?」
「少なくて珍しいくて、高く売れるんだヨ」
「ナーラも捕まって売られたって言ってたけど・・・」
「エルフはドワーフよりももっと厳しい現状だヨ、だから人とエルフは仲が悪いと言われているから、
人に見つからないようにしているんだと思うヨ」
「でも、変ね、なんでわざわざ人通りがある所に結界なんて張ったのかしら、
もっと人のこなそうな森の奥とか山の上とかなら安全そうなのに」
リータがもっともなことを言う。
「何かあったのかなぁ」
「う~ん、わからないヨ」
色々と話し合っていたら次の村が見えてきた。
ライト達の姿をみて、村の人が驚いている。
「子供たちだけでよく街道を通れたな」
村の入り口に立っていた、簡単な武装をした若い男の村人が言ってくる。
「何かあったのですか?」
「ここ最近、街道が通れなくて森にも入れないんだ」
「それ「私達が通った時は何にも無かったヨ」」
ライトの言葉にヨークが被せる様に言う。
メンバーもヨークの意図を悟り余計な事を言わない。
「そうか、後で確認してみる」
村人はそう言って村の中に通してくれた。
この村は森が近く、アカマット村に雰囲気が似ている。
「どうする、ライト?」
ヨークが聞いてくる。
「気になるね、森のほうも見てきてみよう」
「そうだな、村の人も困っているし」
「森に入るな!」
声が響き、ライトより少し小さい男の子が森の進路で手を広げ通せんぼしている。
ライト達は顔を見合わせ、ヨークが一歩、男の子に近づき、屈んで聞く。
「どうして森に入っちゃだめなの?」
「そ、それは、化け物がいるからだ」
「私達は冒険者だヨ、危険な化け物がいるなら退治してくるヨ」
「お前たちなんかじゃやられちゃうよ」
「ロイド!」
今度は母親らしき人が来て男の子の腕を引っ張る。
「ごめんなさい、冒険者さんたち、この子、数日、森に入ってて、昨日帰って来たんです。
それからは誰も森に入るなって」
「そうですか」
ライトが母親に対応して
「ロイド君、悪いようにはしないヨ、お姉ちゃんに何があったか話してくれないかな」
ヨークはそう言いながら古エルフ語の本を男の子に見せる。
ロイドは本の表紙の絵とヨークの顔を交互に見て考えている。
ヨークは微笑みを浮かべたまま、微動だにせずこたえを待っている。
「た、助けてあげて・・・」
ロイドが涙ながらに絞り出すように言う。
「わかったヨ、任せて」
ヨークはロイドの目尻の涙を指で拭いて、頷いてロイドの頭を撫で立ち上がる。
「行こう!」
ライトの声にDKパーティーが動き出す。
春の森は新芽が芽吹き、新たな命がエネルギーを振りまきながら活動を開始する。
そんなイメージだったがこの森は異常なほど静かだった。
森の中は人避けの結界が張られているが、ライト達はもう知っているので恐れることはない。
「あったわ」
少しだけ先行しているリータが指をさし、その先に例の靄が見える。
「簡易鑑定には引っかからないみたいだヨ」
ヨークは片眼鏡をしているが、見えないようだ。
リータは靄に近づき、魔石に手を伸ばそうとした瞬間、後ろに飛びのいた。
ダンっ
近くの幹に矢が刺さるが、
明らかに威嚇なのがわかるようにリータからは外されていた。
「人の子よ、立ち去れ」
ライトは鳥の鳴き声か歌を歌っているかのような声の方を向き、
「助けに来ました!」
ライトが真っ直ぐに言い返す。
「何か困ってるんでしょ!」
ヨークが続けて言う。
木陰からケリーより少し背の低い金の長髪で紅い目、緑色を基調とした衣服、美麗な赤い弓、そしてナーラよりも更に長い耳を持つ美しい容姿をした女性のエルフが姿を現した。
日の光を後ろから浴びて、髪も衣服も光っているかのようにライトの目には見えた。
「我はオカリナ・・・ぐっ・・人の子よ助力をお願いします」
そう言ってエルフは膝を付く。
ライトが近づいて見ると
体中、傷だらけで、細い左太腿には包帯が巻かれているが、血が滲んでいる。
「大変!ヨークは胸にヒールを、リータは包帯を切って、ケリーはポーションをお願い」
ライトは指示を出しながらマジックバックからポーションを数本だしてケリーに渡す。
「わかったヨ」「はい」「了解」
ライトはオカリナの手を持って平な場所に身体を横たえる。
ヨークはヒールの詠唱を始め、
(細かい傷もそうだけど、古い傷もたくさんあるヨ)
リータは素早くナイフで包帯を切る。
「矢傷・・・鏃は?」
「・・・取れず」
「切るわよ」
「うん、リータが一番上手いから任せる」
リータは腰からブッチャーナイフを抜き躊躇なく傷口を更に倍の長さに切る。
「うぐっ」
オカリナの口から呻き声が漏れ、ライトの手が強く握られるが、
リータはお構いなしに傷口を広げ、指を突っ込む。
「あったわ」
返しのしっかり付いた鏃には固まった血がこびり付いていた。
「ケリー」
「おう!」
ドバドバとケリーが傷口にポーションをかける。
傷口からは余り白い煙がでないのは、人ほどポーションが効かないのかもしれない。
リータは皮袋の水で手を洗い、自分のポーチから弦と針を出す。
ケリーがポーションを2本かけ終わるとすかさずリータが切った傷を縫い始める。
「ハァ・・・ハァ・・我はエルフ、人の子のポーションより、水属性の魔力を所望いたす」
ライトはケリーと交代して、リータが素早く縫い合わせた傷口の上下に手を置いて水属性の魔力を流す。
「ぐっ・・・・は・・・・これ・・・はぁ・・・んぁ」
ドンっ
ヨークがライトを乱暴に突き飛ばす。ヨークのヒールで細かい傷はだいたい塞がったので、
「はい、交代だヨ」
そう言ってヨークが傷口近くに手を置いてライトの代わりに水属性の魔力を流す。
「ハァ・・・ありがとう、あなた方は?」
「冒険者パーティーDKのヨークだヨ、
ファイターがケリーで切って縫ったのがリータ、そして、あれがリーダーのライトだヨ」
突き飛ばされ、泥に頭からダイブして、自身にクリンを掛けているライトをヨークが顎で指して教えている。
「ライト、助けて頂いて恐縮なのだが、近くに我の仲間がいるのでそこまで連れて行ってもらえないだろうか?」
「ケリー、お願いだヨ」
「おう」
ライトの返事を聞く前にヨークがケリーに指示を出す。
ケリーがそっとオカリナの膝裏と背中に手を刺し入れてお姫様抱っこをして持ち上げる。
ライトにはなるべく触れさせない方針のようだ。
どうせ、ライトがこの頼みを断るわけはないのだから。
「仲間は無事なんですか?」
ライトはオカリナに尋ねる。
「我より傷が深く、動けないので結界を張ったのだ」
「急いだほうがいいか?」
ケリーが聞くが
「彼のものは我より生命力が強いからすぐに死に至ることはない」
オカリナの案内で小さい丘を越え、仲間の方へと皆で歩いていくが、
人避けの結界は張っていないはずなのに、空気が重くなっていくのがケリーにもわかった。
「「「いる」わ」ヨ」
3人の言葉がかぶる。
「ガァーーー!」
「静まれ、ポポ」
オカリナが手を下にかざしながら言うと
「ガゥ」
ポポは素直に伏せの状態になる。
吠えたのは全長3メード以上ある猫の様な顔に鬣をはやし、背中には傷ついた翼が対に生えている。
「我の友、マンティコアのポルポローネだ」
「マンティコアー!」
ライトが叫びながら近づいていく。




